第24話「すれ違う視線」解説の続きです。



話をしに来たのではなく、言いたいことを言いに来ただけのアスランは、「お前のせいで要らぬ犠牲」、「あんなバカなこと」、「戦場に出てあんなこと言う前に」とキラとカガリをなじる。


キラは、「今はザフト軍だっていうなら、これからどうするの?、僕たちを捜してたのはなぜ?」と不信と警戒心を露にする。しかし、それがアスランに伝わった様子はない。あんなことは止めさせたいと思ったから捜していたと苛立ちを隠さない。すっかりザフト軍の立場になっているアスランは、デュランダル議長への信頼を熱く語り出す。


ここまでが前回のあらすじです。


では、続きを書いていきます。




ーかわいそうなアスランー


アスラン「ユニウスセブンのことはわかってはいるが、その後の混乱はどう見たって連合が悪い!それでもプラントはこんなバカなことは一日でも早く終わらせようと頑張っているんだぞ!なのにお前たちは、ただ状況を混乱させているだけじゃないか!」

議長への信頼を熱く語るアスランですが、その議長は実はアスランを信頼などしていないという事実。


それは尾行、盗聴しているルナマリアが何よりの証拠です。尾行させているのは、アスランがキラやカガリ側に寝返る、裏切ると疑っているからです。議長はアスランを信じてなどいないのです。だから、10話や12話で示したアスランへの信頼は「偽り」ということになります。


なぜ盗聴しているのか。


アスランが裏切る可能性と役割終了したあとに処分、淘汰するために使うから。


アークエンジェルの潜伏先を知るため。(正しくはラクスの居所)


アスランはキラとカガリ(特にキラ)を討つという議長の戦士としての役割を与えられています。その役割を果たせなかった時、裏切った時に処分や淘汰の際に使用する目的。


また、裏切ることはなくても、確実にいずれ処分されます。議長の欺瞞を知っているからです。そんな厄介な人間をいつまでも生かしておくわけがありません。そのために使う証拠、罪状として盗聴させているのです。


アスランが尾行されていることに全く気付かないのは、「俺は議長から信頼されているぜぇ、認められたぜぇ」と鼻高々になっているからです。あれだけ議長から信頼を示され、その証としてセイバーやフェイスのバッジを与えられたのですから、尾行されている何て思うわけがないのです。


議長からは信頼されていなくて尾行され、キラたちからも疑われていて警戒され、ミリアリアも信じていなくて、グラディス艦長でさえ「一人でいいの?」と疑ってかかる始末。


勘違いして一人舞い上がって鼻高々になっちゃって気付けないのがかわいそうになってくるレベルです。



ーキラの反撃ー


キラ「本当にそう?プラントは、本当にそう思ってるの?あのデュランダル議長って人は。戦争を早く終わらせて、平和な世界にしたいって…?」

アスラン「お前だって議長のしていることは見てるだろう!?言葉だって聞いたろう!?議長は本当に…」

重要ポイントです。


確かにキラたちもアスランと同じように議長の言葉を聞いています。見ています。なのに、どうして噛み合わないのか。


立場によって受けとり方が全然違うからです。


総集編を観ていくとわかるのですが、シン、デュランダル議長、アスランとキラ、ミーアの視点で語られているものになっています。同じものを見ても、立場によって受けとり方が全く違うということが顕著に描かれている内容になっています。


アスランのこのセリフは、それを表しているものです。


アスランは議長を良い人で平和を謳っている人格者として見ています。つまり、「表」の部分です。そして、行く先々が連合が非道を行っているところばかりです。このあとのラボもそう。だからアスランの中では連合=悪という図式が成り立つのです。


連合に関してはキラたちも一致しています。しかし、だからといって議長が平和を謳っている人格者とは思えないのです。信じてもいません。正しいとも思っていません。キラたちが見て知っているのは、議長の「裏」の部分です。そんなキラのアスランへの反撃がこれです。


キラ「じゃあ、あのラクス・クラインは?今プラントにいる、あのラクスは何なの?」


アスラン「あ、あれは…」

キラ「そして何で、本物の彼女は、コーディネイターに殺されそうになるの?」

アスラン「えっ!?」


思わぬキラからの反撃。キラの鋭い眼光が怒りをよく表しています。そしてアスランが信じているものにヒビが入った瞬間でもあります。


何も知らなかったのは、アスランの方でした。


キラ「オーブで、僕らはコーディネイターの特殊部隊とモビルスーツに襲撃された。狙いはラクスだった。だから僕はまた、フリーダムに乗ったんだ。彼女も、みんなも、もう誰も死なせたくなかったから。彼女は誰に、何で狙われなきゃならないんだ?それがハッキリしないうちは、僕にはプラントも信じられない」

口では平和を謳っている。しかし、その裏では人知れず葬り去ろうとする冷徹さ。話し合いも何もなく、いきなり兵器で排除するという越えてはならぬ一線。キラからすれば、平和に暮らしていた日常を奪われたわけですから、「何が戦争のない平和な世界にしたいだ(欺瞞)」となるのは当然のことです。


「あ、あれは…」とアスランが明らかに動揺したことから、プラントにいるラクスのことを知っているとキラたちは取ります。


キラたちと会う前のグラディス艦長とのやり取りを思い出していただくとわかりやすいのですが、アスランは自分が間違っているかもしれないとは少しも思っていません。間違っているのはキラたちであり、自分ならば正せると確信してここに来ています。なので、まさかキラからこのことをツッコまれるとは少しも思っていませんでした。アスランもミーアと同じで、いつしか罪悪感などが消えていたと言えます。予想外の事態に、信じているものにヒビが入った上に正しさを脅かされている今、アスランの止まっている思考が狂おしく回転します。


アスラン「それは…ラクスが狙われたというのなら、それは確かに本当にとんでもないことだ。だが、だからって議長が信じられない、プラントも信じられないというのは、ちょっと早計すぎるんじゃないのか?キラ」、「プラントにだって色々な想いの人間がいる。ユニウスセブンの犯人たちのように。その襲撃のことだって、議長のご存知ないごく一部の人間が勝手にやったことかもしれないじゃないか!」


キラ「アスラン?」

要約すると、都合の悪いのは何かの間違い。ものすごい言い訳です。


言っていることは23話のユウナと全く同じです。そう、そうだ、そうなんだ。それであれば何の問題もないんだ。そうやって自分に言い聞かせているのも。そして議長を信じたいばかりに、キラたちの疑念の可能性を排除しようとしています。そして出てきた言葉が、「そんなことくらい、わからないお前じゃないだろう!?」です。関係ないの一点張りで、何でお前はそんなことに気付かないの?という苛立ち。


アスランは認めることはできません。それはアスランの弱さ。


ここで認めてしまうと、当初の選択からここに至るまでの行動全てを疑わなければならなくなるからです。自分が間違っていないとするには、それを肯定してくれる事柄を思い出すしかありません。


プラントにいるラクス…ミーアのことを知っている上に、議長を信じたいとする。関係ないと固執する。知っていながらキラたちに何も説明しない。正当性を主張するでもない。偽物を用意して都合よく動かし、影響力を利用して巧みに世論(民衆)を操るその行為にアスランは協力している。キラたちの目に、アスランはそう映ります。(実際それは真実ですが)


結局アスランもユウナや議長と同じで、本物が現れると都合が悪いので、偽物として排除したい、しようとする側の人間と変わりありません。実際、プラントにいるラクスを偽物だと認めていながら協力していますし、都合の悪いことは何かの間違いだと言ってしまっているし、キラたちの疑念の可能性を排除しているわけですから。


議長は関係ないと固執し、キラたちの疑念の可能性を排除してしまうために、他の可能性に目が向くことはありません。視野が狭い。


動揺のしかたといい、対処を知らないところといい、自分を守ってしまうところといい、パトリックそっくりです。挫折に弱い。ここで素直に認めていたら失敗をチャンスに変えられたのに、その機会をアスランは逃してしまいました。アスランのダメなところがいっぱい出てしまいましたね。



キラも確かな証拠があるわけではないので、アスランにこう言われてしまうと黙りこくるしかありません。平和を謳っている人格者であり、良い人だと信じるアスランと、そうは思えず不信感いっぱいのキラ。


アスランはキラやカガリではなく、議長を信じる道…議長の戦士としての道を選びました。


お互いの考えが違う、信じているものも違う。立場をすっかり違えてしまった二人は全く噛み合いません。


アスラン「ともかくその件は、俺も艦に戻ったら調べてみるから。だからお前たちは、今はオーブに戻れ」


ちゃんと話も聞かず、何も考えようともしないで自分に都合の悪いことはさっさと切り上げる。でも、自分の言いたいことは言う。本当にパトリックそっくりです。


そして最後。


アスラン「理解はできても、納得できないこともある。俺にだって」


アスランは憤慨しています。仲間の死と、カガリの裏切りに対して。このセリフはカガリの結婚に対する捨て台詞。


わかってはいるけど、おもしろくはないから。


理解はできても、納得できないこともある。


ニュアンスとしては一緒でしょう。


カガリもカガリで悪い。何も知らないアスランからすれば、腹立つはずですから。


だけどもね、これには僕言いたいことが。


制作者側は男側に立った描写をしているなと受けとめていますが、僕はそうやって観ることはできませんでした。今でも。


次回はそれを書きます。その次はアスランは戦争そのもの、その次はアスランがオーブに戻りたくない理由を書いていく予定です。