2023.7.27
サイドとの再会
今日は、どこにも行かず、部屋でダラダラと過ごしていました。
夕方、5時半ごろ、サイドから《メッセンジャー》にメッセージが届いていることに気が付きました。
「今晩9時に先日のカフェで会おう。」というのです。
勿論、直ぐにOKの返事を出しました。
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アパートのバルコニーから海を見ると、大きなボラと思われる魚影がウヨウヨと泳いでいます。
夕方になると、隣のレストランから古くなったパンが大量に海に投げ捨てられるので、沢山のボラがそれを目当てにこの時間に集まって来るようです。
サイドとの約束の時間までかなりあるので、釣りをしてみることにしました。
こういう事もあろうかと、釣り道具一式を持って来ていたのです。
プールサイドから柵を乗り越え、釣りが出来るポイントまで急傾斜の崖を恐る恐る降りて、食パンの欠片をエサにして、ボラの群れの中に投入してみました。
しかし、レストランのパンにはウヨウヨ・バシャバシャと群がってパクついているのに、私の食パンのエサには関心を示して近付いては来るものの、決して食いつきません。
パンの味が悪いのか、近くにある浮きに警戒しているのか、釣り糸や釣針の存在に気が付いているのか、あんなに貪欲なボラが私のエサだけは警戒して食わないのです。
あいつら、ああ見えて、結構賢いようです。
結局のところ、釣果は無し。
また崖をよじ登って部屋に戻りました。
釣りに夢中になって、海に転げ落ちなくて良かったです。
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シャワーを浴びて、簡単な夕食を作って食べ終わると、そろそろサイドと会う時間になりました。
この時間になるととても涼しくなりますので、散歩を兼ねて少し遠回りしながら早めにカフェに着きました。
サイドは時間通りにやって来ました。
私はカプチーノを、サイドはコーラと水をオーダーしました。
この日は、サイドのスマホの音声翻訳アプリを使って会話をしました。
彼が言うには、
・漁師の仕事は体力的に非常にきつい仕事である。
・朝未明に出港して網を設置し、翌日の午後にはそれを回収する為に再び出港する。
・遠洋に出て漁をする時は、数日間船に寝泊まりすることもある。
・自分はアスティパレア島に来てから既に6年になる。
・その前はロードス島に2年居た。
・エジプトの家族と離れて20年間も海外で漁師として働いている。
・1年のうち8~9か月間は海外で働き、3~4か月は家族の居る家に帰る。
暫くこのような差し障りのない会話を交わした後、私は無謀にも敢えてイスラム教について話題を振ってみました。
先ず彼が私に訊いたのは、「あなたの宗教は何ですか?」ということ。
私はいきなり返答に詰まりましたが、「キリスト教に親近感を覚えます。」と曖昧な回答をしました。
すかさず彼は「あなたはクリスチャンですか?」と訊いてきました。
私は、苦笑しながら「No.」と答えざるを得ませんでした。
「多くの日本人は仏教徒ですが、仏教徒であると自覚している人は少ないと思います。日本人は葬式の時に仏教のスタイルで儀式を行うが、結婚式はキリスト教のスタイルで行い、クリスマスを祝い、新年には神社にお参りに行く…という奇妙な宗教観を持った人種なのです。要するに雰囲気で宗教的な行為をしているが、突き詰めれば無宗教である人が多いのです。」というようなことを、伝わったかどうか分かりませんが、たどたどしく説明しました。
私は、イスラム教もユダヤ教もキリスト教も、唯一の同じ神を信じていることには変わりなく、その伝道者(預言者)が異なるだけなのじゃないの…と知ったかぶりをして言いました。
サイド:「クリスチャンはマリアを神だと信じている。」
私:「マリアはキリストの母であるが神ではないよね。クリスチャンはマリアに縋る
ことで救いを求めているのではないかな?」
サイド:「マリアは男と交わらずに神から遣わされたイエスを身ごもった。」
「唯一の神アラーが預言者を遣わした。」
「キリストの前にモーゼがいて、キリストの後にムハンマドがいた。」
「イスラム教は寛容で美しい宗教である。」
「私は肉親と他人とを分け隔てすることはしない。」
「イスラム教について書いた本が手に入るなら、是非読んで欲しい。」
などと話しました。
私は「宗教を《美しい》と表現するのを聞いたのは初めてです。素晴らしい表現で
すね。イスラム教についてもっと勉強してみたくなりました。」
と答えました。これは本心からそう思ったからです。
私は彼に、「あなたはモスクへ行ってお祈りするのですか?」と訊いてみました。
彼は「エジプトに居るときには、モスクに行って祈りますが、この島にはモスクがありません。家にいるときは家で、漁に出ている時は船の中で祈ります。日の出前、正午、日没前、日没後、夜、と1日5回お祈りをします。」と言います。
「漁をしている最中に『祈りの時間ですからお祈りします。』と言って、漁を中断するのですか?」と訊くと、「いやいや、漁の中断はできないので、終わってから祈ります。」と言います。
彼は「東京には幾つのモスクがありますか?」と訊くので、「私は《東京ジャーミー》というモスクがあるのは知っていますが、他に幾つあるかは知りません。」と答えると、彼はネットで検索して「80か所のモスクがあるらしいよ。」と言いました。私は「へー、80も!」とその多さに驚きました。
私がサイドと逢ってからこのように親しく会話をするのは2回目ですが、彼の態度、物腰や会話を通して、彼の懐の深さや人間としての大きさに圧倒されるものがあり、感銘を覚えることが多くありました。
このことを彼に伝えると、彼は嬉しそうに笑って「有難う!」と言い、彼も私に対して「あなたは立派な人だ。貴方に遭えてよかった。」と言ってくれました。(翻訳アプリが間違っていなければいいのですが…。)
カフェを出る時に彼は「家に魚を用意してあるから、一緒に来てくれ。」と言います。
一緒に歩いて行くと、彼の家の近くに、煌々と明かりをつけた美しい土産物屋がありました。彼は「ここは私の友達の店なんだ。」と言ってマダムに挨拶し、中を覗かせてくれました。 マダムと一緒に写真を撮ったりした後、彼の家に行きました。
サイドが彼らの家の前のテラスの明かりをつけると、闇の中から真っ黒に日焼けしたモハダの姿が浮かび上がりました。
「やあ、モハダ!そこにいたのか。まだ起きていたの?」と言って握手をし、モハダとも写真を撮ったりしました。
カフェに居る時から気になっていたのですが、サイドは結構ヘビースモーカーのようです。私が彼に「イスラム教は身体に悪いことは禁止しているのではないの?」と訊くと、「禁止されている」と答えます。「それじゃダメじゃない。何で吸うの?」と言うと「人は時に過ちを犯す」と言うので「あんたは常に過ちを犯しているじゃないの。」と言って笑い合いました。イスラム教は本当に寛容な宗教のようです。
やおらサイドが冷蔵庫から大きな魚が2尾も入ったビニール袋を出して渡してくれました。魚の種類はスズキだと思われます。
明朝未明の出港だと聞いていましたので、彼らを寝不足にさせてはいけないと思い、お礼を言って早々にお暇し、重いビニール袋を提げてアパートに戻りました。
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我々がこの島に滞在するのは今日を含めて残り4日間です。
なるべく新しい食材は買わずに、冷蔵庫の中の残り物で何とか遣り繰りして凌ごうと考えていましたが、急に豊かな食糧事情となりました。
彼らが苦労して獲った魚です。感謝しながら、美味しく調理して頂こうと思います。
それにしてもデカいスズキです。
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さっそく翌日の朝食にスズキの半身をムニエルにして頂きました。
アッサリと淡白な味で、マヨネーズとポン酢がよく合います。
家内に、昨日のサイドとの会話の内容を報告しながら、「美味しいね!」「優しい人たちね。有難いわね。」と頷き合い、久し振りに食事中に夫婦の会話が弾みました。
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ところで、サイドとモハダに鶏の唐揚げを振舞う話ですが、中止にしました。
彼らは夕方港に帰ると直ぐに次の漁の準備をして、翌朝未明には出港するという非常にハードで忙しい毎日でしたので、調理したチキンを食べてもらうタイミングが取れず、そのうちに鶏肉の鮮度が落ちてしまいそうになったからです。
幸い我々の好物でもありましたので、二人で美味しくいただいてしまいました。
オイルをケチらず、たっぷり使って揚げたせいか、今までで一番美味しい出来栄えでした。彼らに食べてもらえず残念でした。