62歳女性 頸が腫れた

 

3日前から右頸部の腫れに気が付いたそうです。しかし痛みはありません。原因を考える時にどういう構造物が腫れているかで考える病気が変わります。発熱なし 食欲低下なし 盗汗なし 咳なし 胸痛なし 腹痛なしです。

 

唾液腺であれば「ミクリッツ病(IgG4関連疾患)」、「シェーグレン症候群」を考えます。痛みがあれば「唾石症」を考えますが痛みがないので除外です。唾石症とは結石が唾液腺の管に詰まる病気です。

 

リンパ節なら考える病気はたくさんあります。リンパ節を触るときは①大きさ ②圧痛の有無 ③形 ④周囲との癒合傾向 ⑤頸部のみなのか全身なのかを考えながら診察をおこないます。鑑別疾患は「伝染性単核球症様症候群」、「スティル病」、「血清病」、「リンパ腫」、「結核」、「菊池病」、「キャッスルマン病」、「サルコイドーシス」、「膠原病」などです。

 

診察では確かに右の頸部が腫れているように見えます。しかし触っても唾液腺やリンパ節ではなさそうです。

 

超音波検査を行い、どの構造物の異常かを診ましたが真皮の深い部分の浮腫みのように見えますがやはりリンパ節や唾液腺ではありませんでした。

 

頸部の腫脹では「血管浮腫」も鑑別になります。血管浮腫の原因は先天性 後天性 薬剤性がありますが、この年齢で先天性は考えません。C1qインヒビターという補体関連タンパクの異常でも血管浮腫は出現します。しかし一番頻度が高いのは「薬剤性血管浮腫」です。薬剤性血管浮腫から喉頭浮腫に進展し死亡例もあるそうです。薬剤としてはザクビトリル・バルサルタン(エンレスト)、アンジオテンシン転換酵素阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬が有名です。心不全や高血圧の薬です。

 

患者さんの薬手帳を確認しました。アンジオテンシン受容体拮抗薬を服用しています。

 

まずは薬剤性血管浮腫を疑い、薬を中止することとしました。診断を確定するための検査などはありません。血管浮腫の場合、中止して改善するまで7-10日ほどかかることがあるため2週間後に再度受診してもらうように説明しました。

 

たかが薬の副作用と思われがちですが案外それに気づかない医者は多いのです。