第1話最終章79はこちら
愛する読者の皆様、いつも物語を慈しみ下さりありがとうございます🩷
ここから群青と真紅の第2話のスタートです
お互いを大切な存在として愛を育むテヒョンとジョングクの二人に、どんな世界が待っているのか・・・
是非、ご期待くださいませ❗❗
【ニールの縁談】
ジョングクが休暇を終えて、遠征先のスコットランドに戻ってから数週間が経っていた。
テヒョンも公務や領地の仕事で忙しくしていたので、さほど寂しさを感じる余裕もなかった。
この日は、宮廷にニールが用水路建設の進捗状況の報告をしに来る日で、テヒョンも既に国王の私室にいた。
「どうだ、テヒョン。婚約発表から日が経ったが少しは落ち着いたか?」
「はい。しかし婚約だけでも何かとやらねばならぬ事があって驚きました。」
「ははは、それはお前が王族であるからな。普通の貴族とは違い、余計に手続きの為の準備が必要だったということだ。」
「はい。そうでございますね。」
「一時は淑女達の嘆き悲しみで社交界は大騒ぎだったが、だいぶ沈静化したな。」
国王がやれやれという感じで言ったので、テヒョンは苦笑いをした。
「そうだ、お前には先に知らせておいてやろう。」
「何でございましょうか?」
「ジョングクは予定より早く遠征先から戻すことにしたぞ。」
「本当ですか!」
テヒョンの一瞬でパッと明るくなった表情に、
「嬉しそうな顔をしよって。」
とからかった。ふふっと感情を隠そうともしない様子に『あのテヒョンが、よくこうまで変わるものだ。』と感心して微笑んだ。
だか、何故引き上げが早まったのか、いつものテヒョンなら訊ねてくるはずなのに、今回は気にならないようで、国王は少し安堵した。
「結婚式まで色々やらねばならぬ事が山積みであろう?」
「はい。どうやらそのようで・・・」
「なにを他人事のように言っておるのだ。そんな所だけは今まで通り変わらぬな。」
「え?」
何の事を言われたのか分からない表情のテヒョンを見て、国王は吹き出してしまった。
「陛下、皆様お集まりになりました。」
侍従長が国王を呼びに来た。
「よし、では参るか。」
「はい。」
二人は立ち上がると、執務室へ向かった。
「皆様方、国王陛下、大公子殿下のお成りでございます。」
侍従長の声に集まっていた者達が立ち上がる。国王とテヒョンが執務室に入ると、皆が一斉にお辞儀をして迎えた。
テヒョンは席に着く時に、ニールとゲインズが会釈をするのに気付いて笑顔で応えた。
今回の集まりには、関係する大臣やサンドリア侯爵も侯爵家の関係者と共に出席していた。
国王が挨拶を終えると、早速ニールが呼ばれてボードが用意されている所まで出ていく。
ニールが持参していた工事現場の図面を拡げてボードに貼ると、進捗報告が始まった。
しっかりとした口調で、どこの部分をどういった内容で施工しているのか、誰が聞いていても分かり易く説明していく。
ニールはすっかりこの事業の責任者の貫禄が出来上がっていた。
「ニールはもう以前とは別人になったな。」
まだ報告が続く中、国王がテヒョンに静かに語り掛けた。
「本当に。本来の姿が今目の前にしている彼なのでしょう。」
出席者の中には、大学から博士も数人参加していて、真剣にメモを取る者が多かった。実際に現場へ足を運んでいる博士もいて、熱気も感じられた。
この日まで悪天候に見舞われることもなく、工事は順調に進んでいるようだった。
ニールの報告の後に質疑応答の時間が設けられ、積極的なやり取りが繰り広げられた。
ニールは工事の内容をよく把握していて、質問の度に資料を見ることなく的確に答えていた。
国王もテヒョンも感心しながらその様子を見守った。
進捗報告が無事に終わり、出席者達は国王の執務室を出ていく。
ニールとゲインズは国王とテヒョンの前に来ると改めて挨拶をした。
「上出来であったぞ、ニール。」
「ありがとうございます。」
「そなたに任せておけば間違いないな。」
国王は嬉しそうに笑った。
「遅ればせながら大公子殿下、この度はチョン伯爵との御婚約、誠におめでとうございます。」
ゲインズが祝辞の後改めてお辞儀をした。
「おめでとうございます。」
ニールもその後に続いた。
「ありがとう、二人とも。」
テヒョンが嬉しそうに礼を言う。
「チョン伯爵が遠征中とのことで、お寂しくはございませんか?」
ゲインズが察して訊いた。
「もう慣れた。大丈夫だ。」
「それは痩せ我慢ではないのか?」
国王が横からからかった。
「陛下、、」
テヒョンは静かな声で反論した。
「まぁよい。立ち話もこれ位にして食事に参ろう。先に行くぞ。」
そう言って、国王は執務室を出て行った。
食事は国王の私室の隣にある、控えの間に準備された。テヒョン達も国王の後すぐに向かう。
先に控えの間にいたサンドリア侯爵がテヒョンの姿を見ると、婚約のお祝いを述べにやってきた。
「殿下、改めまして御婚約おめでとうございます。おめでたい話題と順調な工事の報告で大変心嬉しく存じます。」
「ありがとうございます。そう言って頂けると、私もとても嬉しい。」
控えの間に居合わせた者達も拍手をして同意する。
「さ、この幸福な雰囲気のまま食事にするとしよう。」
国王の一声で皆がテーブルの席に着いた。
ニールとゲインズはテヒョンの両隣に着席した。
食事の席には大臣達もいたが、かしこまることなく国王が言う通り、幸せが感じられる和やかな雰囲気となった。
食事が一段落してデザートがテーブルに並べられた頃、ニールが話し掛けてきた。
「こうして殿下のお隣に座る事が許されたのですが、恐れ多いことで緊張が解けません。」
「ははは、今日はお前が主導の会であったのだから、堂々としていたらいいのだ。」
ニールは恐縮しながら、
「やはり私は格式のある方々との会食は苦手なようでございます。」
と言った。
「何を言っておる。もうお前は実質的にそれ相応の《格式》を持っているのだぞ。」
テヒョンはクスクス笑いながら、自分の立場に決して驕り高ぶることがない、誠実な姿を好ましく感じた。
ニールは今までなかなか見る事がなかった、弾んだ様子のテヒョンに見入っていた。
「殿下は今とてもお幸せそうでございますね。」
「ん?そう見えるか?」
ニールは笑いながら頷いた。
「殿下、実はニールにも縁談がございます。」
ゲインズが会話に入ってきた。
「何?そうなのか?」
ニールが気恥ずかしそうに笑う。
「はい、ありがたくも私の義理の妹でもある、ゲインズ家のお嬢様でこざいます。」
「なんと!そうなのか。」
「私どもの長女がどうやら、ニールが御領地に来た時から見初めておりましたようで。養子に迎える事になった時、娘が打ち明けてきたのでございます。」
「義父上、この場でそのような・・・」
「あの尖った頃のニールを見初めたのか?そなたの娘は、なかなか人を見る目があるではないか。」
テヒョンは恥ずかしがるニールに構わずゲインズの話に乗っかった。
「ははは、、私もビックリ致しました。しかし、私も妻もニールを娘の婿にする事にはなんの異存もございません。あとはニールの気持ち次第でございます。義理で縛るような無理強いだけはしたくはありませんので。」
「そうか、そんな話が出ていたのだな。」
ニールは何か考えているようだったが、テヒョンが自分を見ている事に気付くと、にこりと笑顔を見せた。
「彼女は賢くてとても可愛らしい方で、私には勿体ないような気がしております。」
テヒョンはニールの、なんとなく遠慮しているような言葉が気になった。
「あ、殿下、お話の途中ではございますが少し失礼致します。」
ゲインズがサンドリア侯爵側の領地管理者に呼ばれたようで席を立つと、テヒョンに頭を下げてその場から離れていく。
テヒョンはゲインズが離れてすぐに、
「ニール、何かこの縁談に迷いがあるのか?」
と訊いた。
ニールは少し驚いた顔をしたが、すぐに答えた。
「決してそのようなことなどございません。」
「そうか、、、ゲインズが申していたように義理を感じての事であれば、私は勧めることは出来ぬからな。」
テヒョンの言葉に一瞬視線を落としたが、すぐに笑顔を向けた。
「私は彼女を愛おしく思っております。」
「うん。そういう気持ちがあるなら何も言うことはない。」
「はい。共に歩んで行ける人だとも感じでおります。」
テヒョンは笑ってニールの肩を叩いた。
テーブルでの会食が落ち着くと、テヒョンの元には大臣が入れ替わり立ち替わり挨拶に来た。ニールは笑顔で応じるその美しい横顔を見ていた。
また、ニールの所にも挨拶に来る大臣達がいて、しばらく談笑をした。
テヒョンは、ニールが《格式》が苦手だといいながらも、そういう者達と社交的に接する姿を見て満足そうに笑った。
【ジョングクの帰還】
季節は真冬の厳しい寒さの中にあった。
今年の締めくくりであるクリスマスとテヒョンの誕生日を控え、公爵家の大階段の前は昨年の様に、デイビスが手配した樅の木に従僕や女中達が、皆で楽しそうに沢山のオーナメントで飾り付けをした。この年は特に公爵家におめでたい発表があったので、それはそれは豪華で立派なクリスマスツリーになった。
この日のテヒョンは、前日の就寝が遅かったので午後になって目を覚ました。
ベッドから出るとデイビスがガウンコートを掛ける。
袖を通しながら窓に向かうと、少しだけ窓を開けて外の空気に触れた。
「今日はまた凄く寒いな。」
「雪でも降りそうな寒さでございますね。」
デイビスが着替えの支度をしながら応えた。テヒョンはすぐに窓を閉める。
部屋の暖炉には早朝から沢山の薪が焚べてあって、ゴウゴウと炎が上がっていた。
直接肌に触れる下着を暖炉前のテーブルに置いておいてくれたおかげで、いく分温かく快適に着ることが出来た。
全ての着替えが済むと、デイビスは女中が厨房から運んできた熱々のミルクティーを淹れてテヒョンの前に置いた。
「どうぞ殿下、温まりますよ。」
「うん。ありがとう。」
ソファに腰掛けてティーカップを取ると、両手で包み込むようにして飲んだ。
しばらくすると扉がノックされる。デイビスが開けると、スミスが立っていた。
「テヒョン様、すぐに大階段の下までお越し下さいませ。」
いつになく真顔の表情で、スミスはそう言うとデイビスの手を引っ張り、部屋の外に出した。
「なんだ?何かあったのか?」
「テヒョン様、お早く!」
スミスはそれだけ言うと、扉を閉めてデイビスを連れて行ってしまった。
「どういうことだ?何か言わなければ分からないではないか。」
テヒョンは文句を言いながら、部屋を出ると大階段を降りる踊り場に辿り着いた。
「誰もいないのか?」
怪訝な顔をしながら周りを見たが、人は誰もいないようだった。仕方なく、立派なクリスマスツリーを眺めながら大階段を降りて行く。
下まで降りた時、ツリーの樅の木の葉と葉の間にロングコートの裾が見えた。
「そこに誰かいるのか?」
ロングコートの持ち主を追うように更に移動をすると、そこには誰かが立っていた。視線を上に向けると懐かしい笑顔が視界に入る。
「ただ今戻りました、テヒョン様。」
聞き慣れた声がテヒョンの名前を呼ぶ。
「え・・・ジョングク!?」
テヒョンに向かってボウ・アンド・スクレープで挨拶をすると、優しい笑顔で大きく両手を広げた。
「ジョングク!!」
テヒョンが勢いよく、その広げた腕の中に飛び込んだ。二人はお互いの間に髪の毛一本でも通さないというように、きつく抱きしめ合う。
「私のテヒョン様、、、」
ジョングクが頬を寄せながら耳元で囁いた。
「うん、、おかえり、、、」
二人は顔を合わす。テヒョンは嬉しさのあまり涙目になっていた。何も言わずお互い見つめ合っていたが、自然と唇が重なった。
柱の陰ではスミスとデイビス、従僕や女中達がテヒョンとジョングクを見守っていた。
「お二人をこの様に隠れて盗み見るなど、若干マナーに反しませんか?」
デイビスがスミスに訊いた。
「シッ!よいのだ。お二人のお幸せなご様子を見守っているのだから。」
その場にいた者たち皆が、二人を見て幸せな気持ちになった。
ジョングクは前日の夜にロンドンに戻ると、そのまま国王の宮殿に向かい、司令本部に帰還の報告をした。
その夜はそのまま司令本部内の上官専用宿舎に泊まり、朝に国王に帰還の報告をした。
その後、屋敷に帰りセオドラ卿に会い、着替えをして身支度を整えると馬車でテヒョンの宮殿に向かった。
テヒョンに帰還の挨拶を熱烈にした後、ジョングクは遅く起きたテヒョンの遅い朝・昼食に付き合った。
「昨夜は遅くまでお仕事だったのですか?」
イングリッシュ・ブレックファーストの豪華なメニューの中、卵料理を頬張るテヒョンを愛しむように見つめながら訊いた。
「うん。片付けておきたい書類があったのだ。ついつい没頭してしまったら、知らぬ間に就寝時間が過ぎていたのだ。」
「テヒョン様のそのお姿が目に浮かぶようです。」
相変わらずの仕事熱心さに、ジョングクは笑いながら珈琲カップを取った。
この日の夜は、公爵家でジョングクの帰還を祝う夕食が振る舞われた。
残念ながらセオドラ卿は、別の用事で同席出来なかったが、皆がテヒョンの大切な人の帰りを喜んで迎えた。
「私の為に勿体ない事です。」
「結婚式がまだ終わっていないだけで、ジョングクはもう私の息子だ。遠慮はするな。」
大公が笑顔で言った。テヒョンも父の言葉に同意するようにジョングクの肩を擦ると、嬉しそうに笑顔を向けた。
しかし、テヒョンはこの時ジョングクが向けてくる笑顔に、何か隙がない様な気がして違和感を覚えた。
でも、それは《訓練から帰ったばかりで緊張が抜けていないだけかもしれない。》そう思った。
「お帰りなさいませ、チョン伯爵。」
料理がある程度進んだ頃に、シェフがニコニコしながらやってきた。
「ありがとうシェフ。こんなにも早くまたあなたの料理が頂けるなんて嬉しい限りですよ。」
「私もでございますよ。お早目の遠征からのお帰りでようございました。近い将来には若い《御フウフ》の為に、更に腕を振るうことが出来ますから。私は幸せでございます。」
シェフは本当に嬉しそうに言った。
「うちで食事をする時は、結婚式まで気を付けなければ、本当にサイズが変わってしまうぞ。」
テヒョンがジョングクに耳打ちした。
すると、
「もし食べ過ぎてしまったならば、その日の夜は眠れませんよ。」
と意味深な耳打ちで仕返してきた。
就寝時間を迎えたテヒョンの寝室では、二人でゆっくり過ごせるようにとワインやオードブルが置かれ、近くに控えている従僕達もテヒョンのプライベートエリアから離された。
「テヒョン様、、」
「ん?」
「結婚前だというのに、婚約者のベッドに入り浸っていて宜しいのでしょうか。」
一人で着替えをしながらテヒョンがジョングクに振り返る。
「今更か?」
言われたジョングクは、少し空を仰いだ。テヒョンがそれを見てフッと笑うと二人で笑い出した。
「ははは、、例え仕来りに反するとお咎めを受けても、きっと言うことは聞けません。」
「だろう?僕も同じだ。」
ジョングクはテヒョンに近付くと、着替えを手伝う。
「僕だって王室の仕来りを守らなければならない立場だとしても、君に関する事ならば君を優先するよ。」
テヒョンが言いながら、ジョングクの寝巻きのリボンを外した。
「だって、、君は《形式》だけのお飾りではない。僕の生涯を捧げる伴侶だからね。」
「あの、、テヒョン様。先程からあなた様に寝巻きを着せて差し上げているのに、なぜ私の寝巻きを脱がそうとなさるのです?」
ジョングクが半分笑いながら訊く。
「これがあったら邪魔だろ?」
ジョングクのシルクの寝巻きがスルリと開(はだ)けて、肩があらわになったかと思うと足元に落ちる。
テヒョンがニヤリと笑みを浮かべると、ジョングクをベッドに押し倒した。
いつになく大胆に攻めてくる力強さに、ジョングクは面食らう。
「テヒョン様・・・」
テヒョンは全身で覆いかぶさると、
「もうどこにも行くな、、、」
と言って唇を塞いだ。
二人はそのままベッドの中に深く沈んで行った。
※ 画像お借りして加工ました