皆さんは健康診断でコレステロールが高いと言われたことはありますか? コレステロールと言っても「総コレステロール」、「中性脂肪」、「HDL-コレステロール」、「LDL-コレステロール」がありどの数字をみて医者は考えているのでしょう? 基本的には「LDL-コレステロール」が悪玉コレステロールと言われておりこの数字が高くないかは重要です。しかし「中性脂肪」については明確なエビデンスはありません。中性脂肪の正常値は150mg/dl以下と記載されていますが、数字がこれ以上だからと言って薬を服用するメリットはよくわかっていないのです。家族性高コレステロール血症で異常に中性脂肪が高い場合は急性膵炎のリスクと考えられていますが、数字を下げれば膵炎を予防できるかどうかはわかっていません。

 

基本的にコレステロールは高くても何も症状はありません。LDL-コレステロールが高い方は将来動脈硬化から血管疾患を発症するリスクがあります。具体的には脳卒中や心筋梗塞、狭心症、末梢性動脈閉塞症などです。その他の動脈硬化のリスク因子としては高血圧 糖尿病 肥満 喫煙などがあります。この因子が多ければ多いほどリスクが高くなります。

 

その為、脂質異常の管理の目的は血液検査の数字を低下させることではありません。踏み込んで考えた場合、病気を予防できることが重要なのです。数字が低下しても病気を予防できない薬を服用しても仕方がありません。臨床研究の結果から薬に病気を予防できるというエビデンスがあるかどうかが重要なのです。

 

脂質異常(コレステロール異常)の場合の考え方は2つあります。一次予防と二次予防の観点で考えます。米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)の発行しているガイドラインに記載されています。

 

一次予防は血管疾患を発症したことがない方に病気の発症を予防するための方針を考えることを言います。二次予防とは血管疾患を発症したことがある患者さんに次の血管疾患の発症を予防するための方針を考えることを言います。

 

薬を投与する医者は一次予防で投与するのか、二次予防で投与するのかを考えて薬の処方をしなければいけません。基本的には二次予防ではスタチン系の抗コレステロール薬を服用したほうが良いと言われています。一次予防では糖尿病のある患者さんやLDL-コレステロールが190mg/dl以上ある時に薬の服用を考慮すべきと考えられています。

 

LDL-コレステロールがこれ以下の数字で、糖尿病もなければ10yr-ASCVDリスクを計算して評価します。血管リスク評価(10yr-ASCVD)を行い数字が高い場合、薬を服用したほうが良いと考えられています。

下記のページではそのリスクを計算してくれます。

https://clincalc.com/Cardiology/ASCVD/PooledCohort.aspx

 

決して血液検査の数字が高いからというだけで薬を投与しているわけではありません。しかし、私が現在引き継いだ患者さんの中にはプライマリケアの考えができていない医者からリスクが高くないのに数字が高いという理由だけで薬が処方されている患者さんがいます。一人ひとり10-yr-ASCVDリスクを計算してリスクが高くない場合は薬の中止を提案しています。

 

本日説明した患者さんは「今までそんな説明をしてくれた医者はいない。説明に納得したから薬の中止に同意します」と言ってくれました。

 

医者の中にもガイドラインを読んでいない医者もいます。もちろんガイドラインは必ず従わなければいけない絶対的ルールではないのですがガイドラインを知っている上で、医学的適応以外の部分も考慮したうえで薬を投与するかしないかを判断しないといけません。

 

残念ながらそのレベルに達していない医者もたくさんいます。