桜の花期が去り、あるいは地域によっては開花が始まり、養蜂家は蜜蜂の分蜂行動に目をとがらせる時期である。特に日本蜜蜂の養蜂家にあっては金稜辺などの誘引する蘭の管理も加わって大忙しだ。そんな日本蜜蜂の分蜂群の移動範囲や移動中の休憩等について諸説は色々。私がこれまで観察してきた日本蜜蜂の分蜂群の行動について紹介したい。

 

[ 分蜂行動に先だって起きる新居の偵察行動は何時から始まるか ]

これは王椀が作られ産卵され、これが孵化して幼虫になり、やがて蛹の前である [ 前蛹 ] になったあたりからであろうと私は見ている。そもそも王台内のの蜂児のうち最も成長が進んだ蜂児が [ 前蛹 ] になったあたりから [ 分蜂行動 ] が起きるからである。どうかすると分蜂前、最も成長が進んだ王台内蜂児が [ 幼虫 ] のうちから母巣内から [ 偵察蜂 ] が出現しているかもしれない。

 

[ 分蜂群の移動距離 ]

私は過去に母巣から飛び出て付近に蜂球なった分蜂球の行方を追ったことがある。基本的に蜂球表面でおこなわれる [ 8の字ダンス ] によって新居先の方角は容易に読み取れる。その距離は [ 円ダンス(8の字のうち一方の円だけが大きく、もう一方の円が極小)] なのか [ 8の字ダンス ] なのかによって予想が着く。また、8の字ダンスの場合には尻振り行動の強さでもおよそ予想が着く。

 

私が過去に確認したものでは、入居先が近いものでは墓地に生えた木の樹洞に営巣していた日本蜜蜂が分蜂して [ 1.5m(150cm) ] ほど横にあったお墓に入居した。これは樹洞中の日本蜜蜂を観察に出向いた折、目前で分蜂行動が始まって一旦は木の枝にとまり、その1時間後ほどにお墓に入居したものなので間違いはない。だが、これでは分蜂行動に際して [ 母巣へ戻る蜂 ] と [ 新居へ入る蜂 ] との両方から放たれる [ ナサノフ腺フェロモン ] によって混乱が生じ、効率よい分蜂行動にはならないと考えられる。が、それはそうと普通に分蜂行動が完了して、その後も時々観察に出かけたが 2ヶ月後に至っても健全に営巣していた。ちなみに出入り口の高さは、樹洞とお墓でほぼ同じ高さだった。

 

これに似たものでは、桐の木の樹洞の [ 地上高 7m ] ほどに営巣している日本蜜蜂において、その営巣中の木の根元に待ち箱を置いていたところ、母巣から分蜂して大風・大雨の中を1週間ほど桐の枝の高所で蜂球になっていた後、そのまま直下にある待ち箱へ入居となった。よって水平距離にしたら [ 0~1m ] という事になる。この蜂群も観察中に母巣から分蜂し、連日の観察中に蜂球が飛び立って入居したので間違いはない。

よって [ 母巣から直近に入居することもある ] という事である。

 

入居先が遠いものでは、[ 母巣から800m~900m ] というものがある。既にブログ内でも紹介している通りで、隣り合う桐の木すべてに日本蜜蜂が野生営巣していた桐林からの分蜂群を追跡した時の事。[ 風速 2m/sほどの向かい風 ] の中を飛び、[ 600m ] ほど飛行したところで疲れたらしく働き蜂たちが10平方メートルほどの範囲の小木や草の葉の上にバラバラに止まりはじめ、やがて1カ所へ集まって蜂球になった。再び蜂球場で8の字ダンスが盛んにおこなわれるようになってきた事から、ダンスと待ち箱へ飛来している偵察蜂の様子から私の仕掛けた待ち箱(この先150mほどに設置)へ入居しようとしていることを読み取れたので、この蜂球まで巣箱を持ってきて捕獲した。

 

この様子から、分蜂群の移動距離はせいぜい [ 1km ] ほどであろうと私は見ている。よほど飛んだとしても [ 2km ] まで飛ぶことはあるのだろうか? そもそもそんなに遠出せずとも入居できる場所は幾らでも存在する上、分蜂群についてゆく新働き蜂には羽化してからどれほどの日数も経過していないまだ飛行が苦手な若蜂も随行し、加えてそんな蜂までも腹いっぱいに蜜を飲んでいるため、これでは遠距離の飛行が不可能だからだ。特に [ 西洋蜜蜂では蜂球になって休んでいた場所に大量の蜂蜜を吐き捨ててゆく ] 行動が観察される事がある。これも大量に蜜を飲んで分蜂したものの、飛翔力が足りなかったり蜜を飲み過ぎて重過ぎたりで飛べなくなった時におこなう働き蜂の行動であろう。ただし、私はまだ日本蜜蜂では [ 分蜂群の蜂蜜吐き捨て行動 ] を目撃したことは無い

 

それゆえに観察した蜂群では 600m~700mほど飛行したところで疲れて休憩を入れている。参考までにだが、分蜂群を誘引していて待ち箱へ往復する偵察蜂の行方から確認できた母巣および母巣直近にある分蜂球との距離は、たいてい [ 0~500m ] ほどが多かった。これ以上の遠距離になってくると、偵察蜂がどこの母巣・分蜂球から飛来しているのか人による探索確認が不可能になってくるからかもしれないが。

もし研究者を含む誰が聞いても [ 遠距離である ] と確実に確認がとれている分蜂群の飛来の情報をお持ちの人がおられたらなら、ぜひ情報を頂戴したい。

 

[ 飛行中の蜂群の形 ]

上に記した [ 母巣から800m~900m ] の観察例では [ 向かい風 2~3m/s ] ほどの風の中の飛行ゆえに、リンゴ畑の果樹の上 [ 地上高 3~5mほど ] を木の上すれすれに飛んでいた。しかも時々木の陰になり風が淀んだ場所をうまく利用しながら、[ 前後(7~8m )に伸びた平面的(幅 3mほど)な形 ] の分蜂群の移動だった。

和歌山県の山間部にあるビルの3階から見た移動中の日本蜜蜂分蜂群にあっては、ほぼ無風の中、[ 地上高 7m ] ほどを [ 直径4mほどの鶏卵型(縦置き)] でゆっくりと飛行していた。

ブログに紹介している10年以上前の観察では、ほぼ無風の中、小木を切り倒し草刈りを終えた草地の上を [ 地上高 70cm~2mほど ] の高さを [ 横長の楕円形(直径5mほど) ] で待ち箱まで飛行してきた。

 

[ そのほかの分蜂群の観察 ]

強風が吹く中を飛行し入居してくる分蜂群は少ない。しかしながら既に新居へ向けて飛行を始めた時に強風が吹き始めたらしく、数年前の我家に置いた待ち箱では、やってきた蜂球が強風に吹き飛ばされてしまい入居できず、自宅の風下側にあった私の蘭棚の下面へ蜂球になった。そしてここで人為的に捕獲した。

 

長野県戸隠村の誘引観察では、待ち箱にやってきたのだがそのまま通過して 100mほど先まで飛び去って行ってしまい。10分ほどして再び待ち箱まで戻ってきて入居した。

 

これは私が初めて分蜂群を誘引した時の事、金稜辺付きで待ち箱を設置して待っていたところ、やがて飛んできた分蜂群は待ち箱を通り過ぎて、20mほど先にある杉の樹洞へ入居した。ところが分蜂群の一部は本隊から分裂して待ち箱に添えた金稜辺蘭に誘引され、女王無しのまま待ち箱に居ついてしまった。この経験から [ 金稜辺の扱い方には注意を要する ] ことを実体験をもって学んだ。