空と 海と 君と 22 | Blue in Blue fu-minのブログ〈☆嵐&大宮小説☆〉

Blue in Blue fu-minのブログ〈☆嵐&大宮小説☆〉

嵐、特に大野さんに溺れています。
「空へ、望む未来へ」は5人に演じて欲しいなと思って作った絆がテーマのストーリーです。
他に、BL、妄想、ファンタジー、色々あります(大宮メイン♡)
よろしかったらお寄りください☆

 

 

 

 

《 和也 》

 

 

和也は『satoshi』に出逢ったことを翔には言えずにいた。

村沖から聞いた『大野智』という本名と、

 

― 店長は、ずっと先生を応援しているのよ ―
 

長年の二人の友情、​​​それを知ったことも。

 

智に "秘密にしておいて" と言われたからだけではない。

あの日から、和也の胸に智が棲んでしまったから。

 

 

南国の少年と純白の百合…

それと共に髪に触れた智の手、耳に感じた甘い息、柔らかい声。

 

 

和也を見つめた目が、唇が、首筋が、鎖骨が、ジーンズから覗いていた肌の色までもがずっと頭から離れなくなったのだ。

 

僕は、あの人に恋をしている…?
 
 
 
 
 
 
秘密を抱いたままで翔との逢瀬は続いており、会社同士の繋がりもより深くなっていった。
 
「櫻井氏、すげぇな。あんなパーフェクトな人間、俺、初めて会ったわ」
 
ようやく製図の段階までこぎ着け、パソコンに向かっている和也の後ろで国分が呟く。
 
意外と人を見る目が厳しくて皮肉屋の国分が手放しで人を褒めるのは珍しい。そんな相手との仕事は、もちろん気を抜くことなど出来ず、大変ではあるがその分遣り甲斐もある。
 
「ところでさ」
 
カチカチと忙しくCADシステムを駆使している和也の背後に国分が例のごとくカラカラと椅子ごと近づいてきた。
 
 
「お前、妙に櫻井氏に気に入られてるけど、その調子で頑張れよ。ちゃんと接待してんのか? 領収、ちゃっちゃと回さねぇと溜まると大変だぞ?」
 
和也がちょくちょく翔と会っていることを知っている国分が、背中をつつく。
 
「…いえ、大体櫻井さんに払ってもらってますけど…」
 
邪魔だなと思いつつ、正面を見たまま上の空で答えれば、
 
「はぁぁぁ!?」
「!ぅわ!わわ」
 
ゴトン!
 
国分の発した奇声に驚いて、思わずマウスを落としてしまった。
 
「もぉ、なんすか、驚かさないでくださいよ!」
 
プリプリ振り向けば、国分が目を剥いて固まっていた。
 
「おま、アホか、何やってんだよ!クライアントに払わせるとか、有り得ねぇだろ!」
「…だって、向こうからいつも誘ってくるし、自分が行きたい店に付き合ってもらってるんだからって言うし、これは完全なプライベートだから仕事と混同するなって…」
「だからといって…」
「究極! つべこべ言うと、オーダー無かったことにするって言われたんですっ!」
「!!…………」
 

さすがの国分も言葉に詰まってしまった。

 

ふぅと息を吐いてパソコンに向き直り仕事を再開しようとする和也に、今度はススッと顔を寄せてきて、
 
「ひょっとしてお前、口説かれてんのか?」

 

などど小声で聞いてくる。

 
「まっ、まさか、僕、オトコですよ?」
 
和也は、慌てて否定した。
"実はそうなんです" などと知れたら、こんなハイテンションな男だ。面倒なことになるのは目に見えている。
 
「ほら、従兄と同級生だし、地元のこととか結構共通の話題も多いんですよ。櫻井さん、懐かしがっちゃって。多分、地元の後輩って感覚なんじゃないですか?」
「うーん、でもお前ってさ、酔うとヘンに色っぽくなるからな。そういう可能性もあるんじゃないかぁ?」
 
ニヤニヤしながら、肘でクイクイと脇腹を突いてくる。
 
「もぉー、相手はバリバリのイケメン実業家ですよ? オトコなんて相手にするわけないじゃないすかぁ!」
 
国分のテンションに合わせて、わざとオーバーな呆れ顔を作って見せる。
 
「んー、それもそうか。あんな有名人にゲイ疑惑でも持ちあがったりしたら、大スキャンダルになるもんな」
「でしょ?」
 
それこそ身の破滅だよな、とカラカラ笑って内線電話のコール音にようやく自分のデスクに戻って行った。
お陰で、和也の顔が曇ったことに気付かれずに済んだ。
 
 
自分だって分からない。
翔は一体どういうつもりなのかなど。
 
 
 
 
 
 
その夜、和也は翔と二人、『Bar kizuna』にいた。

 

最初にここにを訪れた夜から、すでに3ヶ月が過ぎていた。

ずっとあやふやな関係のまま、キスより先に進展することもなく。

 
話題が豊富で、会話は尽きることなくすこぶる楽しい。
一緒にいると時を忘れるほどに。
 
このままの関係ではダメなのかと、和也は思う。
こうして、国分に言ったように仲の良い先輩と後輩として。
 
…それに、今和也の心には大野智が棲んでいるのだ。
 
(退くなら今しかない…)
 
カラリと氷が揺れる音がして、会話が途切れた。
それまで饒舌だった翔がふいに黙り込み、時折見せる苦し気な視線を和也に向けてきた。
 

「…どうか、しました?」

 

問い掛ける上目遣いの視線に、いつもよりキツイ目で返される。

 

 
 
「全部、上の空」
「え?」
「返事も言葉もその視線も全部」
 
 
「そんなこと…」
 
オドオドと目が泳ぐ。
力なく否定しつつも、自覚はしている。
 
洒落たBarで美味い酒と美味い料理と、地位もあって話し上手で最高のビジュアルの相手。
 
でも…、
 
 

違う…。

 

 
 
「どう? そろそろ踏み出す気になった?」
 
敏い翔が、相手の心が自分に向いていないことに気付かぬはずがない。
その上での問いに、和也は何と返せばいいのか分からない。
 
二人の隙間にクラシックなジャズピアノの旋律が静かに流れる。
 
「…踏み出すって?」
 
ようやく言葉を繋げれば、
 
「俺ともっと深く付き合うってこと」
 
意味ありげな目線で、和也の体の輪郭を辿る。
 
「僕を、…抱きたいんですか?」
 
「…直球だね」
 
「オトコ同士って、そんなもんでしょ?」
 
「そうか、それなら俺もはっきり言うよ」
 
 
和也のシニカルな笑みを受け留めた大きな目が、少しだけ細められ、
 
「…だから困っているんだ」
 
と、また切ない瞳に変わる。
 
こんな表情をしている時、翔こそ和也の言葉を聞いてなどいない。
ただ、ジッと見つめてくるだけなのだ。
 
「…どういうことです?」
 
翔は和也からゆっくりと目を剥がし、仄暗いカウンターの奥に移した。
 
カラリ…
 
男らしい手に包まれたグラスが微かに揺れる。
 
「…俺ね、長いこと好きなヤツがいたのよ。でも、そいつはノンケでさ、告ったりしたら友達でもいられなくなるだろ?だから、言えなかった」
 
 
形の良い唇から零れた、いきなりの告白。
 
ああ、彼のことだ。
 
逸らされた目線の先を辿ってみる。
 
「そいつはずっと俺のそばにいた。だけどどうしても手を伸ばすことは出来なかった。かといって離れる勇気も無く…」
「思い切って踏み出してみればよかったじゃないですか。もしかしたら想いが通じたかもしれないですよ?」
 
あの優しい笑顔がそこにあるような気がしてくる。
 
「だからだよ」
「は?」
 
翔はふぅっと深く息を吐いて、顔を俯けた。
その笑顔から目を逸らすかのように。
 
「…もしかしてその人も翔さんに好意以上のものを持っていたんじゃ?」
 
今度は翔が片頬に薄い笑みを浮かべた。
 
「だからこそ、想いを告げられなかったんだ」
「…よく分かりませんが」
 
「俺には背負っているものがある。夢がある。野望がある」
 
経済誌の爽やかな笑顔。
『次代を担う若き経営者たち』
太文字の見出し。
 
「俺は自分に問いかけた。それらを全部を捨てることが出来るのかと」
「そんな、捨てるなんて…」
「いや、いくら最近は認知されてきたとはいえ、まだまだお堅い頭の連中ばかりだ」
 
ゲイ疑惑、スキャンダル…
 
「何より自由でいたい男に、そんな枷を押し付けるわけにはいかなかった」
 
白い百合、ガラスの内側、純白の…。
 
「大切であればこそ、俺のエゴで縛り付けたくなかった
「それでも、諦めきれないんですね…」
 
それがね、と翔がコトンとグラスを置いた。
そして、思いのほか、明るい笑顔を和也に向けてくる。
 
「ようやく吹っ切れたんだ。失恋の痛手を忘れるには新しい恋をするに限る…。良く言ったものだよ」
 
穏やかな笑顔のまま、カウンターに置きっぱなしの和也の手に、大きな手を重ねる。
 
「長さでもないと知った」
 
整えられた爪がいやらしくない程度に艶めいている。
男らしくて綺麗で、とてつもなく大きなもの支えている熱い手。
 
「和也…」
 
呟いた唇がゆっくりと近づいてくる。
 
唇に触れたそれはとても冷たくて。
 
(初めて名前で呼ばれた…)
 
唇から頬に、頬から耳に、慈しむようなキスを落とし、低い声が囁く。
 
 
「…だから、もう終わりにしよう」
 
 
「…え?」
 
 
白百合が、崩れる、音もなくサラサラと。
 
 
思いがけない言葉に、和也は思わず顔を巡らした。
 
 
もちろん、気の利いたマスターはその存在を消していた。
 
 

 

 
 
 
 
 
 
 
 ポチッと押してね♡