1971年からの地図

1971年からの地図

見たもの聞いたもの感じたものについて、とりあえずざっくりと説明するブログです。守備範囲はやや広め。

響け!ユーフォニアム3が先の日曜に最終回となってしまった。初回は2015年ということで足掛け9年、古くからのファンにとっては感慨深いものがあることだろう。私自身はこの1年ほどのニワカなのだけれど、この作品を見終わっての評価というのにどうも相応しい言葉が出てこない。最高であり傑作でもあり、かつ比較できるものが他にない、となるとこれは「至高」だというしかないだろう。なのでそう思う理由をあげていく。



  1.ストーリー構成が異常に凄い。

何だかアホみたいな感想だが、事実その通りだから仕方がない。1、2年生編では部内の様々なトラブルに巻き込まれ、その解決にすごく近い場所で立ち会う中で人間的に成長し、その中で得た人望から3年生久美子部長編になる。のだけれどよくよく考えると久美子はそれら問題の解決に影響は与えてはいるが、解決自身は皆当の本人が果たしたもので、久美子自身は当事者ではない。だが、3年生になるとかつて自分が関わってきたトラブルが姿を変え自分自身がその当事者となってしまうという恐ろしい内容になっている。黒江真由とのソリ争いなどは最たる例だけれど、部長としての統率力不足は小笠原先輩であった話だし、進路に悩む姿は希美と霙のそれに被ってくるものがある。奏のオーディション辞退問題もそうだし、後輩から愛あるゴン詰をされる姿はあすか先輩の時に見た姿だ。親友の麗奈もまたかつて自分が選ばれた「実力」という同じ理由で愛する久美子をソリから外すという地獄のような選択をしている。ひょっとして3年生編でこれが描きたいが為に1年生、2年生編で伏線を張っていた?とすると本当に凄い作者だと思う。1年生の時の麗奈の「いい子ちゃんの皮をペリペリしたい」的発言や、あすか先輩の「本音を晒さない相手に誰が本音を話すの?」的な発言についても、3年生編で久美子がその発言を乗り越えて成長する姿を見ていると、やっぱあれも伏線だったかと思わざるを得ないのだ。とにかく今まで見てきたアニメでこういう因果応報なストーリー展開は見た事がない。何となく鎌倉殿の13人の最終回を思い出した。本当凄いと思う。



  ​キャラ描写が異常に凄い。

響け!ユーフォニアムの特徴として登場人物の考察がyoutubeやSNSなどで数多く語られているところにある。3期では特に黒江真由の行動、性格について多く語られており、その多くが「そうかー、そういう見方ができるのねえ。」と思わせる深い考察がされている。ちなみに黒江の特徴は本心でない事を話す時は髪を触っているというのがあって、そんな癖は物語では一言も触れられていないのだけれど、実際その通りとなっている。

3期の唯一の欠点は尺が足りてないという所で、その関係もあって久美子と麗奈以外のキャラクターの登場がかなり削られているのだけれど、登場していないキャラクターでも多分画面外ではこういう行動をしているんじゃないかなという、小説でいえば行間を読む的な事が自然に思い至るようになっている、例えばチューバ部隊がオーディション前後でそんなにギスギスしないのは加藤葉月が影で物凄くフォローしているに違いない、といった事が容易に想像できる、という事でこういったことができるとういう点も本当凄いなと思った次第だ。



  ​声優の力量が異常に凄い。

当たり前なのだけれどプロの声優というのは本当に凄い、と思った。代表的な例を挙げると久美子役の声優さんは中学生から大人になるまでの声質に変化をつけて演じていて、そんな事本当にできるの?てな事を本当にやっている。感情の乗せ方も本当上手くて、声を聞いただけで今久美子はどんな表情をしているのかが容易に思い浮かべる事ができる、くらいのレベルの高い演技をされている。よく上手い役者は声優をやっても上手いと言われるのだけれど、その理屈でいうと久美子役の声優さんが俳優になったらアカデミー賞クラスじゃないの?って思うほどに上手いのだ。その他のキャストもまた然りで総じてレベルが高くて本当凄いと思う。


  作画レベルが異常に凄い

京都アニメーションという事で元から期待値は高いのだけれど、その期待値通り日本最高レベルの作画だと思う。印象に残るシーンの書き込みは文字通り鬼気迫るものを感じるほどで、むしろその表現力の高さから「ここ凄く大事なポイント」てのが感じ取れるのがある意味凄い。個人的には舞台となる宇治や京都の描写が好きで、実際行ってみたくもなるし、行ったらいったで見たまんま、というのが本当に楽しい。



  ​原作改変が凄い。

3期で衝撃的だったのは、主人公の久美子が最終局面で結局ソリを獲れなかったという所に尽きるかと思う。自分の予想では全国ではソリを奪回するものだと思っていたし、実際原作もその通りとなっているようだ。〜からのソリ落選はかなりの衝撃だったし原作のファンからしたらそのショックは更に相当だったろうというのは容易に想像がつく。これは完全に推測なのだけれど、3期制作が当初の予定通りの進捗ならおそらく久美子ソリ、全国金というシナリオだったと思う。だが例の事件のせいで最終話まで9年という時間を費やすこととなってしまった。9年という年月は10代20代であれば進学、就職、結婚と人生における次のステージに移るのには十分な長さだ。確かに理想を追い求める人生は崇高なものかもしれないが、大抵はステージが変わる途中で様々な理由でそれを諦め、それでもできる範囲の中で精一杯の努力をしてせめて悔いの無い人生を送る事を目指していく、多くの人はそうではないだろうか。今回の久美子はまさにそういう立場だったのだが、そういう意味では3期で一番の重要話はソリ落選の12話ではなく、その一つ前の11話だったのだと思う。姉との会話であった「大人になるってそういう事かもね」であったり、緑の「今は将来への種まきの時期だと思っている」であったり、霙の「そんな姿全く想像できない」といったセリフはいずれも「特別ではない自分がどう特別になるか」という覚悟を決めるための前振りだったように思える。5年で完結する話なら原作通りにした方が良い気もするが9年となるとちょっと違うかもと改変した脚本家の勇気は凄いし、それを許可した原作者もまた凄いし、そしてその改変はとてもより良いものになった、と私は思っている。



  ​最終回にかけた想いが凄い。

物語の熱量を12話に持ってきた結果、最終回はハッピーエンドなエピローグといった構成だった。ソリを逃した経緯から金も無いかも、といった予想も少しだけしていたけれどそういうこともなく非常にいい締め方だったと思う。まず思ったのはこの最終話は放火事件で亡くなったスタッフに向けた鎮魂歌でもあったのだろうという事だ。最終演奏とともに過去の思い出がフラッシュバックするというのはストレートに感情にクるものがあるのだけれど、本作のこの演出に限ってはそうすることで過去のスタッフと一緒にこの作品をフィニッシュするんだ、という想いが感じられる。同じく最終話タイトル「つながるメロディ」についても北宇治高校の中の話としてはもちろんそうなのだけれど、京都アニメーションの中でも過去のスタッフの想いを未来へ繋いでいく、という意図を感じる。そういう意味でいうと11話での滝先生の「積み上げるのは石ではなく人」という言葉に非常に重みを感じるし、金賞受賞後の亡き妻への報告も、形を変えた天国のスタッフへの報告なのだな、と私は感じた。


以上が私がユーフォ3を至高だとする理由だ。今後も最高と言える作品には出会えるだろうがこれだけ「至高」と言える作品は正直ちょっと無いような気がしている。


兎にも角にもこの素晴らしい作品を作ってくれた関係者には感謝しかないし、盛り上げてくれたファンの方々にもまた感謝している。


ひょっとしたらスピンオフも期待できるかと思うので、そういう日が来るのを楽しみにすることにする。


で、そんな作品は当然無いのだけれど、個人的には弁護士でも検事でもトラブルシューターでも何でもいいのであすか先輩社会人編が見てみたいと思っている。