「しゃっくり」は医学用語で吃逆(きつぎゃく)と言います。英語で「hiccup(ヒッカップ)」です。

 

82歳男性 他院で昨日コロナ感染と診断されましたが、「しゃっくり」が止まらないとの訴えで当院を受診されました。

 

「しゃっくり」とは横隔膜の不随意運動です。不随意運動とは自分で意識せずに勝手に動くことを言います。以前、横隔膜の連続性ミオクローヌスで呼吸苦を訴えた患者さんをベリーダンサー症候群(Leeuewhoek’s diease、diaphragm flutter)として紹介しました。

 

「しゃっくり」はこの不随意運動がベリーダンサー症候群より長い間隔で起こります。さてコロナ感染症患者さんがしゃっくりを訴えた場合、ウイルス性肺炎が肺の横隔膜に接する部分で炎症をきたして刺激している可能性を考える必要があります。胸部のCTを撮影しましたが下肺の炎症は認めませんでした。

 

発熱もなく、酸素飽和度も異常がありません。意識も清明で脳梗塞を疑う所見はありません。このように「しゃっくり」がなかなか止まらない場合を難治性吃逆(intractable hiccup)と言います。

 

You tubeを見ますといろいろ「しゃっくり」の止め方を示した動画があります。

「舌を引っ張る」「冷水をコップの反対側から飲む」「眼を圧迫する(網膜剥離を助長するため推奨されない)」などが紹介されています。しかしあくまで民間療法です。これで「しゃっくり」が止まってくれればラッキーです。

 

PubMedを使って「intractable hiccup」のキーワードで調べてみました。

Current Neurology and Neuroscience Reports (2018) 18:51の論文に総説がありました。この総説論文では「しゃっくり」の原因として循環器系、呼吸器系、消化器系疾患が隠れている可能性を考えろとあります。「敗血症性胸鎖関節炎」「肺梗塞を伴う肺塞栓」「薬剤のドネペジル」がしゃっくりの原因と考えられた例を紹介しています。

 

治療に関しては十分なエビデンスがあるものはないと記載されています。紹介されている薬剤としてはメトクロプラミド、フェニトイン、ドロペリドール、クロルプロマジン、バクロフェン、バルプロ酸、ニフェジピン、ガバペンチンなどがあります。また40歳男性が妻との性交渉によって「難治性吃逆」が治った例も紹介されています。

 

他に「直腸を指でマッサージ」「鼻腔にお酢を0.1ml投与」の方法もしゃっくりが止まったとして紹介されています。しかし大規模研究は行われていないため経験治療としての紹介です。お酢を鼻腔に入れるって痛そうですね。

 

お酢の鼻腔投与については嗅覚障害のリスクを考える必要があります。この患者さんにはお酢の鼻腔投与について本人に説明し同意が得られたため0.1ml投与しました。確かに投与してすぐにしゃっくりが止まりました。

 

翌日も外来で診察しましたが「しゃっくり」は止まっていました。