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その人は、鏡の中でずっとオレを見ていた。
最初は気付かなかった。
相葉さんが操るシャカシャカ小気味良いリズミカルなハサミの音に気を取られていて、
鏡の奥、刺すような視線がオレに注がれていることに。
わー、結構切るんだ…
鏡の中、思ったよりも短くなった自分の前髪を見ていた。
ふと気付く。
相葉さんの肩の後ろの方、男の人が一人いる。
腕組みして壁にもたれて、ジッとこっちを見ている。
スタッフの人?
さっき挨拶した時にはいなかったけど。
気付いてしまったら、すごく気になって。
「相葉さん…」
「…ん?なに?」
「あの…」
「トイレ?」
「違う…」
「もちょっとで終わるからさ、動かないで?」
チラリと見上げた相葉さんは、見たことのないような真剣な顔してて、その必死さがヒシヒシと伝わる。
(余計なコト、言っちゃダメだ)
オレは視線から逃れるように目を閉じた。
そのうち無くなるだろうと。
…………
でも、ヒリヒリ焼けつくような感覚に、どうにも我慢できなくなって、
…そっと瞼を持ち上げてみる。
「!!っ」
無くなるどころか、逆にグンと近づいていた。
驚きで肩がピクリとなって、その弾みで相葉さんのハサミの冷たい先端が、微かに耳に触れた。
「わわ、ごめ! 大丈夫?」
「平気、オレが動いちゃったから…」
「キツイ? もうやめよっか?」
心配そうに顔を覗きこんでくる。
「平気だってば。子供じゃあるまいし」
「うん…」
そんな顔して。
過保護なとこも、変わんない。
「続けてよ」
ね♡ って、未だに可愛いって言ってくれる笑顔で見上げる。
「よし! もうちょっとだからな!」
途端にヤル気になった相葉さん。単純なとこも昔のまま。
再びシャカシャカ…
良かった。
それにしても、いったい何なんだろう?
鏡の中とはいえ、あんなキツイ視線を投げてくる人。
誰も何も言わないから、きっとスタッフのひとりなんだろうけど。
…くそ、相葉さんの大事な時に邪魔しやがって。
沸々と怒りが沸いてきて、いつの間にか相葉さんのすぐ後ろ、手を伸ばせば届きそうな位置まで近づいている男を、鏡越しに睨み付ける。
パチパチ、火花が飛びそうなほど。
なのに、死角なのかそれとも一生懸命過ぎるのか、相葉さんは全く気付いていない。
…え?
不意に、その人が笑った。
キツイ表情がウソのように消え、別人みたいに優しい顔になった。
なに?
ほわんと柔らかい真逆の眼差し。
なんなの?
翻弄される。ギャップに戸惑ってしまう。
やべ、また動いちゃった。
ダメだ、このままじゃ相葉さんに迷惑かける。
「どした?」
再び相葉さんの手が止まってしまった。
「ごめん、ちょっとトイレいい?」
「なんだ、やっぱ我慢してたんじゃん。 すみませーん」
相葉さんが周りのスタッフさんに頭を下げながら、バサバサとオリーブ色のマントみたいなのを外してくれた。
「漏らさないでちゃんとしてこいよ」
「ふふ、相葉さんじゃあるまいし」
「バッ、バカッ、んなこと言うな!」
他のスタッフさんに、なにー?どういうことー? なんて聞かれて、笑ってごまかしてる。
うん、まぁくんは笑顔が一番。
…真剣な顔も中々カッコいいけどね。
オレは素知らぬ顔で、振り返ることなくトイレに向かった。
戻るころには、あの視線もあの人も消えていることを願って。
続く。