(コラム全文引用つづく)
次第に、憲法改正に近づくための新しいツールであったはずの「感染症対策」が、やがてWHOの望む「国民を合法的に縛るための憲法改正」へとすり替わっていく。
先に挙げた集会の直後に行われた2021年5月6日の衆議院健保審査会では、当時、自民党憲法改正実現本部事務総長であった新藤義孝経済再生担当大臣を中心に議論は進められていく。

憲法に緊急事態条項がないから、「感染症まん延時であっても私権制限ができない。それは法的不備である。」という。緊急事態条項の必要性が強調される流れが作られ、感染症対策の強化はきわめて重要だという論調に向かっていった。

2023年7月、安倍晋三元首相暗殺事件の3日後、アントニーブリンケン米国務長官が岸田首相を弔問した際、同日に自民党本部で記者会見を行い、首相は「改憲は安倍氏が特に情熱を傾けてきた案件だと指摘し、緊急事態条項を含む改憲内容で(国会が発議できる総議員の)3分の2を結集しなければならない。できらだけ早く発議に至る取り組みを進めていく」と述べた。

ラーム・エマニュエル駐日米大使が、強引かつ執拗に成立を求め続けてきた結果、自民党議員の8割が反対していたにもかかわらず、LGBT理解増進法が議長一任という掟破りで急遽可決した際の内政干渉疑惑をも彷彿させる一件だ。

その後、2022年12月には参院本会議で改正感染症法などが成立し、医師や看護師以外でもワクチン接種を行えるようにするほか、感染の怖れのある人に自宅などでの待機を指示できるようにし、従わない場合などは罰則を科すことも盛り込まれた。
IHRの改訂で強く懸念されている強制医療の下地は、こうして着々と進められている。

2023年の衆議院憲法審査会においては緊急事態条項における論点整理は加速し、自民、公明、維新、国民、有志の5会派による共通認識は自民党主導で醸成されていった。
「感染症のまん延」が発動案件となり得るかどうかは、すでに前提条件化し、論点は憲法裁判所の関与、最高裁の人事改革といった分野に移っていった。
そして、ついに国民民主党・日本維新の会、有志、という野党の改憲勢力においても、緊急事態の要件として「感染症まん延」を含んだ緊急事態条項の憲法改正条文案が合意されるに至っている。


2023年5月8日から、新型コロナウィルス感染症が、2類の「新型インフルエンザ等感染症」相当から5類感染症へと緩和されたことで、緊急事態宣言を出すことができる特措法の対象から外れ、政府は行動制限ができなくなった。しかし一方で、新たな感染症危機に備えるためとして、2023年4月に改正新型コロナウィルス対策特別措置法と改正内閣法が参院本会議で成立した。
そして各都道府県知事に対する首相権限強化などを目的とする「内閣感染症危機管理統括庁」の発足を決定していた。

国民は、これでコロナ規制も緩和かと思いきや、裏では以前より強固な感染症対策の名目で行われる、人権を脅かす強力な政策が進められているのである。
2023年9月に発足し、トップに内閣感染症危機管理監として、感染症対策業務とは関係ないはずの元警察庁長官の栗生俊一氏が就任したことからも、国民を感染症対策という名目のもとに厳重に監視するという統括庁の目的が透けて見えるが、さらに統括庁を所管する感染症危機管理担当大臣には、なぜか自民党憲法改正実現本部事務総長であった新藤義孝経済再生担当大臣が就任したのである。

内閣官房組織図をご覧いただくとわかるが、内閣感染症危機管理統括庁は、官房の中でも内閣官房長官直下の上位に位置している。それだけの権限が付与されているわけだ。
2023年12月26日に行われた統括庁の初会合では、全国感染症危機管理担当部局長会議が、2024年1月12日には、シンポジウム「新たな感染症危機にいかに備えるか~国民の生命・健康と生活・経済の両立を目指して~」と題して、いずれも新藤義孝大臣(感染症危機管理担当)を推進役として執り行われた。
(つづく)