という訳で、安政の大地震の後、隅田川を水位の上がった高波が押し寄せたが、
地震の被害は優愛の母親のお店でもそれほどではなかった。
茶碗が割れた程度だった。
むしろ水戸藩主・徳川斉昭の支持を受け、水戸尊王攘夷のオピニオンリーダー
・藤田東湖の圧死が藩関係者の悲痛を集めた。
秘かに藤田東湖を師を慕っていたのは優愛の先生・山縣継之助だった。
藤田東湖は西郷隆盛からも慕われていたと言われ、
本当の尊王攘夷派の父—-と言えた。
その東湖が安政の大地震で天国に召されたというのは、
単なる偶然だったのだろうか。
山縣継之助と東湖の息子との関係とその後は、また本編で触れることになる。
☆
ところで主人公の優愛はそんなことは無関心――。
でも先生・継之介の表情を見ると
「東湖先生の死は残念でした」—-というほかない。
それでも尊たかだか王攘夷などどうだっていいーー。
たかだか武士のわがまま、身勝手ーー。
ひとの生き方には関心はあっても、
思想そのものに関心はないーー、
だから逆に明るいままのーー優愛でした。
「先生」がなくなったのは寂しいけど、
いつまでもそれを引きずるのは継之助先生らしくないーー。
それよりも学問にはげみましょう。
優愛の本音はそこだった。そう励ますしかなかった。