1年間の経営成績を示す損益計算書を見ると、本業のもうけを示す営業損益の赤字は新型コロナ禍の低迷期から脱して前期から72億円改善し、499億円となりました。一方、赤字を補う経営安定基金の運用益が315億円にとどまり、経常損益は111億円の赤字。国の助成金159億円などを特別利益に計上し、最終損益でなんとか4期ぶりの黒字を確保したかたちです。

 営業赤字は確かに巨額です。ただ、1987年の国鉄改革で発足したJR北海道の事業モデルは「年間500億円程度の営業赤字」を想定していました。その意味で昨年度は初期の目標をほぼ達成しています。

 過去をさかのぼっても、コロナ禍の影響を受けた20~22年度の3年間を除きこの目標を毎年クリアしています。人口減少などによる乗客減に人員削減や事業多角化で対応し、道民も路線廃止や運賃値上げを受け入れてきた結果です。

 決算から読み取れる構造的な赤字の根本原因は、経営安定基金の運用益が少ないことです。事業モデルが想定した年間498億円に183億円足りません。

 37年前の国鉄改革で、当時の政府は国債金利などから同基金を年利7.3%で運用できると甘く考えていました。その後、金利が急低下し、運用益は激減。この点でJR北海道を責めることはできません。先行き不安定な「基金方式」を採用し、しかも金利の見通しを誤った国の責任です。

 決算では運用益の不足分を、国の助成金などで補いました。国の失策で生じた構造的な赤字を、国の支援で埋め合わせたのです。ところが現在の法律(改正旧国鉄債務処理法)では、こうした支援は30年度で終了します。9000億円を超える純資産がありますから、倒産することは考えにくいですが、経営自立の前提となる新幹線の延伸開業が延期されたのですから、同法の再改正など法的な対応は必須でしょう。

 そうした中で、JR北海道はどうすれば経営自立できるのでしょうか。同社は「国からの支援を受けずに最終黒字を確保できる」状態と定義しています。それは国からお金を一切受け取らないという意味ではありません。同社が19年に公表した説明資料「『経営自立』を目指した取り組み」で、年間200億円程度と見込まれる収支不足分の増収策について「国や沿線自治体などと協議する」としています。

 「国との協議」の焦点は、昨年度は159億円に上った助成金の扱いです。青函トンネルの修繕費や、貨物列車走行に必要な設備投資などに充てられました。前者は公共事業の性格が強く、後者はJR貨物への実質的な支援です。その財源である運用益が激減した今となっては、国やJR貨物に負担してもらうのが筋です。このお金をJR北海道による業務の対価として営業収益に計上できれば、それだけで経営自立に向け大きく前進します。JR北海道は、こうした措置を国に求めています。

 一方、「沿線自治体との協議」では、単独では維持困難とする「黄色線区」の抜本的改善方策をまとめ、道や沿線自治体に一定の負担を求める考えです。構造的赤字の原因は国の失策にあるのですから、そのツケを地方に押しつけるのはお門違いです。とはいえ利用者が減っている線区を放置すれば、いずれ廃線対象になってしまいます。道や市町村が負担に応じるのなら、公共交通体系を維持しながら観光客誘致などで地域経済の振興にもつなげる前向きな方策に知恵を絞る必要があります。

■貨物路線 維持策どうなる

 JR北海道の経営自立を大きく左右する要因として、貨物路線の扱いも注目されます。国は鉄道貨物輸送を2030年代前半までに倍増する目標を掲げており、貨物路線の活性化は喫緊の課題です。

 貨物輸送を担うJR貨物の経営は、JR旅客各社に支払う線路使用料を実際にかかる費用より安く抑えることで成り立っています。これがJR北海道の大きな負担となっています。

 当面の焦点は、貨物専用路線となる公算が大きくなった北海道新幹線の並行在来線函館-長万部間の維持策です。現在、議論を進めている有識者会議は25年度中に結論を出す予定。貨物路線の維持に誰が責任を持つのかが論点です。

 JR旅客各社に支払う線路使用料を定めた協定の更新期も27年に迫っています。赤字を抱えるJR北海道が、JR貨物を実質的に支援する倒錯した状況を解消できるかが焦点です。さらに新幹線の並行在来線の運営会社に支払う線路使用料を鉄道・運輸機構が肩代わりする「貨物調整金」制度も、このままでは財源が枯渇します。政府・与党の申し合わせでは31年度からは新制度へ移行することになっています。

 一連の議論を経て、国が責任を持って貨物路線を維持する仕組みができれば、JR北海道の負担は大きく軽減することになります。

 特別編集委員兼解説委員の鈴木徹です 国が3月に出した監督命令書の冒頭にこう書かれています。「JR北海道は、地域の人口減少や他の交通手段の発達に伴い厳しい経営環境に置かれ…」。自らの責任を認めない国の姿勢がこの一節に表れています。本当は「低金利による基金運用益の減少で厳しい経営環境に置かれ…」が実態です。「国は地方公共団体に負担を転嫁するような施策を行ってはならない」(地方財政法第2条)事を肝に銘じるべきでしょう。