2019.7.8

 

ロストバゲッジ(ロスバゲ)のその後 

釣りをしていたフランス青年を釣った話

 

昨日、いつも通り散歩のついでに買い物をして港に差し掛かると、家内が

「あ、あそこで釣りをしている人がいる。」と言います。

 

見ると港の対岸で、しきりに釣り糸を垂れて、魚を釣ろうとしている人がいます。 私は

「あれはきっとボラを釣ろうとしているに違いない。チョット行って見てくる。」

と言って、グルッと橋を渡って彼のもとに行って「Hola!」と声を掛けました。
振り向いた彼はなかなかのイケメン青年です。

私が「あなたは英語を話しますか?」 と訊くと、なんと彼は

「少しはね。僕はフランス人なんだけどね。」 と答えるではありませんか!

聡明そうな美男子の彼の横顔を見て、私は閃きました!

 

そうだ、彼にシャルルドゴール(CDG)空港のアエロフロートのオフィスに電話してもらって、フランス語で状況把握と督促の交渉をしてもらおう!

 

しかし、焦ってはいけません。

先ずは何気なく会話を交わして、少し親しくなってからお願い事を切り出すのが得策です。


「何を釣っているの?」

「シーバス(鱸)を狙っているんだ。昨日ここら辺でシーバスが釣れたんだ。」

「シーバスって、あそこらへんに泳いでいるヤツかい?」

「いやいや違うよ。あそこらへんに泳いでいるヤツはボラ(鯔)で、食べられないんだ。」

「ふーん、そうなんだ。ところで一人で旅行してるの?」

「ああ、一人でバンを運転して北スペインを旅しているんだ。」

「僕はあそこのアパートに滞在しているんだけど、あなたは何処に泊まっているの?」

「僕は自分の車の中で寝ているんだ。バンだから車内は広いんだ。何処にでも行けて好きなところで泊まれるし、自由で良いんだ。」

「そりゃぁ最高だね! ここも綺麗な所だけど、サン・ビセンテ・デ・ラ・バルケラには行ったことがあるかい?とても綺麗なところだよ。」

「ウン、そこには友達がいて、素晴らしいところだから来い来いって言われていて、今晩行こうと思っているんだ。僕の趣味はサーフィンなんだけど、バルケラには波の大きなビーチもあるらしいからね。」

「ああ、メロンビーチって言うんだよ。是非行くといいよ。僕はバルケラがとても気に入って、毎年夏に滞在してもう6年目になるよ。」

「6年も通っているのは凄いね。僕はマルセイユの近くに住んでいるんだけど行ったことはあるかい?」

「ああ、何回か行ったことがあるよ。牡蠣やブイヤベースが美味しいね。」
「僕の家はそこから少し離れたカシスの近くなんだ。」

「ああ、カシスにも行ったことがあるよ。深く切り込んだカランクの眺めはとても綺麗だった。  ところで、お願いがあるんだ。僕はあなたの助けが必要なんだよ。」

「何だい?」

「実はここに来る際、CDGでロストバゲッジに遭遇しちゃったんだ。」

「エー!それは災難だったね。」

「既に1週間目になるんだけど、荷物は戻ってこないし、今何処にあるのかすら分からないんだ。だから、あなたがもし時間があるなら、僕の代わりに航空会社の係りに電話して、状況を聞いて貰えるととても助かるんだけど。」

「一週間も荷物が届かないの!? ああいいとも!お安い御用だ。僕は暇で十分時間があるから手伝ってあげるよ。」

「本当!助かるよ。それじゃ、関連書類を見せて事情を説明するから、向こうの僕のアパートに一緒に来てくれる?」

「イイとも!」

 

ということで、マティアス(Mathias)と名乗る彼は、快く私のアパートまで来てくれ、ロスバゲの書類と、私の拙い英語での状況説明を聞いた後、早速彼のスマホで、アエロフロートのCDGオフィスに電話してくれました。

親切なMathias君

 

その結果とんでもないことが判明しました。

彼の説明では、私の荷物はCDGからモスクワに送り返されているというではありませんか。

彼も呆れ果てて、「Crazy!」と肩をすぼめ、「あなたにとって悪いニュースで大変残念だ。」と同情してくれました。 彼は本当に良い奴です。

 

私の荷物が一旦リャネスの私のアパートに送られたのに、居所が判らなかったためにモスクワに戻されてしまったのか、それとも単にCDGから誤ってモスクワに送り返されてしまったのかは、彼が訊いても電話口のスタッフは『理由は判らない』と答えるだけだったそうです。

いずれにしても、また荷物がCDGに戻ったら、その時点での私の居場所を確認するために電話するとスタッフは言っていたそうです。

 

でも、彼のお陰で状況が判明し、私の腹も決まりました。

『もう何時着くか分からない荷物を未だかまだかと待つのは止めよう。戻ってくればラッキーと考えて、当てにしないで放っておこう。どうせ塩鮭や納豆や油揚げは腐っちゃってるだろうし、調味料と包丁なんか無くたってどうにかなるんだから。』

 

私はお礼に、「今晩のディナーをご馳走するよ。」と言ったのですが、彼は「今晩バルケラに行かなければならないから・・・。」と丁重に辞退しました。

有難う!の記念撮影

 

 

荷物は諦めたとは言うものの、食事の度に、『ああ、このムニエルにチョコッとポン酢を垂らしたらもっと旨いだろうに。』とか、『たまには塩鮭と納豆とみそ汁の朝食が食べたいなー。』とか、食への欲と煩悩には断ち難いものがあります。

 

それにしても、一度は私のスーツケースに入れていた大金のユーロを、虫の知らせで念のため手持ちのリュックに入れ替えていたことと、一日おきに飲まなくてはいけない薬、長袖シャツや防寒ヤッケ、散髪用のバリカン、稲庭饂飩などを、重量制限オーバーの関係で家内のバッグに詰め替えていたことが不幸中の幸いでした。

 

でも・・・「つゆの素」無くしてどうやって饂飩を食べればいいんだろう・・・?

 

やっぱり食の煩悩に打ち勝てない私です。