2022.1.7

 

小松左京著 『復活の日』 と COVID-19

 

昨年のクリスマスの日に、杉並区立図書館から『予約資料取置のお知らせ』のメールが届きました。

 

私はすっかり忘れていましたが、コロナ騒ぎが大きくなり始めた頃、小松左京の『復活の日』を読んでみたいと思い申し込んでいたのでした。

 

早速借りて読んでみて驚きました。

ほぼ50年前(1972年)に書かれたこの小説は、今現在世界で進行しているCOVID-19のパンデミック騒ぎと酷似する内容を克明に描きだしているのです。 私は、小松左京というSF作家の先見性や洞察力に驚愕せざるを得ませんでした。

 

この小説の‟あらすじ”を簡単に述べると・・・

 

小説の時代設定は196×年。

英国の細菌研究所で試験中だった猛毒新型ウイルス「MM-88」が盗み出され、輸送中の飛行機事故でウイルスがアルプス山中に放出される。春の気温上昇に伴い「MM-88」は大気中で増殖を始め、猛烈な勢いで全世界に広がり人間社会は壊滅する。

僅かに南極大陸にいた各国観測隊員約1万人と、海中を航行していた米ソの原子力潜水艦の乗組員のみが生き残った。彼らは「南極連邦委員会」を組織し再建の道を模索。

人類の種の存続のために女性隊員16名の妊娠・出産を管理し、無線で入手した医学者の遺言からウイルスの正体を学び、ワクチンの研究を開始する。

ところが、アラスカを巨大地震が襲い米国のミサイル基地が破壊され、これを敵国の核攻撃と誤認した米国の自動報復装置が作動し、ICBMがソ連全土を攻撃。それを受けたソ連のミサイルも報復攻撃を展開し、世界は2回目の死を迎える。
しかし、幸いにもミサイルは南極を標的としておらず、更に、地球上のいたるところに落とされた中性子爆弾が発した中性子線によって「MM-88」は無害ウイルスに変異し、南極の人々はすくわれる。

やがて彼らは南米に辿り着き、人類社会の再構築に着手する・・・。

 

 

最初は数羽の野鳥の死、やがて原因不明の家畜の死、運転手の突然死による交通事故、という形で不安が広がり始め、人々の心臓麻痺による突然死が不気味に広がり始めます。

世間はこの流行り病を”チベットかぜ”と呼びますが、ウイルスの猛烈な増殖力と伝播力から過去に経験したことのない全く新しい型であることが認識されます。WHOはスペイン風邪以来のパンデミックを警告すします。(この小説ではさすがにWHOの中国との癒着は記されていません。)

 

人類の破滅に向けて謎のウイルスが蔓延していく恐怖が、医療関係者の苦悩や、登場人物の人間ドラマと共に克明に描かれて、読者を引き付けます。

著者小松の医学・疫学・薬学的知識の深さにも脱帽です。

 

パンデミックに対する社会現象も、作者が現在ここにいるかのように描かれています。医療崩壊や暴動、死体処理問題、社会的インフラの途絶・・・。(ワクチン接種を求める群衆から黒人を排除するという人種差別的な事件が記されていますが、さすがに現代では起きていません。)

医療崩壊

 

暴動

 

パンデミックに対する政府の対策も現在と酷似しています。最初は「人込みを避けるように」と呼びかける程度だった対策が、やがて特別緊急措置命令の発令、軍隊の出動へとエスカレートしていきます。

 

最後には、人類の相互不信が生み出した核ミサイルの報復攻撃の連鎖によって、地球上に無数の核ミサイルが降り注ぎ、その結果発生した中性子線によって、皮肉にも病原ウイルスが無毒化され、忌まわしい悪夢は終息を迎えます。

核戦争

 

 

現在、世界を席巻している弱毒性のオミクロン株が、コロナ禍を終息に導く奇貨となることを願うばかりです。

 

しかしながら、たとえ早晩コロナ禍が終息したとしても、再び新たなウイルスが人類を襲わないとも限りません。現に地球温暖化によって、シベリアの永久凍土の中に封じ込められていた未知の強毒ウイルスが、永い眠りから目覚めようとしていると一部の学者は警告を鳴らしています。

人類の知恵と自然との闘いは終わることは無いのでしょうか…。