群青と真紅⑳【ファームハウスの夜】 | Yoっち☆楽しくグテを綴る♡

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現在、BTSの底なし沼にハマり浸かっております
ガチガチのグテペンです
現在、テヒョンとジョングクをモデルに小説を執筆中☆

お待たせいたしました😊
群青と真紅⑳です
いつも楽しみにして下さり、ありがとうございます✨✨✨
今回はさっそく物語に入ることにします


前回の物語



【ココアの夜】


国王を見送った後、テヒョンとジョングクも食堂を出た
廊下を歩きながら、なんとなく無言になる
二人共かなり疲れを感じていた

そこで先に声を掛けたのはテヒョンだった
「ジョングク、今日は疲れただろう?」
「テヒョン様の方こそ、相当お疲れなのでは?」
「ん〜〜、、、身体は疲れているんだけど、頭が冴えてる感じだな」
「はい、私もです。練習試合以外にも色々ありましたからね」
「あ〜・・そうだな〜・・・それじゃあ僕の所で何か飲む?」
テヒョンがジョングクを部屋に誘った
「あ、それならば私の部屋へ来ませんか?いつもおもてなしを受けてばかりですし」
ジョングクが逆にテヒョンを自分の部屋へ誘ってきた
「君の部屋へ・・・?」
ジョングクがニコニコしながら返事を待っているので、テヒョンもつられて笑う
「よし、じゃあ君の部屋にお邪魔しよう。でも先に服を着替えたい。それからお邪魔させてもらおう。君も楽な格好に着替えていいぞ」
「はい。そうさせて頂きます。ではお待ちしております」
こうして二人は一旦それぞれの部屋に向かう

部屋に着いて、テヒョンは待機していた従僕に声を掛ける
「今日は早朝からご苦労だったな。あとは自分でやるから、今夜はもう下がってよいぞ。私はこれからチョン伯爵の部屋にお邪魔をする予定だ」
「はい、かしこまりました。それでは暖炉の火を一旦小さく致しますので、お部屋にお戻りになりましたら、こちらの薪を足して下さいませ。もし火が消えておりましたら、私をお呼び下さい」
「うん、分かった。けど薪の火を熾す位自分で出来るよ」
「いいえ!テヒョン様御自身に火熾しをさせるなど、滅相もございません!」
従僕はびっくりして言った
「大袈裟だな、大丈夫だ。やったこともあるぞ」
「・・しかし」
「本当に大丈夫だから」
「・・・分かりました。くれぐれもお気を付け下さいませ・・・」
少し不安気な表情の従僕だったが、これ以上心配をするのは、失礼にあたると思ったのか、不安を口にするのをやめた

従僕が暖炉の中の、炭になりかけた長い薪を短く砕いて、火種を小さくする
そして、『テヒョン様、お着替えになりましたら、少々お待ち下さいませ』と言って一旦部屋を出た

テヒョンはモスリン生地のブラウスと、スラックスに着替える
しばらくして、従僕がガウンを持って部屋に戻ってきた
「テヒョン様、廊下は寒うございますのでこちらのガウンを羽織って、おいでくださいませ」
「ああ、ありがとう」
従僕がテヒョンにガウンを掛ける
「それではテヒョン様、私はこれで下がらせて頂きます。おやすみなさいませ」
「うん、おやすみ」
こうして従僕を先に休ませてやり、テヒョンは屋敷から持ってきていた包を1つ持って、ジョングクの部屋に向かった

部屋を出るとファームハウスの廊下は、すっかり冷えていた
ゆっくり歩いていたら凍えそうになるので、足早に通り過ぎる

しばらく進むとジョングクの声がした
「テヒョン様、さぁどうぞ。」
ジョングクの部屋の近くまで来ると、ジョングク自身が扉を開けて、その前でテヒョンが来るのを待っていた
「なんだ、寒いのにわざわざ廊下に出ていなくてもよかったのだぞ」
「はい、でも廊下の灯りが少なかったので、テヒョン様が心細くならないようにと思いまして」
「おい、おい、僕は小さい子供ではないぞ」
テヒョンがそう言ってジョングクの腕をポンと叩くと、ジョングクがクシャッとした笑顔になる
「あ、からかったな」
「まさか、どんでもない。・・さぁ、どうぞお入り下さいませ」
笑っているジョングクに案内されて、テヒョンが部屋の中に入ると、なんともいえない甘く暖かい空気に迎え入れられた

「おお〜!甘くてとてもいい香りだ」
「先程、テヒョン様のお付きの方が、こちらに見えられて、ココアパウダーを届けて下さいました」
テヒョンの従僕は、主人が着替えている間に、ジョングクの部屋にココアパウダーを届けていた

従僕はヴァンホーテンのココアパウダーを持参してきていた
最近テヒョンが、好んでヴァンホーテンのココアを飲んでいる事を考慮してのことだ
これ以外にも万が一の怪我や、泊まりなども想定して、必要最低限の主人の身の回りの物を用意していた
ファームハウスにも備品は備えられてはいるが、主人が日頃愛用している物を用意することが、お側で奉仕する者の勤めと考えられていた
それらの物を到着後、部屋ではなく荷物専用の部屋に置いておく(個人で部屋を与えられている者には、その部屋も与えられた)

こうして主人の行動の、先の先を見据えて行動が出来るキム公爵家の従僕達は、スミスを筆頭に、スペシャリスト揃いだというのが分かる

「テヒョン様、どうぞこちらにお掛け下さい」
暖炉の斜め前に置かれたソファに案内される
「ありがとう」
テヒョンがソファのアームにもたれ掛けながら座った
そしてジョングクが
「お隣に座っても宜しいですか」
と、テヒョンにお伺いを立てる
「・・・うん?勿論いいよ」
「ありがとうございます」
ジョングクが反対側のアーム側に座った
「なんだ?あらたまって聞いたりして」
テヒョンが笑って言う
「ええ、でも、もし駄目だと言われたら、もう1つ席を作らなければならなかったので」
「え?変なことを言う奴だなぁ。僕は今まで君に隣に座るように言った事はあっても、駄目だなんて一度も言ったことはないだろ?」
「はい・・・」
「さっきまでの君は、僕が頼んだワケでもないのに、寒い廊下で待っていてくれたではないか?そうやっていつも自主的に、僕の側にいてくれていいんだよ。君は僕の【側近】だし、友人なんだから」
ジョングクはテヒョンの言葉が嬉しくて、満面の笑みで頷く
そんなジョングクの、いつになく可愛らしく頷く仕草に、テヒョンの表情も自然と綻ぶ

二人が座るソファの元に、ジョングクの従僕がココアが入ったカップを持ってきた
「あ、テヒョン様、先程届けて頂いたココアは、私が淹れさせてもらいました」
「お、そうかー、楽しみだな。そうそう、ここにビスケットも持ってきてあるから、一緒に食べよう」
テヒョンがそう言いながら、持ってきた包を開ける
それを見ていた従僕が、慌ててお皿を取りに行こうとするのをテヒョンが止めた
「大丈夫、包み紙をそのまま皿代わりにするから。今僕はジョングクの《友人》としてここにいるから、自然のままで過ごさせてもらいたい」
「はい!かしこまりました」
従僕が嬉しそうに頭を下げる

ジョングクの従僕は、自分の主人が王族から信頼を寄せられ、更には《友人》として認められている事に、深く誇りを感じた
「あなたももう休んで下さい。何かあれば、ジョングクが声を掛けるでしょう。な?ジョングク」
「え?それで宜しいのですか?テヒョン様」
ジョングクがびっくりして聞き返した
「うん、いいのではないか?さっき僕も今日一緒に付いてきてくれた家の者を下がらせてからここに来たんだ」
「え!?そうなんですか?・・・あ、、では、こちらもそうさせて頂きます」
それでジョングクは従僕に先に休むように伝えた

「それでは、お言葉に甘えて、休ませて頂きます、キム公爵、ジョングク様。何かございましたら、お呼び下さいませ」
「あなたもココアをどうぞ。温まりますよ」
テヒョンがジョングクの従僕にそう声を掛ける
「有難き幸せにございます。遠慮なく頂戴させて頂きます」
従僕が深々とお辞儀をして部屋を出て行った

「テヒョン様、、、ありがとうございます」
ジョングクがソファに座ったまま、体をテヒョンに向けると、ふわりとテヒョンを抱きしめた
「おい・・・どうした?・・・」
急なジョングクからの抱擁に、テヒョンが困惑する
しかし、更にジョングクはテヒョンを抱きしめる両手に、少しだけ力を込めて言った
「本当に、ありがとうございます」
「礼をされることなんてしてないぞ?」
「いいえ、私の家の者にも優しくお気遣い下さって、、、それが嬉しいのです」
「大事な友人の家の者だろ。大事にするのは当たり前ではないか?」
「テヒョン様・・・・」
ジョングクは今度はきつくテヒョンを抱きしめた
「こら、・・・ジョン・・グク、苦しいぞ・・・」
バシバシとテヒョンがジョングクの背中を叩くが、それでもなかなか離そうとしない
「・・酔っているのか?」
「いえ、、、、違います、、本当に、、有り難くて・・・」
ジョングクは感動のあまり、泣いているようだった
テヒョンがそれに気付いて、今度は優しく話し掛けた
「分かった、分かった、、」
テヒョンはそう言いながら、両手をジョングクの背中に回すと、しっかり抱きしめた
そして、片手をジョングクの後頭部に当てると、子どもをあやすように優しく髪を撫でる
テヒョン自身も、自分が何気なくしたことで、ジョングクに凄く喜んでもらえた事が嬉しかった

しばらくしてジョングクがテヒョンから離れると、ソファから立ち上がり、急に素に戻って言った
「すみません!テヒョン様に不躾にも抱きついたりしてしまって」
テヒョンはジョングクの行動に、目を丸くして驚いて、そして笑い出した
「本当に面白いね、君って。急に大胆な態度を取ったかと思えば、次の瞬間には遠慮勝ちな態度になったりと・・・」
テヒョンはそう言って、ジョングクの顔をまじまじと見つめた
「あ〜〜、、本当に申し訳ないです!」
そう言いながら、ジョングクはソファの前に座り込んで、恥ずかしさのあまりクッションを頭に被ると、ひたすらテヒョンに詫びた
「責めてるわけじゃない。君のその面白さは、素直で裏表がない心根(こころね)の現れだってことを言いたいのだ」
テヒョンがジョングクが被っていたクッションをめくって、そう言い聞かせた
「この先も、そのままのチョン・ジョングクでいてくれよ」
テヒョンの言葉に、ジョングクは顔を上げると、チラリとテヒョンの方を見た
テヒョンは左手でジョングクの右頬に触れて、目尻にまだ残っていた涙をそっと親指で拭ってやった

「ジョングク、もういい加減ココアを飲まないか?せっかく君が淹れてくれたのに冷めてしまうぞ」
「はい、そうでした。テヒョン様の為に淹れたのですから」
テヒョンはジョングクがソファに座り直すのを待って、そして二人揃ってココアを飲んだ
「あー・・・美味いなぁ」
テヒョンがわざと言葉を崩して言う
「苦くはなかったでしょうか?」
「うん、丁度いい!僕が好きな苦味と甘さだ。淹れた後に甘さの調整をしなかったのは君が初めてだ。勘がいいなジョングク」
「本当ですか?うわぁ〜嬉しいです!良かった、、」
「はい、ビスケットも食べて」
テヒョンが1つ取って、ビスケットが乗った包紙をジョングクの方へ寄せて勧めた
「いただきます」
ジョングクも1つ取る
二人揃って一口食べる
「うわ、美味しい!」
「それに温かくなってますよね」
ビスケットが暖炉の遠火に当たっていて、香ばしさが増していた
テヒョンとジョングクは、ココアを片手に二人でビスケットを全て平らげてしまった


【テヒョンと暖炉の遠い思い出】


暖炉の薪が小さくなってきた
「そろそろ薪を足さないと・・」
ジョングクがそう言いながら、新しい薪を焚べに暖炉の前に行く
テヒョンも付いてきて、ジョングクの隣にしゃがんで、しばらくジョングクが薪を焚べていく様子を見ていた

「僕が15の時、暖炉の火熾しをしたことがあってね」
テヒョンが不意に暖炉を見つめたまま話し始める
「テヒョン様がご自分でされたのですか?」
「いや、、、正確には教えてもらいながら火熾しをしたのだ」
ちょっと目線を下に落としながら、少しだけ笑って言った
「うちの屋敷に住み込みで働いていた女中の娘で、ナンシーという、僕より1つ年下の子がいたのだ。母親と同じように屋敷内のハウスキーピングをしていた。、、僕は彼女がたまたま暖炉の火熾しをしているのを見掛けたのだ」
ジョングクは黙ってテヒョンの話を聞きながら、一本づつ薪を足した
「思わず近づいて見ていた。そしたら彼女、僕に気付いてビックリしてね。手を止めてお辞儀をするから、僕を気にせずに火熾しを続けるように言ったよ」
テヒョンとジョングクの目の前で、新しい薪に火が移り、バチっと音を立てて火の粉が散った
「僕は上手に火を熾す彼女の手際の良さに見惚れていた。それで僕もやってみたくなって教えて欲しいと頼んだのだ」
「もしかしてその、、ナンシーという娘さんは、テヒョン様の想い人ってことですか?」
燃えていく薪を眺めていたテヒョンは、静かに瞼を閉じて、徐ろに話す
「今思えば、僕の初恋だったのだろうな」
「そうだったんですか、、、」
ジョングクはそう言って、空気が入りやすいように、薪バサミで薪と薪の間に隙間を作る
「ナンシーはまだ子供ながらも、屋敷の中のことは何でも出来た。僕は時間があればナンシーの仕事を見て回った。彼女は要領も良くて、効率的に動く姿はとても綺麗だった」
ジョングクはテヒョンの話を聞きながら、練習試合後にテヒョンが、フランシス嬢を見て言っていた『久しぶりに美しいと思える人を見た』の言葉の対象が、このナンシーという娘のことなのではないかと思った
「ナンシーさんは、美しい人だったのですか?」
ジョングクが聞いた
「うん。着飾るなんてことは無かったけど、だからこそ彼女の美しさに気付いて惹かれたのだ」
ジョングクはそっとテヒョンを横目で見る
炎の前のテヒョンの顔が、オレンジ色に揺れて光っていた
ジョングクは初恋を偲ぶテヒョンの美しい横顔に見惚れた 
すると、テヒョンがジョングクの方へ顔を向ける
思わず目を逸らしたジョングクは、誤魔化すように慌ててテヒョンに聞く
「ナンシーさんとは、、その後どうされたのですか?」
「よく一緒に行動したな。ナンシーがやってる事は、僕には未知なことばかりだったからね。楽しくて仕方がなかった。彼女からハウスキーピングの事を教えてもらう代りに、僕は彼女に沢山歌を聴かせたり、沢山本を読んであげたりして・・・」
テヒョンは話を途中で止めた
そして、ひとつ溜息をついて続ける
「でも、、ナンシーの母親が僕達二人の交友をよく思わなかったのだ」
「それはどうして?」
「身分が違いすぎる・・っていうのが、1番のハードルだったみたいだな」
「彼女には越えられないと?」
「ナンシーが僕達の身分の違いをどう思っていたのか、聞いた事がなかったから分からない。だけど僕は問題ないと思っていた」
「それで、どうしたんですか?」
「ナンシーの母親が女中を辞めて、ナンシーを連れて出て行ってしまった」
「え!?」
「僕は探そうとした。だけど、スミスから止められた。ナンシーの母親は、これ以上二人が本気にならないうちに、離れた方がお互いの為だと思ったのだそうだ。そして、スミスにだけ打ち明けたのだ。ナンシーの母親自身が、ある貴族の子息と恋仲になって、駆け落ちまでした過去があったことを
だけど、結局泣く泣く身を引く事になって・・。誰にも何も伝えず独りでナンシーを産んだ。・・だから、自分の娘に同じ苦労をして欲しくないと思ったと・・・」
ジョングクは黙ったまま聞いている
「よくある話だろ?身分、身分て。僕は身分で人を見たことは一度もない。だから彼女ともすぐ仲良くなれた。だけど時代が進んでも、まだ全てが自由になったわけじゃない。頭や心が越えられない人がまだまだいるのだ。貴族側にも一般の側にも・・陛下があんなに悩んで苦労している位だからな。・・・あの時の僕はナンシーに会うことも、話すことも出来ないまま、しばらく途方に暮れていた」
テヒョンは暖炉の前から立ち上がり、ソファに座った
「だけど、、、私は羨ましいです」
「え?」
ジョングクが暖炉の前で、前を向いたまま呟いた
「私には、初恋の思い出がありませんから」
ジョングクが静かに語る
「ジョングク?」
「たとえ二人に越えられなかった障害があったとしても、お互いに想いが通じ合った事実があるではないですか。その経験があるだけでも宝物です」
ジョングクが振り返って、テヒョンに笑顔でそう言った
「私には望めないものです」
ジョングクの笑顔が真顔に変わる
「望めない・・・って、なぜだ?」
「チョン家は、代々結婚出来る血筋が決められています。だから、恋をすること自体が出来ないのです」
「出来ないって・・・だけど、心は縛れないだろ?」
「はい。ですから、必要以上に他人と関わらないようにしてきました」
テヒョンは初めてジョングクを見た日の事を思い出した
ジョングクの《俯き加減で影があるような静かな佇まい》その理由がこれだったというのか?____
「君は、それでいいのか?」
「仕方ありません。私にはチョン家当主としての責務があります。詳しくは申せませんが、これは生まれ持った宿命なのです」
テヒョンは驚きと共に違和感を感じた
これは真のジョングクではない、ジョングクには似合わない言葉だと感じたからだ

ジョングク自身も、以前の自分とは違って違和感を感じていた
それがテヒョンとの出会いから変わってしまったという事にも気付いていた



※ 暖炉の画像はフランス外務省内の設置物です