久し振りの…いや、ようやく35話の解説の続きです。さっそく書いていきます。






シンがフリーダムを撃墜。アスランに実力を認めさせようと近寄り、声をかけます。しかし、アスランはシンを褒め、認めるどころか「お前は間違っている!」と怒りをぶつけてきます。そして二人はぶつかり、アスランはシンを殴ってしまいます。そんな二人の間に割って入ってきたのは、レイでした。



ー食い違う理由ー


アスランは、フリーダムやアークエンジェルは「敵じゃない」と言います。しかし、レイは「敵です」とキッパリと告げます。


ミネルバクルーたちも、アスランがシンを殴ってしまった理由や、怒りの理由がわかりません。くだされた命令を実行し、その成功を無邪気に、それもただ単純に喜んでいる姿から、そのこと以外は頭にないことは明らかです。30話の「シンがオーブ艦隊をやった」というメイリンたちの会話からしても、彼らの認識の甘さはハッキリとしています。アスランは復隊してからまず何をやるべきだったのか、それがここでも見えてきます。それを書くと道が逸れるので、また別記事にしましょう。


アスランとミネルバクルーたちの食い違いは何故、起きているのか。



今はキラたちとすれ違いや食い違いが起きているけれど、目指しているものは同じであり、同じ道を歩んでいるとアスランは思っています。が、ミネルバクルーたちはそうは思っていません。キラたちのことを全く知らないですし、味方とも思っていないからです。28話でグラディス艦長が「敵艦として対応!」と判断をくだしていますし、当然と言えます。だからミネルバクルーたちは「この人何言ってんの?」というリアクションを取るのです。お互いの持つ情報量や視点の違いから出てくるリアクションです。このDestinyという作品はこういうのがとにかく多いので、そこに気が付けるかどうかで作品の面白さが変わります。



フリーダムやアークエンジェルが何故敵なのか、そこをズバリと言い当てているのが、ここでのレイなのです。



ー軍人としての価値観ー



レイ「アークエンジェルとフリーダムを討てというのは、本国からの命令です。シンはそれを見事に果たした。称賛されても、叱責されることではありません!」


要約すると、「我々はザフトですから、軍人ですから、全ての判断と決定は本国のすることですから、それを実行するのが我々の務めですから」ということになります。反論の余地がないほど、理路整然と軍人としての価値観をアスランに対して言ってきます。だから、シンは何も間違ったことはしていない、シンは正しいというのがレイの主張です。つまり、否定しているアスランに対し、レイは肯定しているのです。あなたに対して一方は正しいと肯定し、一方は間違っていると否定してくる。これをあなたはどう判断しますか?と視聴者(シン)に投げかけてくるのが、制作者側ですね。これは後程触れていきましょう。




シンの根底にあったのはフリーダムへの復讐であり、また、レイのキラへのクルーゼの仇討ち(復讐)でもあります。レイはシンを利用してクルーゼの仇討ちをしたわけです。シンはフリーダムを撃墜して喜んでいますが、実際はクルーゼ何ていう知りもしない人間の仇討ちをさせられたのです。如何にシンが議長やレイにとって有用な駒か、よくわかります。(させられたというのがポイント)



あっちが悪いから、敵だから、これは任務だったから、命令だったからと正当化し、責任逃れができているとも言えます。つまり、二人にとって任務というのは自身の行いを肯定する手段となっているから、非常にたちが悪いのです。組織に所属していると、「自分はただ命令に従っただけです」、「だって任務だったから」、「それが戦争だから」、「だから仕方のないことなんです」など、こういう言い逃れ、言い訳、責任逃れ、責任転嫁や正当化が出来てしまう。それは前作SEEDで描写されていたことです。



ここでレイが言っていることは、前作SEEDでアスランがクルーゼに言われていたことでもあります。



キラのストライクを討ち、クルーゼはアスランに昇進の知らせと勲章が授与されることを伝えました。本国からよく評価されているよ、と。目の前にいるシンは、正にかつての自分自身です。



戦争を終わらせるため、国を守るために兵のやるべきことは、戦って戦って「敵」を殺すこと。だから、その「敵」を撃墜したシンはレイの言う通り、称賛されて然るべき行為をしたということになります。



命令に従って敵を殺す。



それが軍人としての義務であり、任務。戦争を終わらせるため、国を守るために。ここにいる皆が、そう思っています。



レイ「我々はザフトですから」


フリーダムとアークエンジェルは敵である。何故ならば、ザフト以外は敵だからです。その味方でも同胞でもない敵はどれだけ殺しても構わない。許される。敵ならば殺す。だってそれが戦争だから。そしてそれが命令とあれば相手が誰であろうと殺すのが自分たち軍人の務め。以前の自分と、そしてまた同じことを繰り返してしまっているアスランは、ハッとします。


「ザフトだから」、それ以外のものは敵であり、殺す。そうして敵か味方かと世界を二つに分け、その敵を殺していく。そうしなければ守れないから。憎しみが憎しみを呼び、やられたからやり返す。そうして戦いは広がっていく。終わりの見えない輪廻。命令されるままに戦い、敵を殺す。排除する。それでは戦いは終わらない。前作SEEDでそれに気付いたはずでした。「敵だから」という理由だけで撃ってはいけないと。銃口を向けて撃ち、敵の命を奪う。その度に悲しみと憎しみを増やしていく。それは戦争という名で肯定された人殺しの大きな矛盾。


誰もが「レイが正しい」と思ったところでタイミングよく登場するのが、ラクスです。


その軍人としての価値観をブッ壊し、自らの戦う理由は何なのか、ちゃんと考えろ!とラクスはアスランに通告しました。今のままであれば、あなたとわたくしは敵だ!と。



戦争を終わらせるため、プラントを守るために命令に従って敵を殺す。やられたからやり返す。それでは不毛な殺し合いが繰り返されるだけ。その信じていた正義や価値観を、アスランは壊されました。自分は何のために戦うのか、ちゃんと考えろ!命じられるまま、ただ駒として戦っていては何も変わらないし、変えられない。自分で見て、聞き、考え、答えを出せ。ラクスはそれをアスランに求めました。



これがキッカケとなり、アスランは自らの戦う理由を考えることになりました。そうして、命令されるままにただ戦い、敵を殺すことでは終わらない、それどころか広がっていき、待つのは滅ぼし合うという泥沼。答えを出し、アスランはザフトから抜けました。なのに、今また繰り返してしまっていました。



議長やレイと真逆のラクス。



視聴者の皆様もアスラン同様、ハッとしたのではないでしょうか?



続きます。