続き。




キラ「必ずね。約束する」


お前は帰ってくるよな?と言うサイに対し、キラはこう返した。約束すると強くキッパリ告げた。


なのに…


サイはずっと帰ってくるよう念押しを続ける。


キラは帰ってくる、約束すると言っただろ。聞いてなかったのかよと言いたくなるほど、サイは念押しをやめない。


それはもう、キラを信じていないということ。実際このあと、サイはそれをあろうことかキラ本人に言ってしまうことになる。



ー本当のところー


サイ「カズイがさ、お前とあの女の子の話し聞いたって」


キラ「(えっ?)」

ラクスとの話しを聞かれた上、それをみんなに告げ口していた。人のことを平気で言う人間こそ信用ならないと思うのだが、サイはそうでないようだ。信用していない相手は、今目の前にいるキラだからだ。


サイ「あのイージスに乗ってんの、友達なんだってな」


キラ「!」

人には知られたくないことがある。みんなに言えない、話せないことだからこそ、ラクスに打ち明けたのに。そこまで聞かれていた上に皆に告げ口していた。まさかそんなことするような奴がいるとは思いもしなかっただろう。皆の畏怖、不信に火を着けてグループを引っ掻き回す。だが、現実にも人のことを嗅ぎ付けたり、詮索したり、それを皆にバラすというゴシップ記者みたいな奴は必ずいる。皆に言うだけ言って、自分は何もしない、自分の意見は何も言わないというのが特徴である。


ここで僕はキラくんや皆さんにお伝えしたい。


友達は選ばないとダメだよ。


では、どういうのが友達と言うのか。皆さんもご自身で考えてみて下さい。


少なくとも、ヘリオポリス組のような心の中では差別しているくせに、表面上を取り繕っている人たちは友達とは言わないよ。


サイ「正直言うと、少し心配だったんだ」

キラが帰ってきて安心したのか、思わず本音がこぼれ出る。(こういう一言が本当におもしろいね、SEEDは)


「心配だったんだ」というのは、決してキラの身を案じていたということではない。キラの身を案じるならば、そもそも最初から戦場に何か出さない。


では、どういうことか?


信じてる!とあれだけ言っておきながら、本当のところは「キラを信じていませんでした、疑っていました」ということだ。


まぁ、気軽に信じてる!などと言う奴こそ、信用ならんけどね。あと、俺たち友達だよな!とぬかしてくる奴も。本当のところはそう思ってないからだ。思ってないから言ってくる。


サイ「でもよかった。お前、ちゃんと帰ってきたもんな」


イージスに乗っているのがキラの友達と知っていながら、帰ってきてよかったと言う。これはキラを縛っている言葉だ。サイ本人が今、キラに対して何を言ったのか無自覚だからこそ、更に重荷に感じてしまう。そして、傷つけている。友達という言葉や存在がキラを縛るものになっているのは、もう間違いない。


キラが帰ってきて、サイやミリアリアは喜んでいる。そりゃそうである。安住しているグループが崩れずに済み、自身の身を守ってくれる人がいなくなるのは困るからだ。キラに帰ってくるよう念押ししたのは、そのためである。決してキラのことを考えてのことではない。


キラのことを本当に思うならば、イージスに乗っているのが友達だと知って、キラが帰ってきてよかったなどと喜べない。帰ってきたことで、キラはその友達と戦うことになるんだよ?命の奪い合いをしなきゃいけないんだよ?何でそこを気にかけたり、思いやったり、キラのその心痛を理解しようとしないの?キラを縛りつけ、再び戦わせる張本人どもが。


本っ当に自分のことばかりで無神経、身勝手である。自分たちさえ良ければいいのかと言いたいくらいだ。


サイたちは安心して喜んでいるが、キラは微妙な表情だ。そこに二人は全く気がつかない。

キラが微妙な表情なのは、素直に喜べないからである。キラはここでキレても良いくらいだ。


二人が去ったあと、キラは思い出す。サイが執拗に念押ししてきたことを。


サイ「きっとだぞ!キラ!俺はお前を信じてる!」


怒りとも、悲しみとも取れる表情である。どちらかと言えば怒りが強いか。


当然だ。


信じてる!とあれだけ言いながら、本当のところは信じていなかった、疑っていたとゲロッたのだから。キラからすれば、自分のことを信じてくれていなかったのか…むしろ疑っていたのかよと怒りの感情が沸くのは当然とも言える。


このあとも、サイはまたキラを傷つけていくのである。



ー壁を作る二人ー


食堂で食事中のサイとカズイ。

第八艦隊と合流すれば、降ろしてもらえるんだよね?という話しをしている。


カズイ「キラはどうなるんだろう?降りられるのかな?あれだけ色んなことやっちゃってさ


誰のためにキラが手を汚してきたと思っているのか。まるで他人事である。心配しているように見えるが、キラが一緒に降りられるように取り計らうことはしようとしない。カズイはずっとそうだ。心配している風な発言のみで、自分では何もしない。常に人の顔色や空気を読んで動く。自分が嫌われないように、悪く言われないように動くのだ。


そこへ、キラも食堂へ入ってくる。食事中のサイとカズイに気付くが…。


うわぁ…。イヤだね、これ。すごくイヤだ。


何がイヤか?まずはサイとカズイの「こちらを見る目」である。


これ、アングルが良いね。キラの背後からのアングルになっている。ということは、視聴者の皆さんもキラが二人からどういった目を向けられているかわかるようになっているからだ。


つまり、キラを通して擬似体験しているのだ。食堂に入って、「友達であるはず」の二人からこんな目を向けられる。これ、あなたならどう思いますか?


どうしてそんな目で僕を見るの?


君がコーディネイターで、異質な存在だからさ。


勝手だよねぇ。あれだけ帰ってくるよう言っててさ、帰ってきたら帰ってきたでこの仕打ちだもの。


自分たちが困った時ばかりキラに助けを求め、頼る。けど、キラが悩んでいる、苦しんでいる時は助けもしない。都合の良い時ばかり「友達」何てワードを持ち出して、感謝するどころか畏怖したり、距離を取ったり、壁を作る


そう。二人は今、「異質な存在のキラ」に対して壁を作っているのだ。

自分とそうでないもの。


これは、その構図。そして、今起きている戦争の縮図であり、その根っこ…ミニマムな部分である。グループの中から、ある日突然誰か一人が弾き出される。それは「自分たちとは違うから」。対、異質。皆さんの心の中にもこういう部分はきっとある。普段は表面化しないけど、ちょっとしたことや非常時に際して顔を出す。


自分とは違うもの。グループにいる以上、同じでないと、同じことをしないと異分子として攻撃される、その対象となる、弾き出される。


この構図を広げていくと、戦争と重なるのである。だから、ヘタしたらカズイも弾き出されて攻撃されていた可能性は高いのだ。キラのようにね。それがわかっているから、彼は泣く泣くみんなに従っている。


同じじゃないと友達じゃないのか?仲良くしないのか?変だよねぇ、そんなの。でもこれは、現実ではよくあることで、皆さんも一度は経験したことがあるはずだ。一人になりたくないから、悪く言われたくないから本当はイヤだけどみんなに従うってやつ。もしくは、同じであることを求め、強要するやつ。


経験あるんじゃない?キラたちのように学生の時何か特にさ。


どうしてこういうことが起きるのか?


「違いを認めないから」である。それを認めないから、弾き出す何てことをしたり、攻撃したり、強要するのだ。だから、NOが言えなくなる。


それは果たして「友達」と言える?



迫害とまではいかないが、その端緒をキラは味わってしまっている。


キラの能力の高さを見てビビって、距離をとって、壁を作って拒む。


守ってもらっておいて感謝するどころか、「自分たちとは違うから」と受け入れない。


勝手だよねぇ。本当に自分たちのことばかりだし、勝手すぎる。


自分に対して壁を作っている、歓迎されていない、あの中に入っていけないことがわかっているからキラは傷つき、悲しく寂しい気持ちになる。

サイは良いヤツ。サイたちは良い友達と僕の周囲の人間は口を揃えて言う。


どこが!?


良いヤツ、良い友達はキラにあんな顔させねぇよ!


人に対して壁を作ったり、グループから弾き出すようなヤツのどこが良いヤツで良い友達なんだ?少しもキラのことを考えない無神経ぶりといい、少しも良いヤツ、良い友達何て思えないのだが。むしろ、その要素がない。


それに、本当に良いヤツで良い友達ならば、キラが食堂に入ってきたら声をかけると思うけどね。で、こっちで一緒に食おうぜ!って誘うよ。


キラがトボトボ歩く姿を見て、お前ら何も感じないの?傷つけてんだぜ?

キラはコーディネイターだから。キラは自分たちとは違うから。


全く「違い」を理解しようとしないね、コイツらは。こういう描写があって、対比としてカガリとキラのシーンがある。そこから、制作者側が視聴者に対して何を伝えたいのかを読み取ることが出来る。(良いシーンだよねぇ、これ)


でねでね、このあとさらにムカつくのだ。


キラに続いて、今度はフレイが食堂に入ってくる。すると、サイは「フレイ!?」とすぐ立ち上がるのである。

どう思います?


キラが入ってきた時は立ち上がるどころか、声をかけなかったのである。それどころか壁を作って拒んでいた。なのに、だ。フレイに対してはソッコーで立ち上がり、「大丈夫なのか?」と気遣いながら近寄っていくのだ。

なんだ?フレイとキラに対してのこの態度の違いは?


ムカつかないだろうか?


でも、いるよね。こういうさ、人によって態度を変えるヤツ。


信じてる!と言いながら実は信じていなくて疑っていて、帰ってくるように散々念押ししておきながら帰ってきたら帰ってきたで壁を作る。かつての友達と敵対しなければならないキラの苦しみを少しも理解しようとせず、自分たちのことばかり。


キラはこんな身勝手な連中を見捨ててアスランのところへ行っちゃえばよかったのにねと思わずにはいられない。だって、ヘリオポリス組は全員酷すぎる連中なんだもの。もう本当に身勝手で無神経で腹が立つ。


こういうのが積み重なっていくと…ああいうことになっちゃうのですよ。正直、結構スカッとしたんだよね。僕もいい加減にしろよって思ってたから。



フレイはキラに声をかける。

そして、酷いことを言ってしまったことを詫びる。もちろん、全て嘘っぱち。


フレイ「あなたは一生懸命戦って、私たちを守ってくれたのに…私…」、「私にも、ちゃんとわかってるの!あなたは頑張ってくれてるって…なのに…」


キラ「ありがとう、フレイ」

ヘリオポリス組は誰もキラに積極的に声をかけない。何も言ってくれない。それどころか線を引くし、壁を作るし、距離をとっている。しかし、フレイは積極的に声をかけるし、言ってほしいことを言ってくれる。(傷つくことを言うのもフレイ)


自分のことをここまで思いやってくれた。その嬉しさが表情やセリフによく出ている。このあとキラがフレイに傾倒してしまうのは当然のことと言える。


キラとフレイのことは、決してキラだけが悪いのではない。


自分が辛い時に誰もそばにいない、いてもくれない、聞いてもくれないような連中なぞ、友達でも何でもない。


こうしてヘリオポリスのように、キラたちの偽りの平和はあっさりと簡単に崩壊するのである。



続く。