薄暗い部屋の中
玄関の方で物音がした。
ソファからガバッと起き上がり
『アコッ!!』
そう叫んで玄関に向かって走った。
玄関まですぐそこの距離なのに
いくら走っても辿り着かない。
足が空回りして、宙をもがくように全然進まない。
やっとの事で玄関へ続く扉に手を掛け、力を込めた。
『アコッ!!』
今にも玄関から出て行きそうなその人影が、俺の声にコチラを振り返り立ち止まる。
『待って!行くなよ!戻って来いよ!!』
必死に叫んだ。
その俺の呼びかけに優しく微笑んだように見えたその人影は、
「それじゃあね。また逢えたらいいね…。またね。」
そう言って出て行ってしまった。
なんでだよ!!
『アコッ!!』
………!
俺はソファの上で汗びっしょりの状態で寝ていた。
またこの夢か。
アコがいなくなったあの日から、毎日この夢を見る。
この夢で目が覚め、そのあとは眠れない…。
いっそ、寝ない方が楽なんじゃねぇかって…そう思い始めてるよ。
.
仕事へ向かう車内。
久保っちから、あの名刺の奴の報告があった。
美希さんが「アコと急に連絡が途絶え心配して手掛かりを探している」と接触してくれたそうだ。
最初はシラを切っていたあいつも美希さんのしつこさに根負けして、
自分のことを全く相手にしないアコにイラッとして、ドラマやCMの話がなくなったとかファンが離れていくとか、余計な情報を伝えた事を吐いたらしい。
「それだけですよ。この事とその事が関係してるなんて分かんないじゃないですか。私のせいにしないで下さいよ。」
そう言って去っていったと。
俺はその話を聞いてほぼほぼ間違いないと思った。
あの日のアコの
「今日の帰り、○○社の人に話しかけられて…」
「んーん。何も言われてないよ。私は、大丈夫」
そう話してた時の様子のおかしさ。
そしてアコはいなくなった。
やっと分かった…
俺の中で全てが繋がった。
分からないかもしんない、他の奴には。けど俺には分かる。
そういう子なんだ、アコは。
ごめんよ…アコ。
気付いてたのに…お前の様子おかしいこと。
なのに……
お前が居る暮らしが当たり前んなってたから
お前のいない毎日がこんなに苦しいなんて…
たった数日のことなのにな。もう随分会ってない気ぃするよ。
携帯のこの写真…あの時二人で撮った頃がもう懐かしく感じちゃってんの。
どこ行っちゃったんだよ…
アコ…戻って来てくんねぇかな。