こちらの4冊を読みました。

本日読了したのがこちらです。↓

以前↓草薙氏のこちらの本を読ませて頂き、同著者の本書を手にとりました。

「発達障害と少年犯罪」のなかでも触れられていた「奈良エリート少年自宅放火事件」の犯行少年は、全国屈指のエリート校東大寺学園高校に通う、IQ136の天才少年であると同時に、広凡性(こうはんせい)発達障害と言う、生まれつきの特性をかかえていました。

広汎性発達障害の基本的な特徴・・ 対人関係において相手の感情をうまく読み取れない、一つの物事に集中すると他のことに注意が向かない(固執、こだわり、反復)傾向がある。

2006年に起きたこの放火殺人事件では、少年Aは医師である父親の不在中に火を放ち、継母(医師)と2人の異母姉妹(次男7歳、長女5歳)が亡くなりました。


少年 A の父親は医師であり、少年Aも将来は医師になることを強く期待されるなか、父親の日常的な「勉強の監視」における暴言や殴る蹴るなどの虐待により、少年は精神的に追い詰められ最終的に家に火を放ちました。

「父親の暴力に対する積年の恨み」がある一方で、何故父親が不在であった時間に火を放ったのか、少年の犯行動機と反抗の間には齟齬が見られ、またその後の行動にも不可解な点が多かったため、少年の精神鑑定をした結果、「広汎性発達障害」がみつかりました。

幼い頃から受けた「父親からの異常なまでの 教育への執着」により、抗鬱状態にまで陥ってしまった少年の恐怖が、手に取るように描かれている本書でありますが、私は「少年Aの父親像」にフォーカスをあててみたいと思います。

「発達障がいの7~9割は遺伝性である」と、精神科医の岡田尊司氏が指摘するとおり、 少年 A の医師である父親にも、「広汎性発達障害」が原因であろうとみられる点が多々みられます。

父親自身も祖母である母から「医師になること」を強く強要され、厳しい教育(虐待)を受けてきた過去があります。広汎性発達障害の特徴の一つである「白黒思考からくる完璧主義」は、「息子を医師にするために、絶対に医学部に合格させなければならない」という、父親の強い固執が、息子の成績が思わしくなかったり、目の前で問題が解けなかった時に「逆上」をしてしまう姿となってあらわれています。

父親は元妻への暴力が日常茶飯時であり(グーで殴る等)、それを原因として前妻( 少年 A の実母) と離婚をしています。離婚をするまでは少年 A の勉強を前妻に強く監視させる生活でしたが、離婚後は父親が毎日つきっきりで 少年 A の勉強を見るようになり、息子への逆上が日常となりました。

前妻の証言p73
私は毎日、元夫からの暴力に耐えて生活していたのですが、元夫の暴力はだんだんとエスカレートしていき、毎日暴力に怯え、このままでは殺される、と思い始めるようになっていました。中略

元夫は事あるごとに、ええところの娘やと思って結婚したのに、金を出せ、(病院の)開業資金を出してもらえると思って結婚したのに話が違うやないか、と私に文句を言っていました。


更には父親の女性問題なども原因で離婚となり、その後は下の妹は母親に、少年 A は父親に引き取られています。

父親の証言p90
「私自身息子には母親がいないというハンディがあることも十分わかっており、その穴を埋めるために日曜日には出来る限り外での情操教育を心がけ、色々な所へ息子を連れて行きました。」

父親は 自分の子育てを、息子に手をあげることはあったものの、自分なりに一生懸命に関わってきたことも証言しています。父親には息子への愛情がなかったわけではなく、息子を深く愛しながらも、「母親のいない息子を自分が立派に育て上げ、医師としての成功を授けたい」という自らの拘りが、過度な教育虐待へと駆り立ててしまいました。

父親は息子を虐待しているという自覚はなく、父親自らがテキストの予習勉強をし、息子に教えるほどの熱心さでした。

P113引用
父親の証言「このように私自身が努力して教えているのに息子が理解しない時などは、腹が立って感情に任せて息子を殴りつけたり、髪の毛を引っ張って怒鳴りつけたこともあったのは確かです」


日曜日のたびに息子を色々な所へ遊びに連れて行く父親に、息子への愛情がなかったはずがありません。しかし、息子に対しての〈溺愛・執着・依存〉をすればする程に、その期待を裏切られた時の怒りを爆発させてしまいました。父親が持つ「広汎性発達障害」には、感情の抑制を理性で止めることの難しさがあったと思われます。


自分の弱さからくる「依存性と暴力性」を「相手への叱責」にすりかえることで正当化をし、相手の苦しい感情に「見て見ぬふり」をしてきた父親(もしくはその障害により、本当に全く気が付かなかったのかもしれない)は、最終的にすべてを失ってしまいました。

父親は「息子が戻ってきた後には、命をかけて責任をもって息子を更生させ、息子と二人で罪の重さを背負って生きていきたい」と述べていますが、裁判所はその方向性には疑問を唱えています。

P243引用(裁判所の鑑定書より)
「父親の衝動性や攻撃性は病的である。中略
父親の衝動性や攻撃性を考えると、少年自身よりも父親の方が問題なのかもしれない」

少年 A は優しい子供で、高校でも友達が沢山いたそうです。少年Aは父親のいない自宅に放火をしたあと、家を飛び出しました。

幼い頃から暴力を受け続け、殺したいほど憎んだ父親を殺さずに、父親と2人だけで写った写真たてを持って逃げた少年A。最後に父親との写真を鞄に入れた少年の胸のうちには、どのような感情が流れていたのでしょうか。

(本書表紙・少年Aの自筆より・パパへの殺人計画)


おわり