今日は前回の記事からの続きです。
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前回は、現時点で 『食後の眠気』 の3主因の1つと考えられている「副交感神経が(急激に)優位になるため」についてまとめさせていただきました。
娘にも関係ありそうですが、必ず寝落ちするほどの原因となっているかどうかは・・・という印象でした。
そして今日は2番目の原因について調べてみたいと思います。
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その②。血糖スパイク。
「食後の急激な眠気は、血糖値の急上昇が原因である可能性があります。特に糖質を摂り過ぎると食後過血糖の状態となります。 この状態が続くとブドウ糖が脳に十分に行き渡らず、頭がぼーっとしたり、眠くなったりする症状につながります。 」
という記述を多く見かけましたが、実際の眠気の原因は、食後の血糖値の急上昇ではなく、その後に訪れる『低血糖』なのだそうです。
この食後の高血糖→低血糖への急激な変化を 『血糖スパイク』 と呼びます。
具体的には、食後に血糖値が180mg/dl以上に上昇し、そのあとインスリンの作用で食後3-4時間で血糖値が50mg/dlくらいまで急降下することを指します。
脳はブドウ糖しか栄養源にできません。
したがって、血糖値が下がる、つまり血液中のブドウ糖が少なくなると脳は働けなくなり、その結果眠くなってしまうのです。
ですがこの血糖スパイク、糖質を摂りすぎたからといって誰にでも起こるわけではありません。
基本的にはどんなに糖質を摂ろうと、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌能が正常であれば、食後に血糖値が急上昇することも、その後に低血糖が起こることもないからです。
"血糖値を下げるインスリンの分泌能が正常でない状態"といえば一番に思い浮かぶのは 『糖尿病』ですが、糖尿病の人に食後の過血糖が起こることはあっても、その後低血糖になることはまずありません。
ではいったいどんな人に 『血糖スパイク』 が生じるのでしょうか。
――それは、
『境界型糖尿病』 、つまり多くの人が自分が糖尿病の予備群(=耐糖能に異常がある)と気が付いていない、いわゆる 『かくれ糖尿病』 の人
なのです
少し詳しく説明してみたいと思います。
糖尿病かどうかを診断するための検査の1つに、"75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)"という検査があります。
空腹の状態で75gの糖が含まれる炭酸水(*粘くて甘い微炭酸)を飲み、
・飲む前
・飲んで30分後
・ 〃 1時間後
・ 〃 1時間半後
・ 〃 2時間後
の計5回採血を行って、それぞれの時間での血糖値や血中インスリン濃度を測定します。
その変化のパターンによって 「正常型」 か 「糖尿病型」 か 「境界型」 かを診断します。
下図をご覧下さい。
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・「正常型」は、空腹時血糖が100mg/dlを超えることはなく、一番高い時でも180mg/dlを超えることはありません。血糖値のピークは約30分後で、60分後には下がり始めています。
・「糖尿病型」は、空腹時から血糖値が高く(126mg/dl以上)、その後どんどん上昇して、一番高い時で200mg/dl以上になる。ピークは90分~120分で、その後の下がりも悪い。
・「境界型」は、空腹時は126mg/dl未満または正常型と同じくらい低いけれど、食後に急上昇して180(あるいは200)mg/dlを超える。ピークは60分後で、その後急降下し、120分後や180分後には空腹時より低くなり、時には低血糖を起こすこともある。
このグラフを見てお分かりいただけますように、食後に低血糖になる可能性があるのは、一般的には 「境界型」 だけ、ということになります。
(*糖尿病の薬の効きすぎなど、特殊な病態でももちろん起こり得ます)
ではなぜ血糖値の動きにこのような違いが生じるのでしょう。
答えは、膵臓からのインスリン分泌能の違いにあります。
下図をご覧下さい。
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食事を摂って血糖値が上がり始めると、それを感知して、膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞からインスリン分泌が開始されます。
・「正常型」は、食事開始後すぐにインスリンが分泌され始める。ピークは30分後。
→だから血糖値も食後30分を過ぎると下がりはじめる。
→血糖値が下がりはじめると、それを感知してインスリン分泌もすぐに下がりはじめる。
・「糖尿病型」は、ふだんから血糖値が高めなので、空腹時もインスリンの分泌が多め(*ただし糖尿病が進むとインスリン分泌は急激に低下します)。また血糖上昇に対する反応性が低下しているので、食後に血糖値が上がりはじめても、インスリン分泌量はなかなか増えない。
→そのためインスリンが足りなくて血糖値はどんどん上昇する。
→血糖値が上がるので、何とか下げようとインスリンも頑張って分泌され、120分後にやっとピークになる(それでも「正常型」より量は少ない)。
→それにより血糖値も120分後からようやく下がりはじめる。
→でも血糖値の高さに比べインスリンが少ないので、十分下がりきらない。
・「境界型」は、空腹時のインスリン分泌は正常型と同じかやや少なめ。けれど食後の血糖上昇に対する反応が低下しているので、30分後には正常型ではインスリン分泌がピークになっているにもかかわらず、境界型ではまだあまり分泌されていない。
→その30分の間に血糖値は急上昇してしまう。
→血糖値が急上昇するので、慌てた膵臓がインスリンを大量に分泌する。
→60分後にはインスリンが正常の倍以上(≧100μU/ml前後)も分泌され、高インスリン血症の状態となってしまう。
→そのため60分後から血糖値は急降下をはじめる。
→血糖値が下がりはじめるのでインスリン分泌量も急激に減るが、血糖値に比しインスリン過剰の状態となっているので、120分後、180分後に低血糖の状態に陥ってしまう(=反応性低血糖)。
要するに、「境界型」 つまり 「かくれ糖尿病」 とは、
・血糖上昇に対するインスリンの反応性が低下している=分泌遅延がある
・インスリン分泌量は低下していなので、過剰に分泌されてしまう=高インスリン血症になる
という状態であり、そのせいで
・血糖値が食後の短時間だけ高くなってしまう(=食後過血糖)
・食後2~3時間で低血糖を起こす恐れがある(=反応性低血糖)
を来してしまう状態なのです。
しかも怖いことに
・インスリンの過剰分泌が続くと膵臓のβ細胞が疲弊してしまい、やがてインスリン分泌量が低下して本当の糖尿病に至ってしまう
(*イメージとしては、馬を全力で走らせていると疲れて走れなくなる感じ)
・糖尿病は血糖値が高いことで動脈硬化が進みさまざまな合併症が引き起こされるが、食後過血糖から低血糖への乱高下(=血糖スパイク)やインスリン過剰の状態(=高インスリン血症)も同じくらい動脈硬化を悪化させる
のだそうです
ですから「境界型」=「かくれ糖尿病」を早期に発見し、早くから糖質の摂取を控えて食後過血糖を予防することが重要なのですって
特に私たち日本人を含むアジア人は欧米人に比べもともとインスリン分泌量が少なく、糖尿病になりやすいらしいので、注意が必要です
ではこの「境界型」=「かくれ糖尿病」 は、どうすれば発見できるのでしょう
健診の時、一般的に「空腹で来て下さい」と言われますので、当然血糖値は低く、見つけることは難しいです。
(*空腹時の正常値は<110mg/dlとなっていますが、本当に正常の人は<100mg/dlらしいです。空腹で100~109だと少し怪しいのだとか)
ですが、健診で血糖値と一緒に測定してくれることの多い 『HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)』 という値が、結構役に立つそうです。
『HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)』とは、その時点から遡って過去1~2ヶ月間の血糖の平均値を表す指標です。
血糖値がその瞬間の値を表すのに比べ、HbA1cは過去1~2ヶ月間の空腹時や食後の高い時すべての平均を反映します。
(*だから糖尿病の患者さんが怒られたくなくて受診の時に食事を抜いて血糖値を下げてきても、HbA1cが高くてバレてしまうのだとか)
「境界型」 の人は食後過血糖が起こっているので、このHbA1cが微妙に高くなっていることが多いそうです。
たとえば、HbA1cの正常値は、検査結果には"6.2以下"と書かれていることが多いようですが、これが"6.5以上"だと「糖尿病型」と診断されます。
一般的には"7.0以上"になると治療が必要と言われています。
ですが本当の正常値、すなわち耐糖能異常のまったくないほんものの「正常型」の人は"5.5以下"とされており、最近の自治体の健診ではこの"5.5以下"が正常値として採用されていることも多くなっています。
いっぽう 「境界型」の人の場合はHbA1cが"5.6~6.4"くらいと、わずかに上がっていることが多いようです。
ですのでHbA1c値が5.5を超えている方は
「もしかして自分も『かくれ糖尿』」
と気にして、糖質摂取を控えるなり、病院で75gOGTTを受けてみるなりする必要があるのですって
(*なぜこんなに詳しいのか・・・それは私自身が「境界型糖尿病」だからです 健診でHbA1cが5.8あって判明しました。ちなみに上の2つの表の「境界型」のデータは、私のOGTTの結果を参考にさせていただきました。私は痩せてるのでダイエットや糖尿病とは無縁と思い込み、昼食を食べる時間がない時などはエンゼル○イを食べて過ごしたり、何より牛乳が大好きで毎日大量に飲んでいました(牛乳200mlに糖質は10g含まれる)。白米も大好きです。遺伝的な要因に加え(母も痩せているけど同じくらいの値でした)、そんな食習慣が膵臓を疲弊させてしまったようですます。先生によると「よく食べるけど太らない人」に境界型の人がかなりの確率で隠れているとのことでした その後牛乳を控え白米も1食500g→100gにしたらHbA1cは5.2まで下がりました。でもカレーや丼物、うどんなど炭水化物の多いものを摂ると、やっぱり血糖値は200以上に上がってしまいます)
―― 話が逸れてしまいましたが、
全員が全員ではありませんが、かくれ糖尿病のある人が糖質を過剰に摂取してしまうと食後過血糖ののち反応性低血糖が起こります。
この低血糖によって脳の働きが低下し、眠くなってしまうようです。
また、高血糖になりますと、血糖値を下げようとして副交感神経が働きます。
前回書かせていただきましたように、副交感神経が優位になりますと眠くなる可能性はあります。
その後の低血糖では逆に血糖値を上げようと交感神経優位になりますが、交感神経が興奮して覚醒するより、低血糖による眠気の方が強力、ってことでしょうか
そしてこの食後過血糖→反応性低血糖により交感神経優位→副交感神経優位→また交感神経優位と自律神経バランスの急転換がおこることで、いっそう食後の眠気が助長されている可能性があります。
ちなみに娘のHbA1cは5.2と正常でした。
実際、娘の血糖変動は緩やかで、食後過血糖も反応性低血糖もなさそうなことは、かつてリブレの記録して判明しています。
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また反応性低血糖は食後2-3時間で起こることから、娘の眠気が起こる時間(食後10分~30分)とはズレがあります。
――以上より、『血糖スパイク』はどうやら娘の眠気の原因ではなさそうな気がします。
となるといったい原因は・・・
次回、考察してみたいと思います。