かいだん。
病院にも怪談があります。
解離性大動脈りゅうは、三日以内の死亡率が70%、一週間以内が50%です。
私は、緊急処置室でじっと仰向けのまま安静です。
救命機器の倉庫のように、私のベッドの周りは、複雑な機器が待機しています。
緊急な容態のわりに、私の頭と意識は明瞭です。
たびたびのCT検査。
当時は全身が暑くなるような造影剤を注入します。
点滴による降圧剤。
昼も夜も同じように過ぎていきます。
時折子どもの声がします。
ベッドの足元に廊下が見えます。
病室と廊下の壁は模様ガラス。
出入り口だけ上から半分、カーテンが下がっています。
緑色の常夜灯。寝静まった夜中なのでしょう。
物音ひとつしません。
すると、廊下を通り過ぎる人影が見えます。
『子ども?』
背の低さからそう思いました。
まもなくカーテンに差し掛かります。
足が見えるはずです。
『子どもかな?』
けれども
人影は途切れました。
人の足音も、服の擦れる音も聞こえません。
翌朝そのことを看護師さんに話したら、
「ここは小児病棟ではありません。」
その後、病院は取り壊され移転しました。