棒身並びに太刀捥ぎ鈎に桜花が金の布目象眼で入れられた十手で、棒身の柄元に姫路明珍宗之の銘が入れられています。十手の象眼や銘が入れられるのは非常に珍しいです。

 十手の収集を始めた20年程前、古美術雑誌に掲載された銀流し十手(江戸町奉行所官給十手)を購入するため、東京の古美術店を訪れたものの購入は叶いませんでした。その帰り道、たまたま目に付いた古美術店に立ち寄ったところ、この十手があり購入した次第です。

 象眼入り十手のほとんどは近代作のあと象眼といわれますが、本十手は、その後、メトロポリタン美術館特別顧問の小川盛弘先生にお目にかかることがあり、鑑定して貰ったところ、「一見新しいものだと感じましたが、詳細に見たところ表面に浮いた錆と象眼の中に入った錆が一緒なので時代物と判断できます。幕末か明治初年の作でしょう。明珍宗之は甲冑師ですので調べて見てください。」とお墨付きを頂いた。

 

 鍛鉄八角形桜花金象嵌棒身 鉄大振り平鈎 黒漆磨き鮫革丸握柄

 宝珠形鉄紐付け鐶 棒身に「姫路臣明珍百翁宗之作」の切銘あり

 長さ34.8㎝ 重さ570g

 

 

※ 姫路明珍家は、播磨国姫路藩(酒井家)に仕えた平安時代から続く甲冑師で

 す。12世紀半ば、近衛天皇に鐙と轡を献上し、天皇から「類いまれなる珍器」

 と称賛され明珍の名を賜りました。 

  宗之は始祖から48代目(27代宗之)で、明治になって甲冑製作の仕事がなく

 なったため火箸製作を家業としました。103歳で没したといわれます。