これまでのおはなし

第1話 発端

第2話 契機

第3話 契機2

 

 

 

サインはだいたい気づかない。
気づかないから、サインなのだ。

 

 

久しぶりにあう友人は、わたしの知っている友人の雰囲気ではなかった。
友人の名前はナオキ。

 

雰囲気が変わったというのは、
悪い意味ではなく、いい方にだ。

 


「おー、ウエダ。ひさしぶり。」

 

 

友人は全員、わたしのことを名字で呼ぶ。
名前、知らないんじゃないか。
わたしは、だいたいニックネームか名前で呼ぶ。

 

 

「今日、届いてたよ、招待状。おめでとう!」

 

 

わたしはひきこもりだが、社交的なほうだ。
社交的なひきこもりだ。
暗い雰囲気ではない。むしろ人とはよくしゃべるほうなのだ。

 


「ごめんな、黙ってて。なんか話すとウエダに笑われそうでさ」


「なんで?結婚するのに笑うわけないじゃん」


「まぁ、とりあえず飲み物注文しようや。ビール?」


「いや、ビールは飲めん。チューハイのライムで」

 

 

ナオキは慣れた感じで店員を呼び、やってきた女性店員にビールとチューハイを注文する。適当に食べ物も何個か注文していく。


「ウエダは、きらいなものあったっけ?」

 

「トマトだけ。無理。」

 

「じゃあ、トマトサラダのトマト抜きをください」

 

女性店員はあっけにとられた顔をして、聞き返してきた。

 

「え、え? トマトサラダのトマト抜きですか?」


彼女のクセなのか、ちょっとだけ顔を左右に振りながらこたえる。
ナオキは笑顔で返した。

 

「ごめんなさい、シーザーサラダで」

 

久しぶりに会う友人は、オシャレになっていた。
服はむかしから別に変なものを着ているわけじゃなかったけど、
顔とかの雰囲気がなんとなく、かっこいい。髪型もオシャレな感じだった。
結婚する男は変わるものなのか。


そもそも、こんなに女性と気軽にしゃべるやつだっけ?

 

ドリンクが運ばれてくる間、話の続きを聞いた。
わたしがタバコを取り出すと、ナオキは前にあった灰皿を手で押し出してくる。

 


「で、いきなり結婚?ちょっとくらい教えてくれてもさー、よくない?」


「ごめんごめん。さっきも言ったけど、なんか笑われそうでさ」


「だーから、なんで笑うのよ。で、キッカケはなんだったの?大学時代の子じゃないよね?」

 


ナオキは話しづらそうにしていた。ビールばかりが減っていく。
2杯めのビールを注文すると、ポツポツと話し始めた。

 

 

「笑うなよ?っていうか、軽蔑するなよ?」

 

「軽蔑? なに、もしかして犯罪とか?」

 

「そんなわけねーだろ!」

 

話はどんどん脱線し、
ナオキの2杯めのビールが半分になったころ、ようやく結婚する相手の話を
語りだした。

 


「実はさ、彼女と出会ったの、ナンパなんだよね」

 

「は?え?はあ?!ナンパ? ナオキが?」

 


わたしはナオキが何を言っているのか一瞬わからなかった。
ナンパなんて言葉はナオキから出てくるはずがないのだ。

 

大学時代のナオキは、ふつうだった。
ふつうなのだ。
別に顔も悪くないし、服装も特別かっこよっくもなければダサくない。
彼女もいた。美人タイプではなく、かわいい雰囲気の彼女だった。
ナオキはオタク趣味でもないし、友人付き合いもいい。

 

わるい言い方をすると、モブキャラ。

 

主人公タイプではなくふつうのキャラ。
ゲームでいう街にいる決まりきったセリフしか話さないキャラだ。


ドラえもんでいうと、のび太、ジャイアン、スネ夫、しずかちゃん、出来杉君。その他のクラスメイト。その他のクラスメイトが、モブキャラ。


害もないが、特別でもない。
「ウエダ」という名字をもつわたしも、十分なモブキャラだが、わたし自身はわたしが主人公だ。

 

そのナオキの口から出た言葉は、「ナンパ」だった。
わたしはかなりの衝撃を受けていた。

 

 

「だよねー、おれのこと知っているウエダからすればその反応よねー」

 

 

「え、どういうこと?ナオキ、ナンパするの?ナンパって声をかけるやつよね?」


わたしは動揺を隠しきれずナオキに早口で質問した。チューハイは空になりそうだった。

 

 


「焦るなって。今日は話すから。おかわりする?」

 

 

 

物事が変わり始めるときは突然だ。
それは殆どの場合、人がサインを持ってくる。