幾らか問い合わせ来ていた [ 旧女王による王鳴き「クイーンパイピング」 ] を考察してみたい。

 

分蜂期を迎えて次々に未交尾新女王が羽化する頃、巣内では出房した [ 未交尾新女王 ] [ プーーーープゥプゥプゥプゥ、プーーーープゥプゥプゥプゥ・・・ ] と規則正しく鳴いている場面に出くわす事がある。私はこの鳴き方を単に [ 王鳴き ] と呼んでいるが、正式には [ クイーンパーピング(トゥティング) ] という。

 

この王鳴きについて、これまでは出房したばかりの 

[ 未交尾新女王が鳴くのであって、旧女王は鳴かない ]

とされてきたが、旧女王を切羽する事で旧女王も王鳴き(クイーンパーピング(トゥティング))をおこなう事を確認できた。これは 、

[ 旧女王を切羽することによって分蜂行動時に飛べないので枝先等にできた分蜂球へ合流できず、出戻り分蜂になる事から「出巣しなかった旧女王が未交尾新女王との殺し合いを防止・回避するため」に王鳴きしている ] 

と私は考察している。そうしないと出戻り分蜂になった巣内では未交尾新女王が次々に羽化してきて殺し合いになるため、老化によって動きの鈍い旧女王は簡単に喧嘩に負けて殺されてしまうからだ。

 

では [ 切羽した旧女王の全てが王鳴きするのか ] と言うとそうではない。切羽によって飛行できなくても分蜂行動時に地表を這って出ていく旧女王が多いのである。この場合には、旧女王が合流できないので分蜂群本隊は出戻り分蜂になって帰巣してくるが、這い出ていった旧女王はピンポン玉程度の大きさの蜂球のお供を連れて出巣したまま帰巣せず、そのうちに蟻などに食べられてしまう。

・・・よってこのような場合には旧女王による王鳴きは起きない。また、旧女王が出巣せず出戻り分蜂した蜂群内において、最も成長した王台内の蜂児が羽化出房まで数日かかるような場合にも王鳴きは起きないと思われる。

 

また、未交尾新女王による王鳴きが起きている時には、タイミングとして次々に未交尾新女王の羽化がおこなわれている時が多い。ところが旧女王の場合には、[ 成長が最も進んだ王台内の蜂児の成長程度が基準になって分蜂行動 ] を起こしているので、成長が最も進んだ王台内の蜂児が [ 前蛹 ] あるいは次の段階の [ 白色蛹 ] になったあたりから分蜂行動を何時でも起こすようになるため、[ 次々に未交尾新女王の羽化出房始まる「前」に旧女王の分蜂行動が起きる ] 事が多いので王鳴きの必要が無く、このために今まで旧女王による王鳴きの報告がほとんど無く、 [ 王鳴きは未交尾新女王が鳴くのであって、旧女王は鳴かない ] と誤解されてきた。

 

そう、

[ 野生群、飼育群の別にかかわらず旧女王が王鳴きする条件はほとんど揃うことが無い ]

のである。旧女王が王鳴きを必要とする条件がそろう前に分蜂を完了している事がほとんどなのだ。それゆえにこれまで旧女王による王鳴きの目撃例がほとんど報告されなかったのである。

これは旧女王による王鳴きを観察した私の考察なので、旧女王による王鳴きについては他の要因もまだ潜伏していると考えている。

 

日本蜜蜂養蜂においても私は必ず全女王蜂を切羽しているので、この蜂群が切羽女王入り西洋蜜蜂と同様の行動をする事は確認できている。ただし、日本蜜蜂の方は飼育群数が少なく面倒を見やすいため、分蜂行動を起こす前に旧女王を極小群として人工分蜂して取り出してしまうため、まだ日本蜜蜂旧女王の王鳴きに遭遇したことは無く、私は日本蜜蜂の王鳴きは未交尾新女王で観察したのみである。基本的に西洋蜜蜂と日本蜜蜂ではその生態が酷似しているので、王鳴き音(振動)の抑揚や断続が和洋両蜜蜂で異なるだけで、旧女王による王鳴き条件等は同様であると私はみている。