「塞栓」とは血液の塊が血流に乗って全身にばらまかれる状態です。脳の血管を塞いでしまえば脳卒中を起こしえます。一般の脳卒中との違いは右脳にも左脳にも塞栓子が流れるので左右の脳卒中所見を呈します。

 

有名な塞栓の原因としては不整脈の一種である「心房細動」が挙げられます。心房細動の患者さんでは血液サラサラの抗凝固薬を服用していることが多いです。心臓の一部が痙攣して血流が滞ると血液は固まる性質があります。

 

心臓の弁に細菌が住み着く状態を「感染性心内膜炎」と言います。原因不明の発熱、倦怠感、意識障害などで病院を受診します。この感染性心内膜炎も心臓からの塞栓の原因となります。心内膜炎というと多くの医者は感染性心内膜炎を思い浮かべるのですが、「非感染性心内膜炎」という病態もあります。Non-bacterial thombotic endocarditis(NBTE)と言われます。これは自己免疫疾患や悪性腫瘍などが血管内皮を障害してフィブリン塊を形成する病態です。同じく「塞栓」の原因となります。有名なNBTEの一つとして「リープマン・サックス心内膜炎」があります。

 

珍しい病気では「心臓粘液腫」と言われる良性の腫瘍も塞栓を起こしえます。不明熱や倦怠感で病院を受診します。治療は心臓の手術です。同じく心臓の良性腫瘍としては「乳頭状弾性線維腫も塞栓の原因となります。症状が出るまえに心臓の超音波検査で偶然発見されることが多いようです。治療は手術です。

 

多発脳卒中の患者さんは脳神経内科に搬送されることが多いのですが、その原因として上記の疾患を想定しておく必要があります。脳卒中だから脳の専門家が患者さんを診察すれば良いというわけではありません。(心臓に原因があるかもしれません)