2023.7.16

 

尋ね人

 

まだ、今のアパートに移る前の話です。

 

アスティパレア島に着いた翌日の7月2日、港のそばのビーチで泳いでいた際のこと。何気なく港の漁船の辺りまで歩いてくると、漁師さんが船の中で魚の鱗を取っていました。

私が「魚売ってくれませんか?」と声をかけると、その船頭さんは船底から活きのよさそうな魚を出してくれました。「5€くらいで良いんだけど。」というと大きなサバを3尾と小魚を7尾くらい袋に入れてくれました。

私は、ビーチにお財布を置いたままで来てしまっていましたので、「すぐにお財布を取って来るからね!」と言って魚を持ったままビーチに戻りました。

 

直ぐに帰り支度をし、お財布を持って港に戻り、漁師さんにお金を渡そうとすると、漁師さんは「…? いいよ…。」というような態度をします。

私は、「何言ってんの。魚を買ったんだから5€を払うんだよ。受け取ってよ。」と言って漁師さんの手に5€を握らせました。

漁師さんは、まだお金を返そうというような素振りをします。

「いいからチャンと受け取ってよ。」というと、漁師さんは小さい声で「サンキュー」と言いました。そして「その魚の鱗を取ってやろうか?」という仕草をして私の魚を指さしました。私は「いいよ、自分でやるから。」と言って、傍にいた家内に漁師さんと一緒の写真を撮らせ、そのまま別れました。

 

 

そして、その翌日のこと、私がホラの町の風車の辺りを歩いていた時のことです。

バイクに乗った漁師のオジサンが偶然通り掛かり、「5€!」と声をかけてきました。

私は、「良いんだよ。あなたから魚を買ったんだから、お金を払って当然なんだよ。」と同じような言葉を繰り返しました。

するとその漁師のオジサンは、「人違いだよ!(Another Person!)」と笑ってそのままバイクで走り去ってしまいました。

 

「え!? 人違い? じゃ、5€帰してもらわなくちゃ…。」と思って、傍でその状況を見ていた家内に話しすると、「あなた何言ってんの? 今のバイクの人は昨日貴方がお金を払った人とは全然違う人よ! 貴方は全く関係ない人にお金を払っちゃったのよ。私もおかしいと思ったのよ、だって昨日あなたがお金を渡した漁師さんはキョトンとしていたじゃないの。『なんで俺が5€貰うんだ?』って怪訝な顔してたわよ。」と言います。

 

その時点でやっと私が人間違いしていたことに気が付いたのです。

「そうか!そういうことだったのか。同じような船だったもんだから、てっきりあの漁師さんだと思い込んじゃったんだ。」と言って、最初に魚を貰った漁師さんが魚を捌いているところの写真を家内に見せると、「全然違う船じゃないの。この漁師さんの船は綺麗だしキチンとしているわ。身なりだって小奇麗にしてるじゃないの。昨日あなたがお金を渡した漁師さんの船は、こう言っちゃ何だけど雑然としていて綺麗じゃなかったわ。それに身なりだって全然違っていたわよ。」

 

そう言われて、当時撮った写真を見比べてみて愕然としました。
確かに全く船の感じも違うし、人相風体もどう見ても明らかに別人でした。

慌てていたとはいえ、このような人違いをしてしまう私の顔識別能力の低さに愕然とした次第です。

      魚を捌いていた漁師さん          私に5€で魚を売ってくれた時の写真です      

 

  私が間違えてお金を渡してしまった漁師さん   「何で俺がお金貰うの?」という表情をしています

      全然別人だということには、この写真を見比べて初めて気が付きました。

 

 

そして時は流れて、今朝のことです。

朝の散歩の際に、港の入り口に屯しているオッサンたちの一人に、あの5€を渡し損ねた漁師さんの写真を見せ、「この人を知ってる?」と尋ねてみました。

すると、その髭もじゃのオッサンは、「ああ、これはHeodosis(ヘオドシス)だよ。」と一発で判りました。

「私はこの人を探しているんだけど、どこで会えるかな?」と言うと、「この先の港で会えるよ。」と教えてくれました。 そりゃそうだよね。漁師なんだもん。

 

 

そして、12:00頃、プールサイドで日光浴していた際、何気なく双眼鏡で港の漁船を見ると、漁師が網から魚を外す作業をしている様子が窺がえました。

「例の漁師さんかもしれない。チョックラ行ってくるわ。」と港に出かけると、残念ながら違う漁師さんでした。

それでも例によって、「魚ある?」と声をかけると、「あるよ。」と答えが返ってきました。「チョットでいいから売ってよ。」と言うと、「こっちに乗って来いよ。」と言います。

船に乗り込んで近づくと、漁師のオッサンは網にかかった小魚を外してバケツに放り込む作業をしていました。

英語は全く通じません。

財布をみせてもう一度「売ってよ。」と言うと、「この仕事が終わるまで待ってな。」という仕草をします。

 

写真を撮ったり、船の中を見物したりして暫く待っていました。

網から外されたゴミの中に大きなヤドカリが居るのを見つけました。まだ少し生きてます。写真を撮りましたが、食べられそうにないのでゴミの中に戻しちゃいました。

 

作業を終えたオッサンは、「どの位要るんだ?1キロか?」と訊くので、「二人しかいないんでチョビットでいいんだ。」と言って小魚を5尾ほど選んでもらいました。値段を聞くとオッサンは苦笑いして「2€でいいよ。」と言いました。コインを渡して記念撮影をしました。オッサンは真面目な顔をしていたので、「スマイル!」と言ったら精いっぱいの笑顔をしてくれました。

 

 

 

魚を下げて帰りかけた時のことです。

 

別の船で作業をしていた例の5€漁師さんHeodosis(ヘオドシス)を見つけました。

お互いに目が合ったので、「おー!5€?」と声をかけると、「そうだよ!」と親しげに笑って答えます。「探してたんだよ。貴方はHeodosis(ヘオドシス)っていうんでしょ。俺の勘違いでスマンことをしたナー。5€払うよ。」というと、ヘオドシスは笑いながら近づいてきて、素直に5€札を受け取ってくれました。気になっていた借りを返せてホッとしました。

近くにいた仲間の漁師に頼んで、記念写真を撮ってもらいました。それがこの写真。

二人ともいい笑顔です

 

 

ヘオドシスに、私が間違ってお金を渡した漁師の写真を見せながら、「この人に間違ってお金を渡しちゃったんだよ。この人はキョトンとしていたよ。」と話すと、「ははは、この男はこの港の漁師じゃなくて、あっちの方の漁師なのさ。」と遠くの方を指さしました。カリノス…と言ったように聞こえましたが、どこのことやら見当もつきません。その漁師に今度会ったら、しっかり5€分の魚を分けて貰おうと思っていましたが、この港の漁師でないのならもう会えそうにありません。

 

これが「尋ね人」の顛末です。お粗末でした!

 

 

行きがかりで買ってしまった魚は、鰺が3尾とキスのような魚が2尾でした。

鰺の1尾は捌いてあります

 

キスのような魚はフライにして、トーストに挟んでお昼に食べました。

 

鰺は、味噌と合わせて叩いて「なめろう」にして夜の献立の「豚カツ」と一緒に食べました。 ギリシャの島で「なめろう」が食べられるとは思いませんでした。写真中央が「なめろう」です

 

 

 

 

 

ところで、「尋ね人」と言うと、私が物心つく頃からしばらくの間、ラジオから「尋ね人の時間です。」というアナウンサーの声が流れてきていたことが、子供の頃の「茶の間」の原風景として思い起こされます。

この話を聞いて、「ああ、そういえば聴いたことがある。」と懐かしく思う方は、私と同年代か、相当お歳を召した方ですな。

 

「何のこっちゃ?」とお思いの若い方のために説明すると、1946年(昭和21年)から1962年(昭和37年)にかけて、第二次世界大戦の混乱の中で離ればなれになり連絡不能になった人を尋ねるための放送が、NHKラジオ第1放送で流されていたのです。

この番組は、聴取者から送られた、連絡不能になった人物の特徴を記した手紙の内容をアナウンサーが淡々と朗読し、消息を知る人や、本人からの連絡を「NHKの『尋ね人の係』までお寄せください。」というものでした。

 

私のような戦後生まれの人間で、なおかつ自分の家族・親戚の中に行方不明となった者が居ない人にとっては全く関係のない放送内容でしたが、それでもそれぞれの手紙の内容に様々な数奇な人生の縮図を垣間見るような気がして他人事とは思えず、ぼんやりと聞き流していた記憶があります。(当時のこの番組の聴取率は90%だったとか。他に番組が無かったとはいえ凄い数字です。)

放送期間中に読み上げられた「尋ね人」依頼の総数は19,515件で、その約1/3にあたる6,797件が「尋ね人」を探し出せたといわれますから大したものです。

 

 

この時代を懐かしく感じる方と、この時代を知らない若い方のために、ご参考まで。

【再現】尋ね人の時間です。 - Bing video

 

下のビデオは、テレビ朝日系列で放送された『戦後50年企画 尋ね人の時間』の内容です。何故【戦後70周年】なのか、何故「怖い!」のかは不明ですが…。

【戦後70周年】怖い!尋ね人の時間【番組20周年】 - Bing video