仕事が終わり帰宅する。そして今日も俺はアコの部屋へ行く。
何日もこうしてると、段々慣れてきちゃってんのよ。
アコがいないこの部屋で、
あの時こうしてれば…って後悔して、
今どこで誰と何してんのかな…って切なくなって、
戻って来てくんねぇかな…ってお前求めて、
そやって過ごす毎日に。
変なもんだよね、そんなことに慣れてくなんて。
慣れたところで傷は癒えないけどね、全然。むしろ深くなってく、日に日に。
んでその傷にすげー沁みるのよ、たまにお前との思い出とか、お前の声がフッて頭ん中降りてきて。
やっと慣れてきたんだけど…。
数日後…
いつものようにアコの部屋に向かって、鍵を開けて、玄関に足を一歩踏み入れた瞬間、
なんとも言えない違和感を感じた。
ん…?
リビングまで入って行って、その違和感に気が付いた。
……アコの荷物がなくなってる。
元々この部屋は親戚の家だかって言ってたから、家具とかはそのまんまなんだけど、それ以外のアコの物がなくなっていた。
『アコ、来たのか。』
ふぅーーーーー
深く大きなため息が出た。
この日が来ることは予測できていた、遅かれ早かれ。
ついにきたか…。
アコの物がなくなった今、ココはもうアコの家じゃなくなったっつーことで。
俺は、玄関までバックを取りに行くと、その中にこの部屋に置いてある自分の物達を詰めた。
全て詰め終わったことを確認すると、
玄関へと続く戸の前へ歩いて行き、ゆっくりと回れ右してリビングを振り返った。
ここへ来ることはもうない。
アコとの思い出がたくさん詰まったこの部屋。
目を瞑るとすぐにでも蘇る、幸せだと感じた日々。
「カズさん」
「カズさん?」
俺を呼ぶアコの声。笑った顔。怒った顔。泣いた顔。
初めて繋がったあの日。
最後に繋がったあの日…。
目ぇ開けたら全部夢で、
「なんちゃって」なんつって、笑った顔のお前がいたらいいのに。
現実には起こり得ないことを勝手に妄想して、俺は更に苦しくなった。
瞑った目の隙間が滲んでくる。
唇を噛んでそれがこぼれ落ちないように堪える。小刻みに体が震えていた。
………ようやく落ち着いた俺は、
最後の電気を消し、アコと過ごしたこの部屋を静かに後にした。
鍵を閉める手が震えていた。