「やっぱり。山下亜子さんですよね。◯◯社の秦野です。ちょっとお話聞かせてもらえませんか?」
それはこの間も話しかけてきた記者らしき人だった。
「わたし、関係ありませんから。」
そう言って去ろうとしたが、その人はしつこく付いてきた。
「関係ないなら“関係ない”って私の前で真実をお話して下さいよ。
“噂の一般女性Aさんが話す真実!熱愛報道は誤解⁉︎”
ほら、こんな記事が出れば丸く収まるわけでしょう?」
「それすら関係ありません。」
「いや~それは残念だ。本人からお話を聞ければ、訂正の記事でもなんでも書けるんですけどね。」
「もういい加減にして下さい!」
その後もその人はしつこくいつまでも付いてきて話しかけてきた。
あまりのしつこさに苛立ちがつのる。その時、交番が目に入った。
「あそこ、行きますよ。」
交番を指差して言うと、その秦野という人は 明らかに表情を変えチッと舌打ちすると、
「気が変わったら、こちらにご連絡下さい。」
そう言って名刺を渡してきた。私がその名刺を受け取ると、私の肩を掴んで止まらせ不機嫌な表情のまま耳元に顔を近づけ、
「あんたのせいでどんだけ損失があったか、知ってるか?二宮は、主演候補に上がってたドラマの話がなくったそうだよ。あ、それと、決まっていたCMも白紙らしい。これからツアーもあるのに、これでファンが離れていくって可能性もあるよな。あんたにとっちゃ関係ない話かもしれないけど、あいつらからしたら迷惑極まりないだろうな。じゃ。おつかれさーん。」
そう言うと秦野は去っていった。
私の頭の中は真っ白になった。
そして秦野の言葉ばかりがグルグル回る。
秦野と別れてから、自分がどの様にして自宅まで帰り着いたか記憶にない。
気付いた時には自宅でパソコンを開き、マウスを必死にクリックして画面を凝視していた。
しかしそれは、開けてはいけないパンドラの箱だった。
パンドラの箱の中には秦野が言っていた通り、決まっていたCMが熱愛報道を受けて白紙になった話が載っていた。
ドラマの話は見つけられなかったが、“二宮和也 ブログ”というワードがありそこをクリックすると…カズさんのファンの人達のブログに行き着いた。
応援してくれている人、気にしないと言っている人もいたけれど、多くのファンの人達がショックを受け嘆き悲しんでいた。
ショックでツアーに参加できない そう書いている人もいた。
秦野の言っていたことが本当はデタラメなんじゃないか。そんな一縷の望みをかけていた私は、完全に打ちのめされた。
きっとカズさんは私のせいで、とても肩身の狭い思いをしている…
カズさんにとっても、
嵐にとっても、
ファンの人達にとっても、
事務所にとっても、
私とカズさんが一緒にいることで、得をしている人は誰一人としていない…
私はカズさんに守られてばかりで、カズさんのことを1度でも守れたことがあったかな…
強くならなきゃ…
私は大丈夫…
私は大丈夫…
大丈夫………。
大丈夫…