2019.9.23

 

最近のTV報道(Euronews) を見て思うこと

 

 

私がこちらで良く見るTVチャンネルに、「Euronews」 があります。

 

Euronews は 米・CNNの向こうを張って、欧州放送連合によって1993年に開局されたニュース専門チャンネルで、ヨーロッパで最も視聴されているチャンネルの一つだそうです。

 

このニュース番組で取り上げられる直近の大きな話題は、何と言っても「気候行動サミットの開幕」と「トマス・クックの倒産」に関するニュースです。 

 

私にとっても大変興味深い問題ですので、今日はこの二つのニュースについて少し考えてみたいと思います。

 

 

先ずは「気候行動サミット」の報道内容について。

 

ニューヨークの国連本部で今日開催された「気候行動サミット」の様子が、繰り返し繰り返しTVで報道されています。 この問題について日本ではどのように取り上げられているのでしょうか? とても気になるところです。 日本のTV番組では、視聴率受けする内容ばかりがワイドショー的に報道されているようなことはないでしょうか? 今こそメディアは、この問題にフォーカスして、世論を喚起していく必要があるように思います。

 

今年の気候サミットを特徴づけているのが、何と言ってもスウェーデンの16歳の少女グレタ・トゥンベリ(Greta Thunberg)さんの存在でしょう。

グレタ・トゥンベリさん

 

彼女はご存知のように、昨年スウェーデンの議会前で抗議活動を行い、世界の若者の環境運動に火を付け、今月20日に行われた世界各地での「気候ストライキ」のきっかけを作った人物です。

 

「気候行動サミット」に先立ち、21日には 「国連若者気候サミット(UN Youth Climate Summit)」が初開催され、グレタ・トゥンベリさんをはじめとする数百人の若者が出席し、炭素の排出削減努力が不十分すぎると、我々大人の世代に対する糾弾を行っています。

 

「気候行動サミット」において、グレタ・トゥンベリさんが舌鋒鋭く今の政治家や財界人、そして我々大人の世代の無為無策を批判する切実なスピーチには心を打たれました。

彼女は、「あなたたちは空っぽの言葉で、私の夢そして子供時代を奪いました。それでも私はまだ恵まれている方です。多くの人たちが苦しんでいます。多くの人たちが死んでいます。全ての生態系が破壊されています。私たちは大量絶滅の始まりにいます。それなのにあなたたちが話しているのは、お金のことと、経済発展がいつまでも続くというおとぎ話ばかり。恥ずかしくないんでしょうか!」と涙を浮かべながら訴えていました。そして彼女は次のように締め括っています。「未来の世代の目は、あなたたちに向けられています。もしあなたたちが裏切ることを選ぶのであれば、私たちは決して許しません。」と。

 

彼女のスピーチの映像は、このブログ記事の最後に掲げたYouTube でご覧になれます。

 

意外だったのは、トランプ米大統領の姿が一瞬画面に映し出されたことです。彼も出席していたようです。 もちろんトランプ氏の発言機会はなく、彼はいつものように腕組みをし、顎を突き出して憮然とした表情で座っていました。

 

印象的だったのは、会合の休憩時間と思われるタイミングでトランプ氏が退席する際、その後姿を、怒りに燃えるような憎しみの眼差しで睨みつけて見送っていたグレタ・トゥンベリさんの姿でした。

 

また、サミットの冒頭におけるグテーレス国連事務総長の、「我々の世代は地球を守る責任を全うできなかった。競争に負けつつある『気候非常事態』だが、勝つことはできる」「話すためではなく、交渉するためでもなく、行動するためのサミットだ」という演説、とりわけ「気候変動を相手に取引しようと考えてはいけない(You don't negotiate with Climate.)」と暗にトランプ氏を批判するかのような発言をしていたのが印象的でした。

 

 

翻って、私は現在、何も行動せずに、旅先のビーチで日光浴三昧の生活をしています。

これでいいのか…という自責の念に駆られます。

思えば、旅行をするという行為は、多くのCO2を排出する行為でもあります。

空港から飛び立つジェット機を背後から見ていると、実に膨大な量の排気ガスを噴出しながらテイクオフしていくのがよく判ります。

それに引き換え、航空運賃は安過ぎるという気がします。

東京からパリまで、数万円から10数万円で往復できてしまうのですから。

私はこの料金に、現在の「地球温暖化対策税」の枠組みとは別に、高額の「旅行環境税」的なものを上乗せして、その税収を省エネルギーの推進、再生可能エネルギーの拡大など、エネルギー起源CO排出抑制対策の更なる推進のために使ってはどうかと考えます。

もちろん、「訪日外国人の受け入れ環境を整備するため」という目的で創設された「出国税」とは全く別のコンセプトです。

ジェット機ばかりではありません、豪華客船でのクルージングも然りです。 客船の場合は重油を燃料に使いますから、環境汚染への影響はさらに大きいと思います。

個人の旅行にも、ビジネスでの出張にもこの環境税を上乗せすれば、相当な財源が確保できるのではないでしょうか。

 

【試算】 もちろん国内旅行者への賦課も考えて良いかもしれませんが、取り敢えず海外旅行者に限定して試算すると、日本人の出国者数は年間約1,900万人ですから、仮に一人平均3万円の「旅行環境税」を徴収すれば、年間5,700億円の財源が確保できます。この額は、既に導入されている「地球温暖化対策税」の2倍以上の金額となります。

 

現在の「地球温暖化対策税」は「広く、薄く、公平に」という考え方に基づいて、国民に1世帯当たり年間1,200円程度の負担を求めるものですが、私の提案する「旅行環境税」はもっと重点的に旅行者に環境負荷への代償として負担を求める考え方です。

ホリデーメーカーと呼ばれる旅行者は、相対的に裕福で経済的に余裕があるからこそ海外旅行が出来るのだと思われます。 企業の従業員の海外出張も、相対的に見れば余裕のある会社の行うことであり、出張にかかる経費を高額にすれば、テレビ会議の活用など、無駄な出張を無くす良い機会になるかもしれません。

 

もちろん私も旅行代金は安くあげたいと思っていますし、旅行代金を捻出するために日常生活の他の所で爪に火を点すように節約的な生活を心掛けているのも事実です。 しかし、我々大人の世代が地球環境の悪化に手を拱いてきたことの罪滅ぼしとしては、この程度の負担を受容することはやむを得ないのではないかと考える次第です。

 

 

 

 

ニュースの字幕では、‟Thomas Cook collapses, stranding 600,000 holidaymakers around the globe”と報じられていました。

これは実に大変な問題で、同じ旅行者として他人事とは思えず、被害に遭った旅行者たちは本当に困っているだろうと同情します。

 

トーマス・クックはイギリスの旅行会社で、178年の歴史を持つ旅行代理店の草分け的な企業です。

この会社の創業者トーマス・クックは、「近代ツーリズムの祖」とも言われ、もともとはプロテスタントの伝道師だったそうですが、1841年に、禁酒運動の大会に多数の信徒を送り込むため、列車の切符の一括手配を考え出し、当時高価だった鉄道旅行を割安料金で乗れるようにしたそうで、これが今日の企画旅行の始まりだったと言われています。

 

この問題について感心するのは、英政府が一早く民間航空局(Civil Aviation Authority=CAA)と協力して、トーマス・クック社の手配により海外に出国している旅行者15万人を全員、無料で帰国させると発表し、既に数十機のチャーター機が各国に飛んでいるという事実です。

この大規模な帰還作戦は、「マッターホルン作戦」と呼ばれているそうで、政府がイージージェットやヴァージン航空などから提供を受けたチャーター機45機が、23日だけで64航路を移動すると言われています。

 

翻って、日本でもし同じような事件が起こったらどうなるのか気になるところです。

 

先ずは旅行代金の補償について。

イギリスではパック旅行利用者の宿泊費と帰国費用は、英政府の旅行者保護を目的とした補償制度・航空旅行信託基金(ATOL=Air Travel Organizer’s License)の条件にしたがって払い戻されるようです。 (その条件の内容については、私はまだ調べておりません。)

 

一方、日本では、JATA(日本旅行業協会)という組織が基金を用意しており、万一会員旅行会社が倒産したような場合は、一定の旅行代金の補償を行ってくれるようです。 

しかし、てるみくらぶの倒産時のJATAからの弁済限度額は全員分でたったの1億2000万円で、弁済率は被害額99億2352万円に対し僅か1.2%に過ぎませんでしたから、十分な補償は得られないものとして覚悟しておくべきでしょう。

問題は、JATAに加入していない中小の旅行会社が破綻した場合ですが、この場合は一切の補償が受けられないことになります。 また、弁済補償の対象となるのはパックツアー代金のみで、航空券単品を購入した場合などは救済の対象にならないようです。

 

次に、政府や業界団体による帰国支援事業について。

てるみくらぶの倒産時には、政府は全く動いていなかったと記憶します。 海外に取り残された旅行者は、自力と自己の負担で帰国便の手配をしなければならなかったと思います。

これに対し、英国では、今回のトーマス・クック倒産における「マッターホルン作戦」や2017年のモナーク航空の倒産時における救出作戦のように、政府が一早く政府の負担において海外で立ち往生した旅行者の救済を打ち出しています。

この差は何処から来るものなのでしょうか?

私はその背景に、パッケージ旅行に関する「EU指令」の存在があると思います。

このパッケージ旅行に関する「EU指令」とは、EU委員会が旅行者の消費者保護を目的として定めた法令(いわばガイドライン)で、これに基づき加盟国に対して自国の法整備を行うよう求めているものです。 この「EU指令」の中に旅行会社が倒産した場合の旅行者保護の記載があり、政府による帰国救済を速やかに行うよう求めているのです。そして現在では、多くの加盟国が既にこの指令に基づき自国の法整備を終えていると言われています。

ですから、英国が特別進んだ国だからという訳でも、ボリス・ジョンソン首相が大英断を下したという訳でもなく、多分フランスやドイツで同じようなことが起こっても、今回と同様の政府による帰国支援対策が取られるであろうと思われます。 強いて言えば、進んでいるのはEU委員会の考え方ではないでしょうか。

その意味では、日本は確かに遅れていると言えます。

しかし、私はそれが政府の怠慢であるとばかりは言えないように思うのです。 というのは、旅行会社が倒産した場合に、海外に置き去りにされた旅行者を、政府が巨額の費用負担をして救済することに、一般国民は納得感を持つでしょうか?

2017年のモナーク航空の倒産時における英国政府の負担額は、約6000万ポンド(約79億8000万円)であったと言われていますし、今回のトーマス・クックの事案はそれをさらに上回ると予想されています。 

旅行先に身を置いている私でさえ、それは政府が国民の税金を使って行うべき仕事ではなく、旅行者には気の毒ですが、彼等が自分の努力と自己負担によって新たな航空券を手配し直し、自力で帰国すべきであると考えるからです。

 

 

最後に、倒産により突然職を失うトーマス・クックの従業員に思いを馳せたいと思います。

同社には現在、英国内に約9000人、世界16カ国に約2万1000人の従業員がいると言われています。 もちろん彼らに罪はなく、本当にお気の毒なことだと同情に堪えません。

しかも、恐らく彼らは、今後暫くは旅行者の帰還救出作戦の矢面に立って、困惑し・苛立ち・怒りをぶちまける旅行者との対応という困難な作業に追われることになると思われます。

英運輸相のグラント・シャップス氏が今回の被害者である旅行者に対して、「スタッフに思いやりをもって接してもらいたい」と要望したと報じられていますが、私も全く同じ思いです。

 

 

大変長くなりましたが、今日はこの辺で。 お読みいただき有難うございました。

 

今回の記事は、TV報道に接し、頭に浮かんだ内容を拙速に書き下ろしたものであり、熟慮を重ねたものではなく、また調査不足から事実に反する内容が含まれていないとは言い切れません。万一そのような箇所がありましたら平にご容赦の程お願いいたします。

 

≪付録≫

その他の報道画面(Euronews)

報道画面を見るだけでも、欧州で今どのような問題が報道されているのかが判って興味深いのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

下のビデオ映像は、国連における「気候行動サミット」の実況中継映像です。

最初の20分間は待機時間と思われ、映像が出て来ません。

ご覧になる場合は、20分間先送りしてご覧下さい。

 

冒頭にグテーレス国連事務総長の演説。続いて若者代表のスピーチがあり、グレタ・トゥンベリさんのスピーチも収録されています。

そして、インドのモディ首相のスピーチが終わり、ドイツのメルケル首相が登壇する直前、すなわち1時間6分16秒あたりで、一瞬トランプ氏が拍手をしている場面が映ります。そしてメルケル首相のスピーチが終わった瞬間にもトランプ氏の姿が映ります。

このビデオは、全部で4時間17分に及ぶ長編映像です。覚悟してご覧ください。

 

 

 

このビデオは、上記実況中継の抜粋です。
冒頭と最後にトランプ氏の映像が映ります。

 

 

国連「気候行動サミット」の後半の様子です。

このビデオも4時間12分の長編です。最後にグテーレス国連事務総長の総括のスピーチがあり、スピーチメンバーが全員登壇してお開きとなります。