少しでも気を抜くとフラフラする。いわゆる、飲み過ぎ…。
いや~それにしても楽しかったな。あ、そだ。カズさんに連絡しとかなくちゃ。
グレープフルーツジュースと明日の朝食用のパンを買う為、いつものコンビニに寄り、そこで電話することにした。
「あ、もしもし。カズさん~。お疲れ様。」
『おぉ、お疲れ。って、アコ結構飲んでんね。』
「ん~そうね。気抜くとまっすぐ歩けないかも。あはは。でね今ね、いつものコンビニに寄って、買い物したら帰るとこ。」
『あ?まだ家じゃないの??おま、そこいて。もうすぐ着くから。』
「え?そうなの?分かった。待ってる。」
買い物を終え外で座って待ってると、見慣れたワンボックスが向こうの路地に停まった。
それが去ると、暗がりからカズさんが歩いてこちらへ向かってきた。
私の横を通り過ぎるときに一瞬目が合ったが、そのまままた視線を前へと戻しコンビニへと入って行った。
私達は、外では会ってはならない。それがルール。
と、カズさんからメールが来た。
≫俺が電話したら先に歩き始めて。
>はーい。
携帯を握り締めて待っていると、着信がきた。
『そろそろいーよ。』
「はーい。」
私はゆっくりと歩きだした…というよりゆっくりとしか歩けない。
カズさんと他愛もない話を電話でしながら、ゆっくりと自宅へと進む。
「なんか、こうやってここを2人で歩くと、出会った時を思い出すね。」
『だな。“あなたのハンバーグ弁当”でしょ(笑)』
「そうそう。私のハンバーグ弁当!カズさんが持ってっちゃったの!」
『邪魔だったのよ、あなた。俺のハンバーグ弁当の前に突っ立ってんだもん、ずっと。一応少し待ってたのよ?あん時。けど動かない、全然。』
「はは!そうだったの?待ってたなんて全然気付かなかったよ~。
あとさ、ストーカーから守ってくれたよね!あの時、ビックリしたな~。いきなり『なんで先帰んだよ』だっけ?」
『あったね~そんなこと。あいつのお陰でもあんのね、俺たち。そう思うと(笑)
ところであなた、足元フラついてるけど大丈…』
カズさんの心配する言葉が聞こえたのと同時くらいに、私は数歩よろけて横にあった塀にもたれかかるように止まった。
『おい!大丈夫か??』
後ろを歩いていたカズさんが駆け寄ってくる。
「あはは。よろけちゃった。大丈夫だよ~。イテッ。あ、ちょっと擦りむいちゃってるけど、平気平気。」
『平気って…血ぃ出ちゃってんじゃん。ったく。飲み過ぎなんだよ。』
カズさんはそう言うと私の腰に手を回し、支えるように歩き始めた。
「大丈夫だよー。家までもう少しでしょ。もう大丈夫。真っ直ぐ歩くから。」
しかし結局カズさんは、家に着くまで私を支えて歩いた。
エレベーターに乗ると、カズさんは私の部屋の階だけを押した。
「1人で大丈夫だよ?」
するとカズさんは『はぁ~。』と溜息をついたあと、
『考えてもみなさいよ。あなたを1人で帰して自分んち帰ったとして、落ち着いて過ごせると思う?ドタン、バタン、ガシャン…よ?やっぱ付いてきゃ良かったってなるのが目に見えてんじゃない。』と言った。
「………。」
『ね、反論できないわけよ。言うこと聞きなさい。』
「……はい。ごめんなさい。」
『ふふ。素直でよろしい。
あ、ほら鍵は?』
「ん?鍵~?たぶん…あ、あったあった。じゃーん!」
『じゃーん!じゃないよ。ほら、貸して。』
カズさんは私から鍵を受け取ると、鍵を開けて
『はい、入って。』
と私を先に中へ入れてくれた。
『鍵、いつもんとこ置いとくかんな。』
「うん、ありがとう……」
家に入った途端ホッとしたのか、私の記憶はここまで…
目が覚めると私は、きちんとメイクも落とし、歯磨きもして、コンタクトも外し、着替えもして、自分のベッドで寝ていた。