「顔の差別で人は死にます」
~石井政之さん~
もしも自分が見た目に疾患を抱えて生まれてきたとしたならば。作者の岩井建樹さんは、顔にアザを作る特殊メイクをして街を歩いてみました。
石井さん「 岩井さんのような人格が完成されたおっさんがやっても、そりゃ心が大きく揺れることはないでしょう。思春期の子や若い女性がアザメイクしたら、全然違うレポートになったでしょうね。場所も公園野外頭だけではなく、婚活パーティーとか見た目が重視されるところに潜入してほしかった。 どれだけ異性に相手にされないか、はっきりと分かるから」
もしも私が 顔の大半を覆うような 大きなアザメイクをして、婚活パーティーに行ったならば。
「見た目の美しさ」が その場での評価のほぼ全てを担うであろう場所で、私は男性に笑いかけ、他の美しい女性たち以上に、堂々と自分をアピールすることができるのでしょうか。
また、呉服という美しい着姿を求められる営業で、顔に疾患のある 販売員を見たことがありません。顔に大きなあざメイクをして店頭に立つことは、果たして許されるのでしょうか。 いや、呉服屋に限らず「営業」の世界においても、「見た目」が営業職採用の大きな基準となっていることは否めません。
石井さん
P184 ユニークフェイスの人達は、外見が普通とは違うがゆえに、「学校でのいじめ」「就職差別」「 恋愛・結婚できない」 と言う三つの困難に直面します。 コンプレックスを抱いている人が多く、 三つ全てをクリアできる人はなかなかいない。
2018年の夏、顔に疾患を持つ10歳の少年を木を描いたアメリカ映画「ワンダー 君は太陽」が上映されました。
この映画はフィクションですが、差別を乗り越え 同級生の子供達の心を掴んで行く様子が描かれています。「世の中には嫌な奴もいるけれど、友達の裏切りにだって会うけれど、僕を支えてくれる人は沢山いる」そんな勇気を与える映画でした。
でも、そんな人たちばかりではないからこそ難しい。
「外見に症状のある僕の長男が、どうやって生きていけばいいのか」 この本の作者である 岩井建樹さんが 常に問い続けている課題です。
本書には顔に疾患を持って 生まれても、それを跳ね返して力強く生きていく人々の姿が描かれていますが、辛い差別に潰れてしまい、家から一歩も出られない人や、自殺にまで追い込まれてしまう人もいます。この本は幼い息子さんが、思春期を迎えた時に手に取ってほしいと願って書かれた本ですので、差別に負けずに強く生きている人たちの取材特集とも言えます。人間は「考え方」を変えるだけで現実を跳ね返すことができるのか。 どのような外見をもってしても、本人の努力や笑顔で それを乗り切ることができるのか。
岩井さんの模索の日々は続きます。