昨日、仕事中に 大変お世話になっているお得意様の息子さんから、突然の電話を頂いた。

お得意様がお亡くなりになったという。
大変優しく、穏やかなお客様であった。
私が独身の頃から、それはそれは 可愛がって下さった。
体調の悪い様子はお見受けしていなかったので、私にはとても急な事であった。

生前の穏やかで優しい笑顔が、脳裏に浮かんでは消えていく。


「 母が今まで購入した着物について伺いたいんです。どんな着物で、どんな所に着ていけるのか。
妹が、これを機に母の着物を着たがっているのです。」

私は基本的に、お客様にお求めいただいたお着物は ほぼ写真に収めさせていただいている。
伝票に貼り付け、すぐにわかるようになっている。こうすることで、10年前のお着物でもすぐに色柄を思い出せる。

そのお客様の伝票にも、1枚1枚 お着物とともに笑顔で微笑んでおられる写真が 全て添付されていた。

「 私が着物の伝票にその説明を添えさせて頂きます。お母様のお着物姿のお写真もたくさん添えられています。全て 差し上げます。」

「 助かります!!」

私は、伝票の1枚1枚に、その作家名や産地、特徴などを書き記していった。どのような場所に着れるのか。季節はいつなのか。


その日のうちに息子さんが取りに来てくださった。お得意様に似た 穏やかな優しい人柄の息子さんで、 人格者のお母様のお子様は やはり人格者であるなあと 感心してしまった。
私達は、お母様のその穏やかな人柄に思いを馳せた。

息子さんはとても嬉しそうにお母様のお写真を1枚1枚ながめ、私の着物の説明を一生懸命に聞きいってくださった。

「 生前、母の着物姿と言うものを1回も見たことがなかったのです。」

「 これからは、ぜひお嬢様にお母様のお着物をお召しになってくださいとお伝えください。お母様は、きっと きっと喜ばれます。照れ 」


55歳の生涯であられた。


人は ある日突然にその生涯を閉じてしまう。
こちらの心づもりなど何一つお構いなしに。

残された我々には、故人の笑顔だけが 頭に浮かんでは消えていく。どれだけ涙をし、嘆き悲しもうとも  残されるのはその笑顔の記憶のみ。

その中にあって、着物というものが どれだけの価値をもつのか。着物は、形見にもなりうるものである。その精緻な絹物に 袖を通す時には。今はなき 故人のぬくもりが 着る人や見る人の、心や体を何度でも 温かく優しく包み込むのであろう。




歌詞

作詞作曲中島みゆき