大原扁理さんの「フツーに方丈記」の感想
方丈記ってどんな話だったか覚えていますか? わたしは実は全然覚えておらず、恥ずかしながら方丈記と聞いてもなんだったけ?という印象でした。
方丈記は鎌倉時代に鴨長明という僧侶が書いた随筆。当時の伝統、宗教、家族観、に縛られず、自分の考えに沿って生きていた鴨長明の隠居生活を書いたものです。震災や疫病についての描写、その際の都の生活や価値観への疑問なども書かれています。
大原さんはこの方丈記を読んで「どんなに新しい疫病や震災が起こっても800年前と起こる事って変わらないんだな」と感じたそうです。大原さんによる鴨長明の紹介と、大原さん監訳のあたらしい方丈記は飄々と書かれていて面白くどんどん読むことができました。
2章の「コロナ禍に方丈記を読みながら考えたこと」では、大原さんが東京郊外での隠居後台湾へ居を移したこと、また一時帰国中にコロナが流行し、台湾へ帰れなくなったことが書かれていました。今は愛知のご実家で介護をしながら生活されているそうです。
ここで大原さんはコロナ禍の特徴は社会生活を最小限に制限されることだったと書かれています。そしてもともとの生活が最小限だったためほぼ変更なしだったそうです。
こういうとき最小限が最強かもしれないなと感じました。
わたしも少ないお金でほぼ最小限の暮らしをしていますが、そうすると何かあった時にすぐ動けて柔軟に対応しやすいということを実感しています。
最近はいい意味で未来に期待していません。その代わり今の自分の気持ちを大切にするようにしています。
ところで作中内でコロナ禍での新しい大原さんの娯楽、BL談義が面白かったです。そう…わたしは腐女子なのですが、BLの何がいいって共感ゼロの癒し100だから読んでいて疲れないんですよね笑 だからわたしは精神的に落ちている時に読みます。でも大原さんはキャラに共感してしまうみたいで…そこの視点の違いが面白かったです。
コロナ禍ではそういった没頭できる趣味を持っているのがいいですよね。
わたしも新たに水彩色鉛筆でポストカードのイラストを描くことと、お菓子を手づくりするという新しい趣味ができました。
大原さんは今親御さんの介護をされているということで、実際の体験談だ書かれているのですが、非常に貴重なものだと思います。介護を「時間を所有する」という考え方からも離れていく練習と書いていて大原さんらしい面白い考えだなあと感じました。
「人間は本当は誰もが誰かの時間をもらって生きていたんだな」という気づきはハッとさせられましたし、これから先折に触れて思い出しそうです。
想像力についての話もぐっとくるものがありました。「役に立ってない自分や他人が許せないと思うときって心と体がかなり疲弊しています。」そうですよね。ちょっと前まで「売れてない作家の自分は価値がない」と落ち込んでいた私にささります…
つい社会に役立つ人間でなくては…と思ってしまうのでまだまだ自分をケアする練習が必要そうです。
とにかくこの一冊で三冊読んだくらい内容が濃いのですが笑
ともすると重くなりがちなテーマもコミカルに書いてあるのでするする読めちゃいます。大原さんの本はいつもほんわり優しい光で照らしてくれるようなほっとする感覚を与えてくれます。
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