続き。
フレイはコーディネイターへの復讐、キラへの復讐と利用するためにキラに近寄った。そんなことは知るはずもなく、与えてくれた優しさと温もりにすがるキラ。
孤独で、精神的にキツかった時にそばにいてくれた、話しを聞いてくれたのがフレイだった。だから、キラは簡単に撃沈した。
そんな二人は恋愛感情ではなく、お互いに傷の舐め合いの関係、依存関係となっていく。
それを見抜けるほど、サイは大人ではなかった。
コーディネイター何かのキラへフレイがいってしまった。それは、サイのプライドが許さなかった。だから、キラに挑みかかった。
キラ「やめてよね。本気でケンカしたら、サイが僕に敵うはずないだろ?」
しかし、その手がキラに触れることはなく、意図も簡単にその手を捻り上げられてしまった。
「キラはコーディネイターだから」とあれだけ言われていたら、キラもいい加減にしろとなるのは無理もないこと。そっちがそうやってくるなら、こっちも黙ってはいない。これはケンカではよくあること。(常套句ともいう)
キラ「フレイは、優しかったんだ。ずっとついててくれて、抱きしめてくれて…僕を守るって…」
キラと距離をとり、壁を作り、グループから弾き出したサイたち。自分たちのことばかりでキラ一人に戦わせておいて、誰もキラのことを気にかけない。理解しようともしない。そんな中で、フレイだけがそばにいてくれた。話しを聞いてくれた。ただ、それだけでよかったのだ。
キラ「僕がどんな思いで戦ってきたか、誰も気にもしないくせに!」
コーディネイターは完璧人間ではない。万能人間でもない。この一言に何も感じないのであれば、もうクソ以下である。
フレイが与えてくれる癒しはまやかしで、偽りである。また、フレイもキラがどんな思いで戦っているか何てわかっちゃいない。そうとは知らずにすっかり気が大きくなり、サイをボコッてしまったキラ。
こうしてキラとフレイは、互いに縋り合うことしか出来ない依存、傷の舐め合いの関係となっていく。そこから抜け出せるほど、キラとフレイは強くはなかった。
そんな関係は長続きはしない。
ー屈したサイー
買い出しに出掛けたキラとカガリが、時間を過ぎても待ち合わせ場所に現れない。電波状態が悪くて連絡も取れない。しかも、ブルーコスモスのテロもあったという。一気に緊迫するアークエンジェル内。
サイ「(キラ…)」
キラを心配する気持ちもある。が、サイはこうも思った。
このまま、帰ってこなければいいのに…と。
サイは、キラがこのまま帰らぬことを望んだ。キラが憎かったからだ。気持ちの悪いコーディネイターがフレイに触れたこと、ずっと自分のそばにいた子が気持ちの悪いコーディネイターのところへ行ってしまったこと、フレイの前で恥をかかされたこと、何でも出来ること…差別に妬み。
サイの心の中の闇である。
サイ「くそっ!何で!?」
そして、ストライクは前へ倒れ込んでしまう。
四つん這いの姿勢…それは、そのままサイの姿を表していた。「屈した」という。
操縦し、キラの代わりに戦うどころか、まともに歩くことさえ出来なかった。
サイは、完全にキラに屈したのである。
キラに負けたくないという対抗心。キラへの妬みと憎しみ。キラに腕を捻り上げられたことによる屈辱。人に裏切られる事実と痛み。こんなにも何も出来ない自分の能力の限界。それに対する失望と絶望。挫折。
これはさすがに痛ましい。
キラと自分の間にこんなにも差があったことを思い知らされる。遥かに劣る自分が抱く劣等感。キラへの妬みと憎しみ。キラが帰らぬことを望んだ自分。悔しさ、惨めさ、情けなさ、醜さ、失望に絶望。それらが涙となり、嗚咽と共にこぼれ落ちる。
何もかもを失った。プライドが折れた。這いつくばった今の姿があまりに惨めで、サイは咽び泣く。
キラは友達だ、コーディネイターでもキラは違うよとか、そんな調子の良いことを言っておいて、実は根底ではキラのことを認めてなどいなかった。全てを悟らされ、また、見抜かれ、サイは屈した。
キラと同じ土俵で争っているうちは、まだその境地に立てていないということ。(キラもね)
自分と自分と違うもの。
人間は、どうしてもそこに囚われる。が、みんながみんな同じである必要はないのである。同じでいる必要もない。他人と自分を引き比べて優劣をつけること自体が間違っているのだ。大切なことは、自分が自分として出来ることを見つけ、精一杯尽くすことである。
自分はこれが出来る。君はこれが出来る。二人して同じことをする、出来る必要があるの?
キラとサイが同じことが出来る必要はない。その境地に立てていないから、認め合えない。不信感が消えない。
お互いがお互いの役割を知り、認め、不信感を拭う。これはどちらが欠けてもいけない。どちらも必要だから。その境地に立てない間は、ずっとダメでしょう。
キラとサイは、そのまんま地球とプラントの関係である。地球とプラントもその境地に立てないから、最悪なところまで行ってしまうのだ。
ー知ってしまった本心ー
カズイ「キラは顔出さない方がいいよ。鍵開けたら、ドアの陰にいて」、「またキレちゃったらイヤだろ?あのサイがさ」
そうさせたのは自分だ。カズイからそう言われたような気分になる。が、事実である。サイを裏切った、傷つけた。だから、キラにサイを気遣うことは許されない。
隠れていなくてはいけなくて、すっかり入っていけなくなってしまった。どうして、こんなことになってしまったんだろう?キラの正直な疑問と言える。
フレイの姿を目撃したキラは、フレイに訊ねる。
キラ「さっきはどうしたの?サイのとこ、来てたでしょ?」
フレイ「サイ、バカよね。あなたに敵うはず何かないのに。バカなんだから…」
キラ「!…フレイ…」
思わず発してしまった一言。その一言によって、キラは気付いてしまう。
フレイは、サイが好きなのだと。
自分を癒してくれた温もりから、キラは離れる。フレイは再びキラに迫るが、キラは遠ざける。
キラ「ごめん…」
部屋から飛び出し、キラは蹲る。
フレイは自分のことを好きなわけではなかった。じゃあ、どうして自分とああいうことをしたの?本心からではなかったということ?そうとは思わず、有頂天になって舞い上がって、サイを裏切り、傷つけてしまった。そのことをキラは強く後悔する。が、やってしまったことは、もうどうしようもないのである。
キラは一人暗い場所に座り込む。サイと同じように。
が、サイはキラと違って顔は下を向いていない。これを乗り越えれば、サイは人としても男としても成長できる。みんなから離れている、考える時間が出来たのは、とても良いことである。サイはいち早く抜け出しそうだ。
とはいっても、すぐには無理である。ソナーの準備と調整を任されているキラと、何も出来てない、任されてもいない自分を引き比べてしまっている。優秀なキラと、何も出来ない自分。サイの表情は曇る。
その後も二人は気まずい関係となってしまった。そしてサイは、あっさり引き下がる。諦める。だが、サイは着実に変わり始めていくのだ。挫折を経験したことで、サイは大人になっていく。
続く。