なぜ、キラが「敵」となったのか?


それは、アスランが戦争そのものだからです。その戦いの解説を書いていきます。




ーなぜ、邪魔者なのかー


第28話。再び戦闘に介入するフリーダムとアークエンジェル。


「やめろキラ!」とアスランがサーベルを向けてきます。


アスラン「こんなことはやめろと、オーブへ戻れと言ったはずだ!」


アスランは非常に苛立っています。アスランの目にはキラたちが「邪魔者」にしか映らず、戦場を混乱させている、自分たちの邪魔をしているとしか映らないのです。そんな「邪魔者」が言うことを聞かずにまたバカなことをやり始めたため、アスランの苛立ちは最高潮です。


アスランによって行動を抑えられ、キラも少しずつ苛立ちが高まっていきます。

アスラン「仕掛けているのは地球軍だ!じゃあお前たちはミネルバに沈めというのか!?」

24話25話でもそうでしたが、アスランはもう完全にザフト軍側からしか見ていません。ザフト軍側からしか見ておらず、自分たちが正義で悪は連合と言っているわけですから、世界を敵か味方かと二つに分けた見方をしているということになります。だから、敵でもなければ味方でもないキラたちは「邪魔者」としか映らないのです。オーブを撃たせたくないから自分たちの邪魔をしている、キラたちはミネルバは沈めと言っていると受けとめてしまうのです。


実際はキラたちはどちらも助け、守ろうとしているのですが、アスランにはもう「どっちか」しかなく、キラたちの行為を理解することはできません。


キラ「どうして君は!?」


アスラン「だから戻れと言った!撃ちたくないと言いながら何だ、お前は!?」

だから戻れと言っただろ。イヤだっていうなら何で出てくんの?イヤなら出てくんなよ。帰れよ。


これがアスランの言い分です。


しかしそれは、キラたちへの理解がないことを意味します。イヤだと言いながらそれでもここに来る理由は何でだ?とか、何も考えようとしていないことも意味します。



ーキラVSアスランー


マリューさん「カガリさん!」、キラ「カガリ!」、アスラン「キラ!」


アスラン、カガリのことを全く見ていません。カガリを全く見ていないということはカガリはもうどうでもよく、「守る」ために力を手にして復隊したのに、その目的さえも忘却の彼方ということです。今のアスランは命じられるままにただ敵を殺す兵器です。それはつまり、アスランは完全に議長の言いなり…犬に成り下がったことを意味します。


キラ「わかるけど、君の言うこともわかるけど…」

カガリが間違ったこと、自分たちの行為が正しくないこと、連合のしていることも悪いことなど、アスランの言っていることが正論であることをキラはわかっています。


理解し合えない、伝わらない、もどかしいキラの表情。そんなキラの視線の先には、シンのインパルスによって次々とぶった斬られていくオーブの兵士の姿がありました。が、これはアスランが殺しているのも同じです。誰がやったとか関係ありません。なぜならば、アスランはザフト軍だからです。ザフト軍であるというだけで、その罪は同じです。

キラ「でも、カガリは今泣いているんだ!」


オーブへ戻れとアスランは言います。けど、キラたちはこの戦いを放っておくことなどできません。確実に犠牲が多く出ることがわかっているのに何もせずに黙っている、見ていることはキラたちにはできないのです。そして、カガリはこの戦いに、犠牲に心を痛めているのです。


カガリが泣いている。


それは、アスランが息を呑むほどの言葉でした。アスランは、カガリたちが自分たちの邪魔をしている、戦場を混乱させているだけのバカなことと決めつけ、何も考えようとしていませんでした。

キラ「こんなことになるのがイヤで、今泣いているんだぞ!なぜ、君はそれがわからない!?」

こんなこととは、どんなこと?


命が失われ、傷つく人が多く出る戦い合うこの状況です。誰も犠牲に何てなってほしくない、殺し、傷つけ合うのもイヤなのです。


カガリは道を間違えました。そのカガリが今さら出てきたところで戦いは止まらない、撤退させることはできないことは、キラたちは十分にわかっているのです。


でも、カガリはこんなこと望んでなどいなかったのです。自分が間違っていたから正したい、こうなることを止められず、自分を責め、悔やみ、それでも一人でも助けたい、守りたい。そういうカガリの気持ちを、アスランは理解しようとしません。また、その裏には悲しむ人がいるということも考えようとしません。


キラ「なのに、この戦闘もこの犠牲もしかたがないことだって、全てオーブとカガリのせいだって、そう言って君は撃つのか!?今、カガリが守ろうとしているものを!?」


自分が今、何をしようとしているのかわかっているのか!?


それはアスランの矛盾の指摘です。


守るために手にした力なのに、それが傷つけ、殺し、奪うものになっています。



この二人の戦いは、前作SEEDのifです。


前作SEEDでは、アスランはキラたちと共に戦う道を選びました。しかし、Destinyではザフト軍で戦う道を選びました。それはつまり、個人アスラン・ザラではなく、ザフトのアスラン・ザラとして戦うということです。


考えることを放棄し、命令に従ってひたすらに戦い、戦争を終わらせるために敵を殺す。それが軍人であるアスランの義務であり、役割です。その役割を果たす、任務を全うすることを選んだのです。


全うするということは、敵であるもの全ての排除をするということになります。だから、アスランは「敵だから撃つ」と言うのです。


前作SEEDの35話以降キラ(たち)が敵として戦っていた相手は、「戦争そのもの」です。


ザフトで戦う道、ザフトのアスラン・ザラとして戦うことを選び、命令に従って敵を殺すアスランは戦争そのものです。だから、キラは「敵」となってしまったのです。


ラクスは通告しました。


ラクス「敵だと言うのなら、わたくしを撃ちますか!?ザフトのアスラン・ザラ!」


そして、こうも言っていました。


ラクス「アスランが信じて戦うものは何ですか!?いただいた勲章ですか!?お父様の命令ですか!?もしそうであるならば、キラは再び敵となるかもしれません。そして、わたくしも…」


これをDestinyバージョンにしてみましょう。


ラクス「アスランが信じて戦うものは何ですか!?いただいたフェイスのバッジですか!?デュランダル議長の命令ですか!?もしそうであるならば、キラは再び敵となるかもしれません。そして、わたくしも…」


アスランは、正にそれです。戦争そのものです。考えることを放棄し、撃とうとしているその敵が誰かにとって大切な人かもしれないとか何も考えずに命令に従って殺し続け、殲滅する。


みんながみんなアスランのように敵を殺すことが戦争を終わらせる道と考えたり、○○だからと諦めたら、もう世界は滅ぼし合うしかありません。それがわかっているから、カガリやキラは来るのです。


そして、この戦いは人間VS人形です。


ラクスがバックボーンのキラ、デュランダル議長がバックボーンのアスラン。


「まず、決める。そしてやり通す。それが何かを成す時の唯一の方法ですわ。きっと」のラクス、「○○だから、しかたがないだろ」のデュランダル議長。


意志VS諦観、理想VS現実、自立VS依存、自責VS他責。


アスラン「なっ…キラ…」


それを示すかのように、アスランは何も言えません。

アスランが自分でちゃんと考え、そのうえで覚悟を固めてザフトに戻ることや撃つというのなら、キラの言葉に動揺することはないのです。しかし、アスランは動揺するばかりで何も反論できません。それは何の考えも意見も覚悟もない証拠です。


自分の意志や考えはなく、覚悟もなく、議長の言いなり。命令に従ってただ敵を殺すだけの人形。そんな人形は、「大切な人たちを守る、自分の目に映る人だけでも助けたい、こんな無意味な戦いをやめさせたい」と自ら決め、戦う意志や信念を持つ人間には勝てません。


キラ「なら僕は、君を討つ!」

キラはSEEDを発現させ、「敵」に向かっていきます。


キラは強い意志があるから、SEEDをコントロールできるのです。反対に、アスランは意志どころかブレブレで何もないから発現できません。


アスラン「えぇっ!?」

キラは決めたらやり遂げます。フリーダムに乗ることを決めた瞬間、覚悟も固めています。迷いはありません。


アスランは、キラが自分に刃を向けてくる、逆らう何て思っていませんでした。何も考えていない証拠です。


片腕を斬り飛ばされます。この瞬間、武装を失ったアスランの敗北です。

アスランは口をパクパクさせるばかりです。

何で?どうして?わからない。


何も考えていないから、もうどうしたらいいかわからない状態です。


キラは容赦しません。二度と戦えないように、セイバーをバラバラにします。

キラの戦う理由は自分にあります。自らの目的のために、望む世界のために戦う。それを阻むことは許さない。揺らがない意志、併せ持つ同等の厳しさ。アスランとは正反対と言えます。


自分で何も考えない、考えようとしない。考えることをやめてしまう。それがどういうことになるのか。特にシンとアスランをみていると「恐ろしいことである」ということがわかるかと思います。そして、なぜラクスはキラにフリーダムを託すことを決めたのかという理由も改めてわかるのではないでしょうか?







アスランは一体先の大戦で何を学んだの?と言いたくなるほどの残念ぶりで、悲しかったですね。決して忘れてはならない「痛み」でさえ忘れてしまっていたというのが…ね。


キラに綺麗事だと言っておきながら、自分も同じ戦い方をしていたり。解説に書いたとおり、アスランがそういう戦い方をしていてもシンやレイ、ルナマリアはガンガン殺しているわけです。ザフト軍である以上、アスランが殺しているのも同じなわけです。わからない方はSEEDをもう一回観るべきですね。そこが全然わかっていないというか、あの「痛み」が忘却の彼方なのがね、本当にガッカリでした。


あれだけの大戦を経験していながら、何で忘れてしまうの?と思うと同時に、人に思考や価値観を預けてしまう、依存する、思索を怠るというのは怖い以外のなにものでもないですね。


この28話は書きたいことがいっぱいありますね。でも、みているのがキツイので、気乗りしないというのが正直なところです。