これは初めての経験だ。

出房予定日を2日ほど過ぎているのに、人工分蜂した日本蜜蜂蜂群に残している王台から新女王が出房してこない。何かしらの原因で王台内の新女王蜂児が死亡した事は予想が着くが、いったいどうしたのだろうか。王台を切り取って中を確認してビックリした。何と [ 逆子 ] だった。それゆえに羽化して成虫になっていたのだが出房できず、そのまま王台内で死亡していたのだった。

 

王台内の蜂児が蛹になると、周囲の働き蜂が王台に付着している蜜蝋を齧り取って繭が露出するようになる。私はこの [ 王台の蜜蝋齧り(蜜蝋除去) ] について、王台内の女王の向きまで感じ取って [ 女王の頭部がある王台下端の蜜蝋を齧り取っている ] ものと考えていた。ところが驚いた事に、中身が逆子になっていて王台下端に女王の尾部が来きていても、働き蜂たちは王台の下端の蜜蝋を齧り取っていた。よって [ 王台の蜜蝋齧りは、内部の女王の体の向き(上向きまたは下向き)には無関係に王台の下端の蜜蝋を齧り取る ] という事が判った。

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新女王が王台内で死亡してしまったので、既に王抜きをかけてから1週間ほど経過している事から、そのままでは日本蜜蜂ゆえに [ 激しい働き蜂産卵 ] が始まってしまう。仮に王台移植したとしても、その日のうちに出房して来るような王台でなければ働き蜂産卵開始までに女王誕生が間に合わない。よって私は [ 既交尾女王移入 ] を選択した。

 

王台内女王死が起きた蜂群内には変性王台ができていたので、隣りの蜂群から既交尾女王を取り出してきて王台内女王死が起きた蜂群へ女王移入した。女王を取り出された事で無王群になった蜂群には、王台内女王死が起きた蜂群内にできていた王台を切り出してきて移植した。

 

西洋蜜蜂は無王になってもすぐには働き蜂産卵に陥らないので、女王移入や王台移植はとても簡単であり、かつ、何度でも再試行可能だ。ところが女王がいなくなると日本蜜蜂はすぐに激しい働き蜂産卵が始まってしまうので、前述のような面倒な女王移入等の操作が必要になる。ちなみに日本蜜蜂の場合、[ 激しい働き蜂産卵 ] に陥った時点で、その蜂群のその後の全滅が決定してしまうため、何が何でも激しい働き蜂産卵を防止する必要がある。

 

 

写真は [ 北信流王籠 ] から解放した直後の既交尾女王。周辺の働き蜂が一気に集まって来て蜂球となった。だが攻撃を受ける様子はなく、周囲の働き蜂が盛んに触覚で女王に触れている。また、女王に向けて口吻を伸ばしている働き蜂もいる。赤矢印指示部に見えているのが移入した既交尾女王の腹部。

 

西洋蜜蜂とは異なり日本蜜蜂は [ 自他の区別 ] が厳格なので、女王を血縁の有無にかかわらず蜂群へ簡単に移入することは難しい。私は蜂群同士が合同してゆく様子を丁寧に観察し、[ 蜜蜂の蜂群合同の原理 ] を理解した。これを利用して日本蜜蜂女王を [ 移入成功率 100% ] で目的の蜂群へ女王移入できるようにしている。

 

この [ 北信流日本蜜蜂女王移入法 ] を施術しやすいように、かつ、効果が出やすいように工夫して作ったものが [ 北信流王籠 ] だ。この北信流王籠と北信流日本蜜蜂女王移入法は、某大学の Y教授から高い評価を頂戴した方法で、まだ私は公開はしていない。特に高く評価されたのは、日本蜜蜂他群女王が移入先へ馴染んでゆくシステムの解明と、その効果が出やすいように構築した北信流女王移入法についてだった。

 

写真は王籠から移入女王を開放してから5分後に蜂球を優しく突き崩して撮影したものだが、血縁の無い他群の女王でありながら既に周辺の働き蜂から受け入れられ [ ロイヤルコート ] が形成されている。

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このようにして北信流日本蜜蜂養蜂術では、女王死が起きても女王移入等で即対応できる。その際には変性王台を使用するなどして、人工分蜂作業や連続した女王蜂生産が延々と可能になっている。

 

ただし、現在私の日本蜜蜂が居候させていただいている蜂友の蜂場は、私の自宅から車で走って1時間近くかかるため、自宅や長野市里山蜂場で飼育している時のようには即対応できないため、不覚にも春の捕獲群が無王になった時には激しい働き蜂産卵に陥らせてしまった。

 

残念ながら日本蜜蜂養蜂にかかわる様々な養蜂技術を持っていたとしても、当該蜂群を身近に置いておかないと速やかな対応はできないのである。