養蜂家には天敵であるオオスズメバチについて、昨年の観察を少々書いてみたい。

 

近年はツマアカスズメバチが朝鮮半島、対馬、九州、日本本土へと のしてきており、養蜂家と蜜蜂にとっては天敵であるオオスズメバチだが、そんなオオスズメバチに [ ツマアカスズメバチを殲滅する益虫 ] としての価値を見いだされ始めている。

 

オオスズメバチについて昨年の5月下旬頃、日本蜜蜂捕獲箱を見回りにゆくと重低音な羽音がする。耳を澄まして羽音のする方へ眼をやると、営巣場所を探しているオオスズメバチ女王の姿があった。ところが羽音はこの1匹ではなく、周辺から複数の羽音が聞こえてきており、アブラゼミほどの大きさがあるため少し離れた場所からであってもそんなオオスズメバチ女王を視認できた。

 

この時、20㎡ほどの中にオオスズメバチ女王が5匹ほどいただろうか。こんな高密度でオオスズメバチ女王が営巣場所を探す姿は見たことが無い。ちょうどこの付近には枯れて倒木になった樹洞のある複数の桐の木や、積み上げた枯れ枝等があって、ここに営巣しようと出たり入ったり、歩いたりして営巣場所を探していた。

 

毎年この付近にはオオスズメバチの巣が作られ捕獲している場所であり、加えて樹洞のある複数の桐の倒木があった事から、

[ これだけ高密度で女王蜂が営巣場所を探していれば、1巣くらい巣作りするだろう ]

と期待していたのだが、結果的に秋になって出かけてみたが営巣は皆無だった。

( ちなみに昨秋にこの場所にあるクヌギ樹液場所にてオオスズメバチを餌付けして追跡し、北方へ600mほどにかなり大きな巣を発見した。同様にして南南西へ400mにかなり大きなオオスズメバチ1巣、更に南西へ1300mにオオスズメバチ巨大巣1巣を発見した )

 

このようなことはクロスズメバチの世界ではごく普通の事で、営巣場所を探すクロスズメバチ女王が5mおきくらいにいることも珍しい事ではなく、しかしながらら晩夏~秋になって営巣を確認できるかというと営巣は皆無の事がほとんど。

 

そう、新女王による巣の創設期から働き蜂が誕生し始め、やがて安定期まで達する巣・蜂群は極めて少ないのである。それゆえに野生状態にある各種スズメバチの女王蜂創設巣の観察は難しく、これをしっかり安定期に至るまで観察するためには [ 女王蜂が事故死しない ]  [ カビや外敵による被害を受けない ] などの [ 運 ] も必要になる。

 

( 我家に営巣したヒメスズメバチの気性の荒さを確認しているところ )

 

( 巣に手で触れ刺激したところ、オオスズメバチとほぼ同サイズの体を持つ複数の警戒蜂が飛び出てきて相当に威嚇してくるが、無防備な半袖・短パンの服装でありながら決して刺されることは無い )

 

( 我家の金属製物置に営巣した観察中のフタモンアシナガバチが、ここから15mか20mほど北側に営巣している我家に営巣中のヒメスズメバチに見つかってしまい、連日の襲撃を受けている様子 )

 

昨年はそんな観察を数種類のスズメバチにおいて幾らかしており、我家に積み上げた空の蜜蜂巣箱内へ自然営巣・野生営巣した [ ヒメスズメバチ ] などは、一旦は 3部屋ほどの女王創設巣を私が除去してしまったが、翌日には再び同じ巣箱内に女王による創設巣が作られ始め、結果として写真のように営巣後期まで無事に至っている。女王創設巣から初期巣あたりの巣がここまで到達できる確率は低いので、偶然といえば偶然だが良い観察の機会に恵まれたものだ。

 

ちなみに某大学の研究室では、既に大型系スズメバチについてマルハナバチと同様、

[ 人工空間・閉鎖空間の中において何世代も新女王の生産・交尾・女王創設巣・働き蜂羽化出房・配偶個体産出・新女王の交尾・女王創設巣・働き蜂羽化出房・・・ ]

という一連のスズメバチ飼養が可能になっている。これは盛んにスズメバチを食べる中国や東南アジアのオオスズメバチの研究施設でも同様の事をおこなって YouTube動画に公開されているので見た事のある人も多いはずだ。

 

2度と昨年のような機会には恵まれないと思うが、ご縁あれば昨年のようにヒメスズメバチに営巣して欲しいものだ。クロスズメバチとヒメスズメバチを除くスズメバチの場合には攻撃性が強く、住宅地の真ん中にある我家では近所迷惑になり飼育できないからだ。

 

 

写真は、オオスズメバチに擬態している何かしらのガの幼虫。ダーウィンの進化論では説明できない生き物の [ 擬態 ] の世界は摩訶不思議だ。