本日の救急車患者さんです。

 

既往は脂質異常のみです。

屋外で作業中にしゃがみこんだため同僚が救急要請をしました。

本人曰く、意識障害はなくすべて覚えていると言っています。来院時は意識清明です。軽度の頭痛を訴えています。 血圧は168/98mmHg 体温36.8℃ 心拍85bpm 酸素飽和度97%です。

 

受け答えは問題なく、四肢麻痺もありません。瞳孔の異常なし。臥位で安静にしていると頭痛は改善してきたとのことです。第一印象は脱水や腎機能障害を考えました。点滴を行い、血液検査を提出しましたが腎機能障害や電解質異常はありません。頭痛が改善傾向で元気そうな印象でしたので点滴終了と共に帰宅を考えていました。

 

途中トイレに起き上がると嘔吐したと看護師さんから連絡が入りました。「おかしいな。単なる脱水としては起き上がって嘔吐など起こりにくいだろう」と考えました。病気の診断にはこの違和感が大切です。考えている病態の病歴と合わないときは、自分の考えが間違っている可能性を考えます。これが誤診を予防する最大の武器です。研修医はこの違和感を見逃します。

 

推論です。「臥位で頭痛が改善。座ると脳圧が上がり嘔吐。軽度だが頭痛がある。血圧が高め」→やはり頭蓋内疾患を考えるべきだと考え頭部CTを撮影しました。

 

診断はクモ膜下出血でした。一般的には「突然発症のバットで殴られたような頭痛」と表現されることが多いのですがこの患者さんの頭痛は軽度で改善傾向でした。脳圧が高くなると意識障害を起こすこともありますが、この患者さんは意識清明で会話も流暢です。典型的な症状を訴えて来院する患者さんばかりではありません。クモ膜下出血の場合、1回目の警告出血は小出血のため今回の患者さんのように典型的な症状が出にくいです。しかし数日あけて大出血が起きることがあり致死的になりえます。大出血が来る前に動脈瘤治療が必要です。一見、軽症にみえる中の重症患者さんを見逃さないためには感じた違和感を見逃さないことです。

 

見逃さないようにするために軽症患者さんに対し全員頭部CTを撮影するのは愚の骨頂です。

放射線被爆を考慮していません。行う医療行為には必ず負の側面があるのです。1人の病気の患者さんを見つけ出すために何人の健康な人に放射線を被爆させることになるのでしょうか。誤診を防ぐためだからと言って許されることではありません。病歴を無視して、検査に依存する医者はすぐにCTを撮影したがります。検査に依存する医者は検査に騙されると私は考えています。

 

血圧を下げる持続注射を開始し、脳神経外科のある病院に搬送となりました。

自分も常に誤診していないか不安を感じながら診察を行っています。

 

クモ膜下出血で診断が遅れた訴訟記事です