― 遥か 遠い昔 砂漠で (satoshi & nino) ―
浅い眠りから目が覚めた。
吹き荒れていた砂嵐も治まったようだ。馬車の外は静まり返っている。
そのまま、少しの間動かずに、辺りの気配を窺う。
夜明け前の薄闇の中、砂の上に流れている朝靄を乱す者は、ないようだ。
私は、静かにカラダを起こした。
「サトシ、起きたの?」
隣で寝ていたニノが寝ぼけた声でつぶやいた。
「まだ、休んでいても大丈夫ですよ」
「う…ん、やっぱ、ちょっと疲れたね」
「嵐も通り過ぎたようですし、出立しましょうか」
「もう少し、こうしていよう…」
「でも、あまり遅くなると、母が心配します」
「お願い、もう少しだけ…」
と、白い腕をさしのばす。
「二人で遠出するなんて、滅多にないんだから、ね?お願い」
「でも…」
「これは、命令。僕の言うことは絶対なんでしょ?」
「しかし…」
「あ、逆らうんだ。そっか、サトシってそういうヤツなんだ。口では、僕のためなら、いつでも、この身を捧げますなんて言ってるくせに、こんなささやかな命令にも従わないんだ」
「ニノ様、そういうわけでは…」
「ほらまた! 二人でいるときは、そんな呼び方しないでって言ってるよね?」
「…ニノ」
「…ね? キテ」
「…少しだけ、ですよ?」
結局、その白い腕に私の理性は絡め取られた。
薄く開いた唇にそっと触れると、ピンク色の舌がぺろりと指を舐めあげた。
そのままくわえて ちゅ っと 音を立てて、色を含んだ目でゆっくりと見上げる。
指に絡む柔らかくてあたたかい、しっとりとした感触。
たった、それだけのしぐさで、私はもう、欲 情 している。
「悪いひとだ…」
うふふふ…
こんなニノを前にして、何もしないでいられるはずがない。
私は、細いうなじを救い上げると、その唇を自分の唇で塞いだ。
上半身を強く抱きしめる。
ニノの左手が背中を滑り、前にまわって早くも昂ぶり始めている場所に手を伸ばす。
「だめって言ってたくせに ココ は言うこと聞かないんだね」
「聞き分けのないのは、ニノ様と同じです」
「ニノって呼んで…」
ニノは妖しくほほ笑むと 私 をきゅっと包み込んだ。
あっ…
「夜が明けちゃうよ? 早く シ よ」
「お望みのままに…」
争いの絶えないこの時代、少しでも自国の領土を広げようとする、終わることない隣国同士の争い。
それは、一つの国の中に於いても様々な争いを生む。
王家に生まれた者は、位が高ければ高いほど、謀殺の対象となる。
ニノの母親のエトリア国女王は、愛するわが子を守るために、幼いニノを手放した。
信頼できる家来に託し、城から遠く離れた、国中でも誰も知らないような小さな村に隠した。
現在の王である、わが夫が亡くなり、ニノが王位を継ぐまでその存在を隠し通す覚悟で。
国のはずれの辺鄙な村で、ニノは女の子としてその身分を隠し、代々王家に仕えていた、私たち一家と家族として暮らしていた。
私たちは幼いころからずっと兄妹として育った。
幼いころは何も考えず、ほんとうの妹だと思っていた。
ある日、10歳になったころ、父に呼ばれ、私は真実を知った。
「おまえは、王子を守るために生きている。よいか、何があってもニノ王子を守るのだ。たとえ、刃の前にその身を晒すこととなってもだ」
代々王家に仕えてきた私の一族。その忠誠心は、赤い血となり爪の先、髪の一本一本にまで流れている。父に言われなくともその使命は十分に心得ていた。
そのころにはすでに、ニノに恋心を抱いていた自分自身を認識し、戸惑っていた私にとって、実は、血の繋がりなどないということがわかって、秘かに安堵した。
「なに、考えてるの?」
「いえ、別に」
「うそ、なんか、顔がやらしいよ」
「そんなことは、ありません」
カラダを起こし、服を整える。
「もう、おしまい?」
「はい、すっかり夜が明けてしまいました。さ、起きてください」
「…やだ」
「また、そんな聞き分けのない…」
「だってさ、久しぶりだったんだよ。もっと…」
「ニノ様、あなたにはもっと自覚していただきたい。17といえば、もう大人です。王家の方々には、15で妻を娶られる方もおられます」
「じゃあさ、サトシは、僕がさっさと結婚して子供でも作ればいいって思ってるの?」
沈黙が流れる。行き場のない、先の見えない二人の……
「…出立します」
重い空気から逃れるように外に出て御者台に座る。
十分に休息をとった2頭の馬は、ようやく走ることができるのが嬉しいらしく、
白み始めた空に、ひと声大きくいなないた。
地平線に姿を現した朝日に向かい手綱を引く。
明日は、どうなる?
いや、明日はあるのか?
愛しい人の肌の名残りに疼く胸を無理やり抑え、私は一心に馬を走らせた。
つづく…。
過去のお話ですが、画像はバリバリ現代です
イメージは「成瀬期の大野さん」と、「今よりちょっと若い二宮さん(←だって、あんまり変わんないし…)」
サハラあたりの民族衣装って綺麗なブルーで素敵なの。
合成して大野さんに着せられたらいいんだけど、そんな技術は私にはありません(T_T)。
皆さん、妄想してっ!!