特技懇No.289の論文です。

 

オーストラリアで実用新案に相当するイノベーション特許制度は廃止が決まったそうです。

理由として、審査請求制度がない(a)法的不安定性、進歩性が要求され(b)革新性基準の低さ、特許からの(c)分割出願の濫用が挙げられています。

 

我が国の実用新案と共通するのは(a)法的不安定性ですが、制度がかなり異なっており、あまり我が国の実用新案廃止論とは結びつかないと感じます。

 

ただ、我が国の実用新案制度が役割を終えつつあるのは、出願数から明らかで、個人的にはそろそろ廃止の議論をしても良いのではと思っています。

 

http://www.tokugikon.jp/gikonshi/289/289kiko1.pdf

オーストラリアには、通常の特許制度に加え、実用新案制度に相当するイノベーション特許制度というものが存在するが、この制度が今後廃止される見込みとなった。本稿では、イノベーション特許制度とはどのような制度であるのか、これがいかなる理由で廃止すべきとされたのか、廃止に向けてなされた議論から我が国の実用新案制度の在り方についてどのような示唆を得られるかについて、検討する。

 

( a )法的不安定性
登録されたイノベーション特許のうち、審査請求されるものは全体の15%程度にすぎず、多くのイノベーション特許は有効性が確定しない状態にあるため、第三者の予見可能性を損なっている。日本の実用新案制度も、技術評価を経ていない登録実用新案が多数存在する点において、同様の法的不安定性を有するが、イノベーション特許制度を含むオーストラリアの特許制度においては、表4 のとおり侵害に関する損害賠償責任の発生に関する考え方について日本の特許制度・実用新案制度と相違があり、これによって第三者の負担がより重くなっている。

 

( b )革新性基準の低さ
前述のとおり、革新性基準は新規性基準と大差のないものと見られており、その基準の低さのため、イノベーション特許の審査証明が容易になされるとともに、イノベーション特許の無効化も極端に困難にされていると考えられている。このような低い革新性基準が、イノベーション特許制度に様々な問題点をもたらしているとして、ACIP 及び生産性委員会による検討が行われた。

 

( c )分割出願の濫用
制度の戦略的利用の最たるものとして、ACIP報告書及びPC報告書の双方で大きく取り上げられたのが、通常特許出願の分割出願としてイノベーション特許出願を多数行うものであった。これは、係属中の通常特許出願について侵害が疑われる製品があった場合に、当該通常特許出願からの分割により複数のイノベーション特許出願を行い、当該製品の特徴に向けられたクレームをそれぞれのイノベーション特許出願に含めることで当該製品を包囲するというものである。

 

6. 結び
本稿では、オーストラリアにおけるイノベーション特許制度の廃止は、我が国の実用新案制度と制度上相違する事項に起因する問題への対処を契機に検討されたものであり、我が国の実用新案制度を廃止すべきことを直ちに示唆するものではないことを示した。一方で、現行実用新案制度が実用新案権者にとって過度に厳しい内容となっている可能性が示唆されることを指摘した。また、将来における実用新案制度の改廃検討に際して、イノベーション特許制度に関してなされた経済分析の手法の適用可能性及び有用性や、制度改正に避けるべき方向性が示されていることを述べた。本稿が、オーストラリアにおけるイノベーション特許制度の廃止に向けた経緯の理解や、我が国実用新案制度の在り方の検討の一助になれば幸いである。