名古屋の赤十字病院で研修医が10代の患者の「上腸間膜動脈症候群」を「急性胃腸炎」と誤診して患者さんが亡くなる医療事故がありました。

 

「上腸間膜動脈症候群」とは腹部の大動脈から分岐した上腸間膜動脈と大動脈に十二指腸が挟まれて食物の通過障害を起こす病気です。一般的にはやせ体型の方に発生しやすいです。よくある病歴としては「神経性食思不振症の患者さんの繰り返す嘔吐」で来院された場合に考慮しなくてはいけません。今回の患者さんが神経性食思不振症だったかはわかりません。上間膜動脈症候群が直接死因となることは少ないのですが、今回の患者さんは脱水だったという一部報道があります。神経性食思不振症から高度脱水で亡くなる可能性はあります。

 

前のブログで誤診は起こるものと記載しました。問題は起きた誤診をどうリカバリーするかが大切です。誤診をしても患者さんが亡くならないようにする方法はあったはずです。新聞記事によりますと研修医が上級医に患者さんの報告をできていなかったようです。私も研修医と一緒に患者さんを診ることはありますが、症状から病名の鑑別を挙げる能力は発展途上です。一人で判断させることはありません。研修医の性格にもよりますが、慎重な研修医は上級医に自分から報告します。しかし安易に考える研修医も中にはいます。このような研修医は危険です。上級医は指導する研修医の性格を知っておく必要があります。

 

研修医は自分の知っている病気に患者さんを当てはめようとします。自分の知らない病気は診断できません。医者になって20年以上経過しますが今でも自分の診断は正しいのか疑問を持ちながら仕事をしています。自分が考えている病気の経過に合わないときは診断を考え直すか合併症の存在を考えます。どんな場合もその姿勢を持ち続ける必要があると感じています。

 

たかがインフルエンザ感染と侮っていた患者さんがウイルス性心筋炎で亡くなることもあります。軽症と思われている患者に隠れた重症患者さんを見逃さない姿勢が必要です。