昨日の日経朝刊法務面に、「AI時代のサムライ業(下)人工知能どう考える 」として、日本弁理士会会長と日本弁護士連合会会長へのインタビューが掲載されていました。

 

弁理士業務の92.1%はAIで代替可能、一方弁護士業務は1.2%がAIで代替可能とのことです。

 

しかし、弁理士業務は技術やクレーム解釈など、ある面では弁護士さんよりも専門性が高いです。一読しただけで、違和感を感じる前提です。

 

日本弁理士会の渡邉会長が、馬鹿馬鹿しい問いに対して真面目に答えていますので、一部を引用します。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO2198412006102017TCJ001/

 野村総合研究所は2015年、英オックスフォード大学との共同研究で企業法務に関する士(サムライ)業が「10~20年後に人工知能(AI)に代替される可能性が高い」と指摘した。業界団体首脳はどう考えるのか。日本弁理士会の渡辺敬介会長と日本弁護士連合会の中本和洋会長に聞いた。


代替分、コンサルに活路 日本弁理士会 渡辺敬介会長

 ――野村総研などの研究で、弁理士の仕事の実に92.1%がAIで代替可能と指摘されました。

 「我々もAIの影響はあると思っている。ただ、同研究は弁理士の仕事を定型的と断定したようだが半分は間違っている。弁理士の主な仕事である特許出願の場合、特許庁への各種定型書類の提出と、(中核的な書類である)特許明細書を書く業務に大別できる」

 「前者は弁理士以外がAIを使って処理できそうだが、後者は一品料理を作るような極めて個別的で創造的な仕事だ。発明者は発明の内容を理解しているが、特許として有利に記述するノウハウは持たない。弁理士は発明者の話を聞きながら、その表情も読み取りつつ、明細書を書き上げていく。当面、AIにできるとは思わない」

 ――手続き業務も合わせれば、5割代替されるということでは。

 「5割はいかない。ミスのチェックなど弁理士自身がAIを使って業務を効率化できることを考慮しても、せいぜい4割といったところだ」

 

読めばわかるように、定型的な仕事の多くは、特許事務員さんの仕事です。書類のチェックなどは、徐々にAIに代替されてゆく可能性が高いです。しかし、日本に関しては若年層が減り人手不足が懸念されますので、少人数で効率的に仕事のできることは、むしろプラスと思います。それに、事務員さんの仕事は書類のチェックだけではありません。

 

お客さんとの面談はもちろん、弁理士の中核業務であるクレーム作成、クレーム解釈などを、言葉の意味を理解できないAIが代替できるとは思えません。機械翻訳のようなラフな原案は作れるかもしれませんが、結局はスキルのある人間が必要です。

 

調査に関しては、検索式作成やパテントマップ作成の仕事は徐々に自動化されて減って行くでしょうが、結果の判断やグラフの分析など、思考力を要する仕事が残って行くのではないでしょうか。

 

以下のサイトで、弁理士の右田先生も言われていますが、クレーム作成はきわめて創作的な活動です。

http://www.legalnet-ms.jp/topics/2016/003335.html

人工知能の話について上で少し触れました。人工知能に弁理士の業務が代替されるかという点に関してはこう思います。クレーム(特許請求の範囲)を作成する作業は、顧客企業と競合他社の製品や権利の現状と将来像を様々に想定して知識と経験を総動員して行なう必要があり、きわめて創作的な活動です。弁理士になって10年以上経ちますが、今でも悩みに悩んでクレームを作成しています。この作業が人工知能に代替される日が来たとしたら、それはおよそ世の中のほとんどの知的労働が代替された後のことでしょうから心配しても仕方がありません。特許庁の審査官や知財高裁の裁判官の業務よりも、クレームを作成する弁理士の作業は人工知能への代替が困難でしょう。審査官が居なくなった後の時代のことを心配するよりも、ワープロやPCの延長の手段として人工知能を活用して一部の作業を楽にし、弁理士はクレームの作成に専念するのが良いかもしれません。むしろ歓迎すべき時代でしょう。そして、人工知能に追いつかれないようにクレーム作成のスキルを日々高めるように努力していくことが大切だと思います。

 

この野村総研などのレポートは、以下のサイトに掲載されているもののようです。AIに関するレポートは、士業の実情を知らない国内外の研究員が書いたものと断言できます。

http://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/738555.html

株式会社野村総合研究所は 2016年1月12日、研究報告講演会と記者説明会を行なった。野村総研は昨年(2015年)12月2日付で「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」と題するニュースリリースを出した。国内601種類の職業について、それぞれ人工知能やロボット等で代替される確率を試算したところ「10〜20年後に、日本の労働人口の約49%が就いている職業において、それらに代替することが可能」との推計結果が得られたというもの。記者会見ではその背景が解説された。