くたりとした体を抱き寄せて、
上気した真っ赤な耳に唇を寄せる。
このまま眠らせてやりたいけど…、ごめん、ムリだ。
早く戻っておいで…
囁けば、ぴくりと瞼が震えて、ふわりと目が開いて、
かずがゆっくりと目覚めた。
前髪の隙間に、チラリ、大好きな薄茶の宇宙。
ユラユラ見え隠れしてる瞳をもっとちゃんと見たくて、額にくっ付いてる髪を指に絡めて持ち上げる。
「さ…、とし…?」
かずが、不思議そうに呟いた。
「おはよ」
戸惑う瞼にキスを落とせば、パチパチと瞬きの後、肘を付いて頭をサッと持ち上げた。
「朝なの!?」
キョロキョロと周りを見回す。
「…僕、寝ちゃったの?」
うろたえた声で振り向いた真ん丸の目が、いきなりぶわっと膨らんで、
一言何かを小さく呟いて、枕に突っ伏してしまった。
…え?
さ、さいてい…? 今、最低…って…、言った?
聞き間違いかとそっと顔を覗きこめば、不穏な単語を発した唇は、白くなるほどにキュッと結ばれて、枕にはポツンと涙の染みが出来ている。
「かず、どうした?」
慌てて抱え起こして、ベッドの上で向かい合う。
なぜ泣いてる?
気付かぬうちに、おれ、何かをやらかしてしまったのか?
わけが分からないまま、フルフル震える薄い肩を、手繰り寄せた毛布でフワリと包み込む。
もちろん、寒いってことじゃないんだろうけども。
「ね、顔、見せて?」
俯いた頬を両手で包んで持ち上げて、ほんの数センチの距離で見つめれば、どんより下がった眉毛と涙でショボショボの目、ムニュッと曲がった唇に小鼻がピクピク…。
ちょっと、ぶさいく。
でもこんな顔も可愛い。
ふふ。
…なんてニヤついてる場合じゃない。
「うぅ…っ、うう、えっ、えっ…、ぅわー」
悲壮感たっぷりの声と一緒に、涙がダーッと滝のように溢れて、
かずはとうとう泣き出してしまった。
「かっ、かず、泣くな」
未だに涙のワケを掴めなくて、毛布ごと震える体を抱きしめれば、
「最っ低! こ、こん、な、だ、大事な、日に、寝っ、寝ちゃうなんて…」
途切れ途切れに呟いて、おれの胸におでこをくっつける。
「ずっと、ずっと、待ってたのに、じゅっ、19になっちゃうなんて…、うっ、ぐす…」
そして肩から毛布を落とすと、おれの背中に腕を回して裸の体をピタッと密着させる。
まるでしなやかな猫のよう。
あらわになった白い背中に指先で触れる。
喉元にゴリゴリこすり付けてるおでこも、涙やら何やらでベトベトな頬も、グイグイ首を絞めつける細い腕も、しゃくり上げる切ない声さえも、全部が耳に心地よくて、懐かしくて、可愛くて。
…全てが愛しくてたまらない。
もう、こうなると病気レベルかもしれないな…
などと、また思考は飛んでしまって。
腕の中のかずは、まだ悲壮感たっぷりに泣いているというのに。
頭に鼻先をうずめて、久しぶりの髪の感触とかずの匂いを堪能していたら、ようやく落ち着いたのか静かになって、
「約束だったのに…」
と、首元にくっ付いたままの唇が小さく動いた。
約束…?
あ。もしかして、勘違いしてる…?
眠っちゃって、そのまま朝になってしまったって。
19歳になってしまったって。
…ぷ。
可愛い早とちりに、また吹きだしそうになったが、
だめだ、笑っちゃ。
慌てて緩む口元を押える。
「18歳でスるって決めてたのに、ずっと、待ってたのに…、…ひっ、ひっく…」
再び揺れ始めた感情のせいで、おれの不埒な笑い声には気付かなかったらしい。
ほっとして、ふぅと一つ息を吐く。
「かず、大丈夫だよ」
すっかり冷えてしまった耳朶を優しく食んで囁けば、
「大丈夫じゃない… 僕は、バカだ」
力なく首を振って、なおもしがみついてくる。
ああ、愛しいかず。
(18になったら、かずを抱く…)
なんて、おれの身勝手な、言い訳のような言葉をこんなにも真摯に受け取めてくれてたなんて...
笑ってる場合じゃない。
バカなのは、おれだ。
「ほんとに大丈夫だよ。かずはまだ18歳だ」
「うそ! だってさとし、さっきおはようって。 もう朝なんでしょ? 18日になっちゃったんでしょ?」
18歳でも19歳でもかずはかずだし、例えおっさんだろうが好きだと思うけど.。
その頃おれは、もっとおっさんだし。
でも、小さなその手にずっと大切に包んでくれてたその想い、おれも大切に大事に、そして真摯に受け止めよう。
「ほんと。さっきからまだ10分も経ってないから」
柔らかい髪を梳きながら、溢れた涙をチュツと吸い取る。
ふふ、涙さえ甘い気がする。
「でも、僕、眠った…」
おずおずとおれを見上げる。
「かず、一瞬トんじゃったんだ」
「ト…ぶ?」
「そう、感じ過ぎて、少しの間意識を失くしてしまってたってこと」
少しのキョトン顔のあと、今度はかずの全身がバッと朱色に染まった。
「ぼ、僕、ずっと全然シてなくて、すごく感じちゃって、キモチよくって、頭が真っ白になって、何も分かんなくなって…」
アワアワしながらのどエロい告白に、顔が崩壊してしまうのは許して欲しい。
「…初めて。こんなの…」
頼むから、そんなウルウルの瞳で真っ赤な頬で上目遣いなんて止めてくれ。
「そっか。ああ、よかった♪」
ようやく微笑んだかずが、スルリとおれの腿の上に乗っかってきて、
「さとし、18の僕をちゃんと抱いてね…」
なんて、両手と両脚をきゅっと絡めてくる。
もちろん、何も着ていないそのままのかずで。
一瞬のうちに血液が逆流する。
スッと近づく艶っぽい貌。
朱く濡れた唇から誘うように覗く紅い舌先。
おれの中の理性の糸が、ギリギリと音を立てて張り詰める。
優しく…って思っていたのに、出来そうにない。
「くっ…」
「あ…」
かずの項を右手で掴んでグイと引き寄せ、その唇ごと塞いで強く舌を吸い上げる。
同時に左手で背中を支えてベッドに組み敷く。
熱 い 舌 を捉えて絡めて、アツい喉奥まで深く差し込めば、苦し気に 喘 ぎながらも懸命に応えてくれる。
うぅ、う…ん、ちゅ、ちゅっ……
二人の唇が触れ合う音と、途切れないかずの 喘 ぎ声。
まるで、おれまで18に戻ったかのように...。
宇宙(そら)に恋い焦がれたあの頃のよう。
身も心も昂って夢中になって腕の中のおれだけの宇宙を漂う。
「さっ、さとし、苦し…、ちょ、っと、まって…」
おれの肩を必死に押している手に気付いて、ようやく唇を開放する。
「ごめん、止まらなかった…」
ギリリ…
はぁはぁと荒い呼吸を繰り返す紅く濡れそぼった唇は、もっともっと欲しいと強請っているようで。
「…さとし、キモチ良過ぎ… 僕、またトんじゃうから、ゆっくりシて?」
ね? って小首を傾げておれを見上げる。
だから、止めろって。
プツン
頭の奥、最後の糸が切れる音がした。
つづく。
ぅおい!
まだお預けかいっつ!ヽ(`Д´)ノ
ごめ~ん(。>0<。)
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