前回のサムネイル画像です
テヒョンとジョングクの結婚式前が行われた、大聖堂の様子をイメージしました✨✨✨
前回の物語
物語の続きが始まります✨✨✨
【ロイヤルカップルの誕生】
国王の侍従長がチョン伯爵家の親族の席にやって来た。
「ソレンティーノ伯爵、ご証人としてヴェストリーまでお越し下さい」
そして続けて、
「ステファニア様、貴女様もご一緒にお越し下さい」
と告げた。
「あの・・・わたくしもですか?」
「はい。国王陛下と大公殿下からのお召しでございます」
侍従長は至ってにこやかだった。ステファニアは本当に行ってもよいのか迷い、ソレンティーノ伯爵を見た。
「お二人でお前をお呼びなのだ。結婚登録簿への署名だ。お待たせしてはいけないすぐに参ろう」
そう言って頷いた。
「はい、ではすぐに参ります」
ステファニアは立ち上がると、兄のソレンティーノ伯爵と共に侍従長の案内でヴェストリーに向かった。
まさか結婚式に招待されただけでなく、証人として結婚登録簿への署名まで許されるとは思ってもいなかったので、ステファニアは涙が溢れそうなのを堪えるのに必至だった。
ヴェストリーには、テヒョンとジョングクを囲むように、国王、大公、セオドラ卿、アンジェロ、トーマスそれにスミスがいた。
挙式に引き続き、結婚登録簿への記帳の儀式を司る大主教の横には、首相とフランスの王太子が並んでいる。
ヨーロッパは先の戦争で、どの国も何かしら打撃を受けている中、各国の王族が賓客として、テヒョンとジョングクの結婚式へ参列する為に来英してくれていた。
特にフランスは、ヨーロッパの中でもP国と同様の激戦地で、未だ復興の真っ最中であった。
しかし戦後、命に関わる負傷をしたジョングクの治療や療養に、多大な援助をしてくれた事で、同盟国の中でも特に英国とフランスは友好的な関係を築いていた。
今回の大公子の結婚式への招待に対しても、国王が今国を離れる事は出来ないが、王太子夫妻が喜んで参列させて頂きたいと申し出てくれた。
今回はその意を汲み、一番フランスに助けられた、テヒョンとジョングクの結婚の証人になってもらうことに決まった。
戦争に終止符を打つことに貢献した《英雄》ジョングクの為に、各国の王室はその英雄の挙式に参列出来る事は敬意の表れであり、また国にとっても栄誉だと捉えられていた。
最後にヴェストリーに来たのは、ソレンティーノ伯爵とステファニアだった。
ソレンティーノ伯爵の後に続いて、ステファニアがテヒョンの前に来るとカーテシーで挨拶をした。
「ご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます」
二人は笑顔で見つめ合う。何も言わなくてももう母子としての意思の疎通は出来ていた。
皆が所定の位置に着くと、結婚登録簿への署名の儀式が始まった。
ヴェストリーの部屋の真ん中に、ビロード生地のクロスが掛けられたデスクが置かれ、上には書きやすいように、少し傾斜がついた記帳台が設置されていた。デスクには椅子もあった。
大主教が祈りの言葉を捧げると、首席司祭が、登録簿を記帳台へ乗せた。そして専任牧師から、羽根ペンとインク壺が乗ったトレーを受け取る。
「この聖なる契約に名を記すため、登録簿の前へお進みください。
それでは新郎の大公子殿下、こちらへどうぞ」
テヒョンが立ち上がると、既にそばに来ていたデイビスが、スミスと共にロイヤルマントを外した。
テヒョンがデスクに座る。首席司祭が登録簿を広げ、書き記す場所を示した。テヒョンは羽根ペンを受け取り、インク壺へペン先を入れてインクを満たすと、滑らかにペンを走らせ名前を書き入れた。
羽根ペンを戻すと、司祭がブロッターで余分なインクを取り除く。
テヒョンはすぐに立ち上がり、ジョングクの隣に戻る。
「新郎のジョングク殿下、どうぞこちらへ」
ジョングクが呼ばれると、テヒョンは彼の手を握った。彼は握り返しながら席に向かった。
席に着いたジョングクは、テヒョンと同じように羽根ペンにインクを満たすと、テヒョンのサインの下に自分の名前を書き入れた。
ブロッターでインクを吸い取られた後、二人の名前が、お互いの署名によって並んでいるのが鮮明に見えた。
文字として、二人が公式の書類の上に並ぶのは初めての事だ。
この登録簿が《結婚証明書》として後世まで消えることなく残ることになる。ジョングクは、今記した二人の絆が、未来永劫残されると思うと胸が熱くなった。
テヒョンの元に戻ったジョングクは、
「私達は永遠ですね」
と囁いた。平静に見せてはいるが、興奮気味な瞳に気付いたテヒョンは『なぁに?』と言うように目で反応した。
結婚登録簿への二人の新郎の署名の後は、国王、大公、フランス王太子、首相、大臣、セオドラ卿、ソレンティーノ伯爵、ステファニア、アンジェロ、スミス、トーマスの順に署名された。
そして最後に、各々署名された場所の対になる所に大主教が署名をして、登録簿の記入が全て終わった。これで結婚証明書の発行がされる。
テヒョンとジョングクは、公私共に婚姻をした《カップル》となった。
テヒョンが再び、ロイヤルマントをスミスとデイビスに手伝われ肩に掛ける。最後にデイビスが綺麗に裾を広げた。
結婚登録簿への署名の為に、テヒョン達が不在になった大聖堂では、パイプオルガンの演奏で聖歌隊の合唱が繰り広げられ、また室内管弦楽団の演奏で、神聖な儀式の場を盛り上げていた。
その中をヴェストリーから国王と大公が出てきて、ロイヤル・ボックスに戻る。フランス王太子や首相、セオドラ卿も出てきて着席する。
暫くしてから、主任司祭が出て来ると《銀の杖》を持ったディーンズ・ヴァージャーが先頭に立ち、退出行進が始まった。
ディーンズ・ヴァージャーが主任司祭を先導すると、続いて大主教杖を持つヴァージャーが大主教を先導する。
更に、祭壇の周りで見守っていた聖職者達がその後に続いて退出した。一行はウエディング・ロードを出口の方に向かい行進すると、大聖堂の出口付近に並んだ。
聖歌隊の歌声が最後まで歌い上げられた後、ファンファーレが鳴り響いた。
会場内の国王や大公を含め、参列者が全員起立をして、新しいロイヤルカップルの退出を待った。
パイプオルガンが新しい賛美歌を奏でると、再び聖歌隊の天使の合唱が厳かに始まった。
そしてテヒョンとジョングクがヴェストリーから姿を表す。
ジョングクが、テヒョンの方に顔を向けて左腕を差し出した。テヒョンがその腕に手を添える。二人は揃って歩き出す。
アンジェロと、テヒョンのロイヤルマントの裾を持ったトーマスが後に続いた。
祭壇の前を通り、壇上の階段を降りてロイヤルボックスの前まで来ると、トーマスはマントの裾を静かに下ろした。
テヒョンとジョングクが国王の前でお辞儀をする。
国王は静かに笑顔を見せた。
テヒョンはまたジョングクのエスコートを受けながら、ウェディングロードを行進していく。
国王、大公とセオドラ卿も二人の後に続く。参列者は皆笑顔で、新しいロイヤルカップルの二人を見送った。
太陽が高く昇り、色とりどりの光が更に強くステンドグラスから降り注ぎ、愛に満ちた二人を包む。それがキラキラと二人に反射した。
いよいよ出口が見えてきた。外の大きな光が目の前に広がる。大主教や主任司祭が立ち並び待っていた。徐々に大聖堂の鐘の音と大観衆の歓声が聞こえて来た。
「愛しているよジョングク」
「私も愛しています」
「いよいよ大衆の前だ。緊張しているか?」
「いいえ。あなた様がそばにいて下さる限り大丈夫ですよ」
ジョングクは、自分の左腕にあるテヒョンの手に触れた。
出口に近付くと、近衛兵がテヒョンとジョングクに、それぞれシルクハットとステッキ、二角帽子を手渡した。そして二人は揃って出口に立った。
挙式後の新しいロイヤルカップルの姿に、大歓声が沸き起こった。中には感動で泣き出している人々もいた。
レッドカーペットが敷かれた階段の下に、二人が乗るパレード用のオープン馬車が停まる。テヒョンはシルクハットを被り、ステッキをジョングクに持ってもらい手袋をはめた。そしてまたステッキを取ると、階段を降りていった。
近衛騎兵連隊が馬車を守り、近衛兵達が敬礼をしてテヒョンとジョングクを迎え待つ。
トーマスが、テヒョンのロイヤルマントの裾を持ち乗車を手伝った。
テヒョンがゆっくりと馬車に乗り込む。アンジェロとトーマスでマントもしっかり中へ入れる。ジョングクは二角帽子を被り手袋をはめた。そして馬車に乗り込むと、テヒョンの隣に座り、テヒョンのマントを踏まないように、足元で丁寧に直してやる。
「ありがとう」
ジョングクはテヒョンの肩に掛かるマントも直した。仲睦まじい二人の様子に、歓声がまた大きくなる。
テヒョン達の後続の馬車には、国王と大公が乗車し、その後ろの馬車にはセオドラ卿、アンジェロとトーマスが乗車した。
テヒョンとジョングクの馬車の支度が整うとゆっくりと動き出した。
パレードが始まった。
パレードを見る為に待っていた、大勢の人々の熱気が最高潮に達して、地鳴りがする程の歓声に包まれる。
テヒョンとジョングクは、精一杯に小旗を降る沿道の人達に手を振って応えた。
見慣れた道を走りながら、テヒョンの胸の中で様々な思い出が巡った。
横を向けば愛して止まないジョングクが、正式に夫として隣に座っている。
今馬車はそのジョングクと、いつかのクリスマスにオペラを観に行く為に通った道を走る。
特殊部隊として出征する彼を見送る為に通った通りも、また、負傷した彼を迎えに行く為に通った大通りも、そして、二人で一緒に帰国して、陛下にご挨拶に向かったメイン通りも走っている_____。
クリスマスのあの日は恋にときめいて、春の優しい陽に包まれたような想いを感じ、
戦争の影が堕ちたあの日は、反対に寂しさと苦しさで、夜の嵐が吹きすさぶ地獄のような痛みを味わった・・・・。
あの日々の全てが、今日一つに繋がったと思えたら、自然に涙が頬を伝った。
自分が涙を流した事に驚いたテヒョンは、パッと沿道と反対側に顔を向けた。
「どうされました!?」
ジョングクは、自分の肩に顔を隠すテヒョンを覗き込んだ。
するとその頬に涙が見えて、咄嗟にハンカチーフを取り出す。
「民衆に分からないようにして」
ジョングクは笑顔で頷くと、そっと見えないように頬を伝った涙を拭いた。
「涙が出るなんて・・・迂闊だった」
「あなた様もお泣きになりましたね」
「あなた様『も』?あ、ということは、やはり結婚式の前に泣いたのだな」
ジョングクは、しまったという顔をしたが開き直り、
「お互い様ということですね」
と言ってテヒョンの鼻先をチョンと指で触れた。
すると、その様子がしっかり沿道の人達の、それも女性達の目に止まり、黄色い歓声が大きく響いた。
「見られたね」
テヒョンとジョングクは、お互いの帽子をくっつけながら笑った。そしてまた黄色い歓声が上がる。
「あの二人はパレードの最中に何をやっているのだ」
後ろの馬車から見ていた国王が呆れて笑った。大公は何も言わずクスクス笑いながら、沿道に手を振った。
テヒョンとジョングクは、また二人で沿道の人達に手を振り始めた。
「この辺りは、デニスさんの店の近くだな。きっとどこかで僕達を見てくれている」
「絶対おりますよ」
テヒョン達が言う通り、カフェの主人のデニスは、近所の者や常連客達と共に沿道の人々の中にいた。カフェの仕事着ではなくきちんと、シャツにクラバットを着けジャケットを羽織っていた。
「お二人のお馬車が見えてきたぞ!」
仲間の一人が声を上げた。周りの者達も歓声を上げた。
「よし!お祝いのポスターだ」
デニスがそう言うと、最前列に行ってそこにいた仲間と一緒にポスターを掲げた。
「両殿下〜〜!おめでとうございます!」
大きく声を張り上げる。
テヒョン達の馬車がデニス達の近くまでやって来た。テヒョンもジョングクも左右の沿道に向かって手を振っている。
「あ!あれ!ジョングク、デニスさんだ」
「え!?どこでございますか」
テヒョンの目に《デニスのカフェ》の文字と《ご結婚おめでとうございます》の文字が目に入る。それを掲げている内の一人がデニスだということも分かった。
ジョングクも気付いて二人が笑顔を向けて手を振った。デニスの方でも、
「おお!お気付き下さった!」
と、もう片方の腕を大きく振った。
後車の大公も気付いて、テヒョン達の馬車に続いてデニスに手を振った。
デニスは大公に向かって深々と頭を下げた。
「やったじゃないか、デニス!」
ロイヤルカップルと大公から気付かれて、手を振って貰えたことを仲間達は喜んだ。
「お幸せそうでいらっしゃったな」
デニスは感無量といった様子で、嬉し涙を流した。
「さあ、店に戻ろう。今日はお祝いだからな、沢山サービスさせてもらうよ」
仲間達がワァっと歓迎の拍手をすると、人々の列から離れ一緒にデニスのカフェへ戻って行った。
「デニスさん、今日はきっとお店で私達を常連客のお客さん達と遅くまで祝ってくれるのでしょうね」
「うん。そうだろうな。有難いことだ」
そこに自分達が参加出来ないのは残念だけれど、彼らには彼らだけの仲間との時間がある。その仲間達との祝宴は生活の糧なのだと、テヒョンもジョングクも理解していた。
単純に身分や立場の違いという括りだけではない。人々には皆自分達に相応しい《日常の居場所》があるのだ。
王族の自分達の祝い事が、彼らの居場所に花を添えることが出来るということが、テヒョンやジョングクには嬉しかった。
そしてこの先、自分達二人が王族としての役割を果たす機会が増えていく中で、国民との友好的な関わりを持つ事について、二人は沿道に集まる大勢の人々に、手を振りながら思いを寄せた。
パレードは止まない歓声の中で続いて行く。
大聖堂から王宮までの道のりを沢山の小旗が、歓声と共に途切れることなく揺れていた。
世界中から注目されている、テヒョンとジョングクの結婚式は、多くの国民と婚礼目当てで訪れている観光客の熱気で、ずっとずっと街中を賑わせていた。
手を振り続けるテヒョンとジョングクが、時折見せる表情に、それを見ることが出来た民衆からは、
『見てご覧!テヒョン様があんなにお笑いになっているよ!』『ジョングク様が大公子殿下に、何か話されていらっしゃるよ!』などと興奮気味な声が聞かれた。
日頃、王族の顔を見ることすらままならない民衆には、幌がないオープンな馬車のおかげで、よりよくロイヤルカップルを目に焼き付けることが出来た。
テヒョンやジョングクが自分達と変わらず、笑ったり、笑い合ったり話をしたりする様子を見て、親近感を感じて喜んでいる。
こうしてパレードの列は、王宮近くにまで進んできた。
これからまだまだ結婚式に関連した行事が続いていくことになる。
つづく________


