86歳男性
主訴:歩行できなくなった。
妻との二人暮らし 活動度自宅内でトイレ 風呂は自立
認知症あり
半年前から時々自宅内で転倒
2週間前にふらつきのため救急車で当院に搬送となるも、来院時は症状消失し歩行可能のため帰宅。1週間前にも同様の症状で他院を受診し頭部CTを撮影されるも異常なしと判断され帰宅となる。3日前に自宅で動けなくなり救急搬送された。
意識は清明。会話可能。 血圧、脈拍、呼吸数、体温、酸素飽和度に異常なし。
難聴や耳鳴りなし 眼振なし
四肢の筋力低下はないが、起立するとふらついて歩行できない。
安静時振戦なし。四肢の固縮や痙縮なし 動作緩慢もない
診察では小脳症状は認めませんでした。位置覚異常なし 深部覚異常なし
入院時の血液検査や心電図は異常なし
診察上、パーキンソン症状はないと判断しました。患者さんのふらつきは「運動失調」と考えました。日本神経学会のホームページによると運動失調は脳 脳幹 脊髄 小脳 耳(前庭)の障害で起こりえるそうです。原因は感染、中毒 神経変性 血管障害etc.です。
ビタミンB12欠乏による亜急性連合性脊髄変性症、神経梅毒、甲状腺機能低下などの検査を追加で提出し頭部のCTを撮影したところ脳室の拡大を認めています。1週間前に他院で頭部CTを撮影しているのに見逃したのかな?
水頭症を疑います。水頭症を疑った場合は頭部CTでエバンススコアを測定します。エバンススコア= 0.38です。この値が0.3以上の時は水頭症を疑います。
高齢者の「正常圧水頭症」では失禁、歩行困難、認知症の症状が3大症状です。家族に確認すると時々尿失禁を認めていたそうです。認知症もあり歩行障害もあるため「正常圧水頭症」を疑います。
正常圧水頭症を疑うと次に「タップテスト」と言って、背中から針を刺し、髄液を30-50ml除去します。タップテストの前後でTUG(time up and go test)とMMSE(mini-mental state examination)で改善が認められれば、水頭症の診断が確定します。治療は脳室-腹腔シャントという手術です。脳神経外科で手術となります。
手術をしなければ歩行が改善する見込みはありません。しかし、この患者さんは86歳です。本人は手術を拒否しています。ご家族に方針を説明しました。
診断を確定するにはタップテストが必要。診断が確定した場合、手術をしなければ歩行障害の改善は期待できないので自宅に帰ることは困難となり、施設入所が必要だろう。高齢で手術を行って水頭症は改善しても入院によるせん妄や活動度の低下の懸念もある。本人は手術を希望していない。これらを判断するにしてもまずは脳神経内科医の診察を受けたほうがよいと思う。
上記を説明し転院の上、精査を行うこととなりました。