続き。
ー遅すぎた認識ー
オーブを出てアスランの部隊と戦闘になる。「殺す」、「殺さない」と言い合うキラとアスラン。そこにニコルのブリッツが介入。キラは反射的にソードを下ろしてしまい、ブリッツに直撃。ブリッツは爆散する。アークエンジェルに戻ると、整備兵たちが称賛する。キラの気持ちを考えもせずに。だが、これが軍なのだ。兵は守るために敵を殺す。だから、その敵を倒したキラはよくやったと称賛されるべきことをしたということになる。しかし、キラは喜べない。
ムウさん「俺たちは軍人だ。人殺しじゃない!戦争をしているんだ!撃たなければ撃たれる!俺も、お前も、みんな!」
自分たちは人殺しではなく、戦争をしている。だから、しかたのないこと。守るためには敵は撃たなければならない。そうしなければ、自分も仲間もやられてしまうからだ。戦いたくない、殺したくない何て甘いことは言っていられない。とっくに覚悟しておかなければならなかったこと。多くの命を奪っておいて、今さら言うことじゃない。殺さなければ殺される。だから、同胞や友を殺すのもしかたのないこと。だって、それが戦争だから。
キラ「僕は、君の敵…?そうだね、アスラン…」
戦争、現実をキラは認識する。だけど、結局アスランを討てずにいた。トールが犠牲になり、キラはようやく本気になる。キラも甘かった。認識も覚悟も。全て。
それはキラだけじゃない。誰しもが甘かった。
悩み、考えるキラとは対照的に、食堂で初出撃のことを得意気に語る奴がいた。
トール「いやぁ、もう最初はビビったよ!発進してすぐ一発目のビームがきた時はさぁ!けど、ああいうのもシミュレーションやってたからさ、もう咄嗟にスティック引いて、こうー」
以前書いているから詳しくは触れないが、何もわかってないから当然戦争に対する認識がとにかく甘い。っていうより、甘く見ている。人の生死に対する認識もない。そんな奴が成功体験をしてしまったのだ。ゲームと現実の区別がつかなくなり、緊張感だってなくなる。調子に乗る。勘違いする。ヒーロー気分で自分に酔う。そこに拍車をかけるようにサイやミリアリアが褒めるものだから、もう得意満面。
ミリアリア「大分やってたもんね、シミュレーション」
これがいけなかった。シミュレーションやったからバッチリ!何て舐めた勘違いをしているのに、そこを肯定するかのように褒めてしまったからだ。だから、それは間違っていて、「戦争はゲームじゃない」と認識を改めることができなかった。無事に戻れたのは確かにシミュレーションをやったからでもあるが、シミュレーションはあくまでシミュレーションでしかない。そこに気付かず、すっかり慢心してしまった彼は、代償に自身の命と未来を支払うことになる。
他のヘリオポリス組も出来るようになったと喜んでいる。能天気なコイツらはいいよねぇ。キラのように悩んだり、苦しまなくていいんだもの。こんなにも甘く見ていて何もわかってないのだから、そりゃキラのことを気にかけないよね。
そんな能天気な連中にも、ようやくこのあと自分がした選択の結果と「戦争」の現実を突きつけられる時がくる。遅すぎたね、これは遠足じゃない、ゲームじゃないという戦争への認識が。
ミリアリア「トールは調子に乗りすぎ。すごく心配だったんだから。トールが出るって聞いた時は」
トールの心配はするけど、キラの心配はしない女。キラ何てシミュレーションを含めた何の訓練も受けていないのに、「コーディネイターだからできるだろ」っていきなり戦場に出されちゃったのにねぇ。みんな心配どころか、キラに依存して戦わせちゃってるんだから、心配何かするわけないか。そもそも「友達じゃないヒドイ連中」だしね。
いつだってキラのそばにいるのはヘリオポリス組ではなく、「トリィ」。キラにとって友達はトリィのみ。一人に戦わせておいて、自分たちは後方の安全な艦にいる。何かあればすぐキラを呼ぶ。それが苦しませているとも思わずに。それでいて誰も心配しない、気にかけない、何も言わないで自分たちだけでキャッキャウフフしている。友達以前に人としてどうなの?って僕は言いたくなる。
何もわからない、何も考えようとしないって悪で罪だね。
キラ「ごめん…。あとで。帰ってから」
フレイに呼び止められるけど、フレイは言いたいことが言えない。出撃しなければならないため、キラは帰ってからと言って行ってしまう。
その「あとで」は、もう永遠に訪れることはないとも知らずに…。キラのこのセリフは完全に死亡フラグだし。
トール「スカイグラスパーで出ます!危ないですよ、このままじゃ!」
ここからは、完全に本来の目的を忘れた私闘となる。アスランたちの攻撃にアークエンジェルはかなりの損傷を受けてしまい、トールが制止も聞かずに出撃してしまう。
キラやムウさんでさえ苦戦しているというのに、トールが出撃して一体何が出来るというのか。戦争のことを何もわかっていなかった。甘く見ていた。ヒーロー気分に酔っていた。シミュレーションやって、成功した。だから、キラやムウさんみたいに戦えると勘違いしていた。
実際はろくに訓練も受けておらず、出撃したといってもほんのわずかな時間でしかなく、実戦経験は皆無に等しいのである。
結果、トールはアスランにシールドを投げつけられ、呆気なくやられてしまう。
トール「え…」
シールドを投げつけられる何て、まずシミュレーションには出てこない。シミュレーションやったからバッチリ!何て思っていたのだから、シールドが飛んでくるとは思ってもいない。トールのこの表情は、正にそんな顔。実戦とシミュレーションは違うのだ。当然、回避できるわけがない。上記で書いてきたことの全てが要因となった戦死なのである。
ニコルのように最期の言葉何て言えずに呆気なくやられる。一瞬にしてやられる。これが戦争である。トールの死はそれを体現している。
その後、キラも犠牲になり、交信が途絶する。(キラは生きてるが)
ミリアリア「キラ!トール!聞こえますか!?応答して下さい!キラ!トール!?キラ!」
SIGNAL LOSTと表示されたことの意味がすぐにはわからず、ミリアリアは呼び掛け続ける。しかし、次第にその声や表情が不安や恐怖に変わっていく。それを黙って聞いているチャンドラやトノムラはわかっているが、何も言えない。軍人である彼らは取り乱すことはない。ヘリオポリス組よりも戦争のことがわかっているからである。だからすぐにその現実を理解し、受け入れられる。ところが、ヘリオポリス組は戦争のことを何にもわかっていないため、当然覚悟があるはずもなく、現実を受け入れることはできない。
ミリアリア「キラ!キラ!聞こえる!?ディンが!」
ディンが接近している。それを聞いたミリアリアはすぐにキラを呼ぶ。これは19話と同じ、自分たちの身の守りをキラに依存していることの表れ。自分たちが危なくなればキラ。これは「コーディネイターのパイロット」、「戦力」としてのキラをアテにしているに過ぎないということ。自分たちは戦わない。戦うとしても常に後方の安全な艦の中にいて、キラ一人に戦わせる。危機になればキラを呼ぶ。繰り返し。キラが死ぬかもしれないとか考えない。キラに守ってばかりで…と言いながら、結局キラ一人に戦わせているヘリオポリス組の欺瞞。それはここでもよく出ている。それだけキラがすごかったということでもあるが、依存しすぎ。
ここでナタルさんが、誰も言えない現実をハッキリと突きつける。
ナタルさん「いい加減にしろ!ヤマト少尉、ケーニヒ二等兵は共にMIAだ!わかるだろ!?」、「受けとめろ。割りきれなければ、次に死ぬのは自分だぞ!」
サイ「!」
そう。それが戦争。
「自分も含めて、この中の誰かが犠牲になるかもしれない」と誰も思っていなかった。こうやって言われるまでわからなかったのだ、ヘリオポリス組は。だから、キラの心配を全くしなかったのだ。今まで帰ってきていたのが奇跡なのである。
そしてナタルさんが言うように、いちいち悲しんでいたら戦争何てやってられない。戦争は命の奪い合い、殺すか殺されるかだ。だから、戦場に出れば死ぬのだ。トールのように。そんな覚悟もなくいていい場所じゃない。自分たちが如何に何もわかっていなかったか、如何に安易軍に残ることを決めてしまったか、ここでようやく突きつけられる。
ミリアリア「そんなはずないんです!MIAだ何て…。そんなはず…だから…だから!」
トールの死という現実を受け入れられない、認めたくないミリアリアは涙を流す。あんなに明るかった子が一転して傷ましい姿になる。あまりに遅すぎた「ゲームじゃない」、「遠足じゃない」戦争に対する認識。その代償はとても大きいものだった。
その後、サイも現実を突きつけられる。
ナタルさん「ケーニヒ二等兵とヤマト少尉の遺品を整理しろ」
サイ「遺品!?だって、まだ…!」
ナタルさん「艦長がMIAと認定したんだ。これが決まりだ。よすがを見つめて悲しんでいては、次は自分がやられる。戦場とは、そういうところだ」
事実上の戦死。そう認定された。だから、遺品を整理しろ。それだけ。人が犠牲になって、その度にいちいち悲しんでなどいられない。切り捨てろ。そんな甘い認識や覚悟もなくいていい場所じゃない。サイも甘かった。何もわかっていなかった。遅すぎた代償は本当に大きい。もう帰ってはこないのだから。(キラは生きてるが)
キラとトールが死んだという事実はフレイも知ることとなる。
フレイ「死んだ?キラが?」
フレイ「キラは戦って、戦って、戦って死ぬの!でなきゃ許さない!」
フレイの望んだ通りになった。復讐に成功した。なのに、その現実を受け入れることはできなかった。本来なら目的を達成したのだから、喜ぶところ。が、フレイの目には悲しみの涙が浮かんでいた。
その悲しみをフレイは認められない、認めたくない。そして、また居場所を探し求める。
死を認められないという状況が続く中、また一つ関係が終わる。
続く。