先日、他院から紹介となった患者さんが糖尿病にたいして「イミグレミン」という薬を投与されていたので調べてみました。私は今迄に使用したことはありません。

 

以前からある糖尿病治療薬である「メトホルミン」の副作用の乳酸アシドーシスを回避することを目的に開発されたそうです。発売は2021年です。糖尿病の内服治療薬の第一選択薬は「メトホルミン」です。「イミグレミン」の構造は「メトホルミン」に類似しています。「メトホルミン」は世界中で使用されていますが「イミグレミン」は日本でしか使用できません。

 

大規模臨床研究は探してみましたがありませんでした。発売前の治験のみです(小規模の研究)。「メトホルミン」と併用すると副作用の胃腸障害が出現しやすいことがわかりました。基本的には「メトホルミン」の代替的な位置付けです。腎機能が低下している患者さんには使用しにくいです。「メトホルミン」は古い薬であり薬価も低いです。1日の最大容量を服用しても40円程度です。これに対し「イミグレミン」は1日で68円程です。

 

糖尿病の短期的な治療効果目標はHbA1c(ヘモグロビンA1c)を使用します。しかし糖尿病の治療目的はHbA1cを低下させることではなく長期合併症(脳梗塞 心筋梗塞 腎症 網膜症 神経症)を予防することにあります。「メトホルミン」は古い薬のため副作用のデータや有効性についてエビデンスがありますが、「イミグレミン」は大規模臨床研究が行われていないので合併症予防へのエビデンスはありません。また長期的副作用のデータもありません。

 

医者が患者さんの薬を選択するときに、有効性—安全性—コストを勘案しながら薬を選択します。したがって大規模臨床研究を行っていない薬は使用しにくいのです。上記の理由から患者さんからの希望が無ければ私が自ら「イミグレミン」を選択することはなさそうです。新薬が発売されたからと言ってすぐに飛びつくのは良医とは言えません。有効性や安全性を犠牲にして選択することは得策ではないと思うからです。