東京大学名誉教授の沖中重雄先生はその生涯の誤診率を14.2%と示しました。「患者さんはその誤診率の高さに驚き、医師はその低さに驚いた」というエピソードがあります。

 

世間と医療関係者では「誤診」に対する考え方が異なります。医者は医療が不確実なものであることを知っています。しかし世間では医療は完璧なものと考えられがちです。

 

以前のブログで病気の診断プロセスを示してきました。医者は、誤診はあって当たり前と考えています。

 

病気の診断において「検査」ではなく「病歴」がとても重要です。診断学を専門とする多くの医師は「病歴」で診断の80%が決まると考えています。過去のブログでは検査で診断を確定できない病気を示してきました。検査で診断を確定できない病気があるから「診断」はとても難しいのです。残念ながら日本の卒後研修では診断学を軽視してきました。高度医療の教育を主としているからです。

 

医療は完璧なものではありません。検査をすれば簡単に診断ができるわけではないのです。

「これだけ医療が発展した現代で・・」という枕詞をよく耳にしますが、発展しているのは一部分のみです。AIを使った診断機器の開発が進められていますが現時点ではまだ使えるものではありません。

 

一つの例を示します。発熱・咽頭痛で35歳の女性が来院しました。迅速検査で医者は「溶連菌による咽頭炎」と診断し抗生物質を処方しました。しかし症状が改善しないため他の医療機関を受診し「細菌性縦隔炎」と診断されました。これは誤診でしょうか? いいえ違います。これは溶連菌感染症の合併症を発症したのです。

 

感冒と診断された患者さんが「ウイルス性髄膜炎」「心筋炎」を発症することもあります。

これも病気が進展して合併症が発症し病名が変わっただけです。誤診ではありません。

 

「病歴」で診断の80%が決まると説明しました。高齢者では認知機能の低下から自分の病歴をうまく表現できない患者さんがいます。このような患者さんでは誤診率は高くなります。以前、患者さんが「飲み込みにくい」という訴えで来院したことがあります。しかし翌週の診察の時は「食欲がない」に訴えが変化しました。

 

「飲み込みにくい症状は元々ないと言います」。「飲み込みにくい」という訴えと「食欲がない」という訴えでは考える病気が異なります。これでは誤診してしまいます。したがって医者に自分の症状をどう伝えるかがとても重要なのです。

 

問題は患者さんへの説明です。「現時点では〇〇という病気が考えられるが時間経過で診断が変わる可能性がある」と説明しておく必要があります。1回の診察で診断を確定できなくても時間経過を見ると診断が確定できることがあるからです。

 

一方で、放射線レポートで「癌」と記載されているにもかかわらず本人に伝え忘れていて癌が進展した場合は医療過誤です。明らかな過失です。誤診と医療過誤は異なります。

 

これを混同されている方は多いと思います。