プロ野球日本シリーズでヤクルトに敗れて日本一こそ逃したものの、25年ぶりのパ・リーグ優勝を果たしたオリックス。2年連続最下位からの躍進の陰には、一人のベテランの存在があった。今季、阪神から移籍してきた能見篤史投手兼任コーチ(42)。若手の多い投手陣を精神的な柱として支えただけでなく、日本シリーズでも阪神時代以来、7年ぶりに登板し、自らの役割をきっちりと果たしてみせた。
セ本塁打王と対峙
「能見の5球」にスタンドはしびれた。ヤクルトが日本一に王手をかけて迎えた11月27日の日本シリーズ第6戦。1-1のまま延長戦にもつれこんでいた十一回、能見は無死からリリーフ登板した。
相手はセ・リーグの本塁打王、4番の村上宗隆(21)だ。慎重に入り、フォークボールとストレートが外れて2ボールとなったが、落ち着いて外角ストレート、内角シュートで追い込む。最後はストライクゾーンからボールゾーンへ落ちるフォークで体勢を崩して左飛。高めには投げない、お手本のような投球でマウンドを降りると、球場は拍手に包まれた。
「四球とホームランが一番ダメ。後ろにいい投手がいるので最悪ヒット。そういう意識だった」。完璧なワンポイントリリーフを、歴戦の左腕はこう振り返った。
頼れる〝叔父〟
17年目のベテランの今季成績は、26試合に登板して0勝0敗2セーブ5ホールドで防御率4・03。投球回も22回3分の1と限られていたが、数字では表せない貢献があった。
投手コーチとしては若手に的確なアドバイスを送った。「伸びしろのある選手ばかり。成長していきながら、能力をいかに発揮できるかだった」。18勝を挙げ、最多勝や最優秀防御率、そして沢村賞を獲得したエース山本由伸(23)は「投球フォームとかを見てくれている」。先発登板中でも、ブルペンにいる能見に助言を求めることもある。
13勝を挙げた高卒2年目の宮城大弥(20)も「直接的じゃなく、自分で気づけるヒントをもらえる」と話す。試合前、練習を終えてベンチへ引き揚げるときはいつもいっしょ。22歳差の2人が並んで話す姿は親子ともいえなくもないが、仲のいい叔父とおいっ子という感じだ。
胴上げで「軽っ」
投手としては、日本シリーズのようにここ一番で存在感を示すこともあったが、基本的には一歩引いた存在だった。
チームは今季、リリーフ投手の3日連続登板を禁じたが、それは連戦などいかなるケースでも守られた。大差のリードを許し、ベンチとしてはリリーフ陣を消耗させたくないというとき、能見が登板。若手リリーフの温存にひと役かったのだ。ポストシーズン前の実戦形式での練習でもマウンドに上がり、黙々と打撃投手を務めた。
表に裏にチームのことを考え、献身的に動いてきたベテラン。ナインはそれを十二分に知っていた。10月27日にリーグ優勝を決めた際、中嶋聡監督(52)、選手会長の吉田正尚(28)らに続いて胴上げされたのが能見だった。180センチ、74キロの体は3度宙に舞った。「皆に『軽っ』って言われた。選手たちに感謝です」と充実感に浸る。
日本シリーズの敗戦で「教え子たち」は悔しい思いをした。「若い子がいろいろ経験して、確実に成長してくれている。まだまだ伸びる選手ばかり。来年またしっかりやってくれると思う」と優しくて厳しい視線を向ける。今後、軸足はコーチの方に置くとみられるが、あの美しい投球フォームをマウンドでまだまだ見たいファンは多いはずだ。